パン作り

秋のパン作り|気温20℃前後は黄金期、発酵時間はこう変わる

2026年09月12日 読了時間 約7分
焼きあがったパンが網の上で冷めている。表面に照りが残っている

夏のあいだ、生地から目が離せませんでした。少し洗い物をして戻ったら、もうボウルの縁を越えている。あの緊張が、9月の半ばあたりからふっとゆるみます。

気温が20℃台前半に落ち着く秋は、家庭のパン作りにとっていちばん組み立てやすい季節です。発酵はゆっくり進み、生地はだれず、バターは溶けない。ただし夏の設定のまま焼くと、今度は「膨らまない」の側に振れます。この記事では、夏のレシピから秋のレシピへ切り替える場所と、室温が15℃を切る前にやっておきたいことを紹介します。

レシピの「60分」は、ある室温の上に書かれている

レシピに書かれた発酵時間は、それ単独では意味を持ちません。たとえば基本の食パン配合の目安時間は、捏ね上げ温度27℃・発酵環境27℃・湿度75%といった条件を前提に組まれています。この前提が動けば、時間も動く。

どれくらい動くのか。捏ね上げ温度が1℃ずれると、発酵時間は約20分変わるとされます。夏の台所で捏ね上げが30℃まで上がっていたなら、レシピの60分はもう別の数字です。逆に秋の朝、24℃で捏ね上がった生地に60分をあてがえば、まだ膨らみきっていない。

「レシピ通りにやったのに違う」の正体は、たいていここにあります。腕でも粉でもなく、室温です。季節ごとの考え方そのものは季節別の発酵コントロール完全ガイドにまとめてあります。

夏の設定から戻す、3か所

夏に過発酵をしのぐためにやっていたことは、どれも「発酵を遅らせる」方向の細工です。涼しくなったら、それをひとつずつ外していきます。

  • 仕込み水を冷やすのをやめる。氷水や冷蔵庫の水は、秋には効きすぎる
  • 減らしていたイーストを標準へ戻す
  • 生地を見に行くタイミングを後ろへずらす。夏の「30分で一度のぞく」は早すぎる

ある教室では、低温長時間発酵の生地で、季節ごとにイーストと仕込み水温をこう切り替えています。粉200gに対する設定です。

季節 イースト(粉200gに対して) 仕込み水の温度
春(3〜5月) 1g 30〜35℃
夏(6〜8月) 0.5g 20〜25℃
秋(9〜11月) 1g 25〜30℃
冬(12〜2月) 1g 35〜40℃

夏の0.5gから秋の1gへ、倍に戻る。水温も20〜25℃から25〜30℃へ上がる。数字の見た目は小さいのに、この二つを夏のまま置き去りにすると、秋の生地はいつまでも動きません。

仕込み水の温度は、計算で出せる

狙う捏ね上げ温度の目安は、当日焼く食パンやロールパンで27℃、フランスパンなどのハード系で25℃、冷蔵で一晩寝かせるなら23℃以下です。ここへ着地させるための水温は、次の式で出せます。

(捏ね上げ温度 − こねによる上昇温度)=(粉温 + 室温 + 仕込み水温)÷ 3。上昇温度はこね方で変わりますが、手ごねなら4℃前後を置いて計算します。

室温22℃、粉も同じ22℃、上昇4℃、狙いは27℃。あてはめると仕込み水は25℃、手をつけてぬるいとも冷たいとも感じない水です。同じ計算を夏の室温30℃でやると水温は9℃になり、冷水が要る理由がわかる。室温15℃の冬なら39℃、もう湯の領域です。秋は、水道の水がそのまま使える数少ない季節でもあります。

折り込みと成形が、急に楽になる

秋のいちばんのごほうびは、バターを扱う仕事です。クロワッサンの生地は捏ね上げ温度が約15℃と、ふつうのパンよりずっと低いところを狙います。折り込みのあいだは冷蔵で30分から1時間休ませ、それを2回。作業中は油脂が溶けないよう、室温や手指の温度が高くなりすぎないように、と念を押されます。

夏はこの注意書きが台所全体との戦いになりますが、20℃前後の部屋ならバターは素直です。折り込んだ層が、麺棒の下で崩れずについてくる。成形も同じで、生地がだれずに張りを保つぶん、丸めが決まる。夏にあきらめたものを、秋にもう一度出してみてください。

時計ではなく、生地の顔で決める

秋は発酵がゆるやかに進むので、レシピの分数はいっそう当てになりません。かわりに、見て触って決めます。

  • まず目で見る。生地が2〜3倍にふくらんでいるか
  • 打ち粉をつけた指を、第二関節まで差し込んで抜く
  • 穴が押し戻され、弾力が強い:発酵不足。5〜10分ずつ足して様子を見る
  • 穴がそのまま残る、または少しふさがる程度:ここが適正
  • 全体がしぼむ、表面に気泡が浮く:過発酵

この判定がいちばんやりやすいのが秋です。進みがゆっくりなぶん、適正でいられる時間の窓が広い。夏の数分刻みの綱渡りを思い出すと、ずいぶん気が楽になります。

室温が15℃を切る前に、やっておきたいこと

秋は長くありません。室温が15℃を下回りはじめると室温発酵だけでは進まなくなり、オーブンの発酵機能や、家のなかの暖かい場所を借りることになります。発酵機能の設定は30〜40℃、寒い時期は35〜40℃あたりが目安です。

  • オーブンの発酵機能を、庫内温度計で一度実測しておく。表示と実際は同じとは限らない
  • 捏ね上げ温度を毎回測って書き留める癖をつける。冬に効いてくる
  • 粉を北側の棚や冷たい床に置いていないか確かめる。粉温は水温の計算にそのまま効く
  • 冬に必要な35〜40℃の湯を、温度計なしでも作れるようにしておく

夏に冷蔵庫へ避難させていた材料も、この時期に置き場所を見直します。何をどこにしまうかは夏の粉とイーストの保存で書いた通りで、秋はその夏仕様をほどく季節でもあります。

季節は敵ではなく、レシピのいちばん外側の条件

同じレシピが夏と冬でまるで違う顔をするのは、レシピが不親切だからではありません。書かれていない前提が、台所ごとに違うだけです。室温、粉の温度、水の温度、手の熱。そのうち自分で動かせるのは水温とイーストの量で、動かせないのが季節です。

だから秋は、動かせない側がいちばん味方をしてくれる時期になります。20℃前後の部屋で、生地はゆっくり息をする。手を止めて眺めていられる余裕が、この季節にはあります。冬が来る前に、焼きたかったものをひとつ。

参考情報源

← 前の記事
発酵器なしで発酵適温を作る7つの方法|オーブン発酵機能の使い方も