「発酵器 パン」で検索すると、四角い箱がずらりと並びます。ほしい。でも買う前に、いちど台所を見回してみてください。
発酵器がやっていることは、そんなに難しいことではありません。温度を一定に保った、湿った小部屋をつくる。それだけです。この記事では、オーブンの発酵機能から発泡スチロール箱、こたつまで、家にあるもので25〜35℃を作る7つの方法を、作れる温度帯と気をつけることつきで紹介します。
発酵器の正体は、温度を一定に保つ箱
パン生地の発酵に必要な環境は、はっきりしています。おおむね30〜35℃、湿度は80%あたり。この条件なら50〜60分ほどで、生地はもとの2〜2.5倍にふくらみます。
つまり要るのは、断熱された箱と、ゆるやかな熱源と、湿り気の三つ。発酵器はこれを電気で自動化した道具で、逆に言えば、箱と熱源さえ用意できれば代用は効きます。ただし手動になるぶん、温度が下がっていないかを自分で見に行く必要がある。そこだけが代償です。
季節ごとに室温がどう動くかは気温・湿度コントロール完全ガイドにまとめてあります。夏の、25℃以上ある台所なら、そもそも何も要りません。
| 方法 | 作れる温度・熱源 | 気をつけること |
|---|---|---|
| オーブンの発酵機能 | 30〜40℃ | 焼成の予熱と場所を取り合う。乾燥対策は必須 |
| 湯せん(ボウルに湯) | 40〜50℃の湯を熱源に | 熱すぎる湯は過発酵のもと。冷めたら取り替える |
| 発泡スチロール箱・クーラーボックス | 30〜35℃ | 20〜30分で温度を見に行く。湯たんぽの直置きは避ける |
| 炊飯器の保温 | 庫内は約60〜75℃ | 中には入れない。天面のあたたかさだけ借りる |
| こたつ | 弱で35〜40℃、強で60℃超 | ヒーターの真下を避ける。かなり乾く |
| ヨーグルトメーカー | 25〜70℃を1℃刻み | 付属容器が700ml前後と小さい |
オーブンの発酵機能は、癖を知れば一番強い
多くの家庭用オーブンには発酵機能がついていて、30〜40℃の範囲で庫内を保ちます。使い分けの目安はこうです。
- 30℃:時間に余裕があるとき。バターや卵の多い生地に
- 35℃:標準。迷ったらここ
- 40〜45℃:急ぎたいとき、天然酵母を使うとき
時間の目安は、ソフト系で一次30〜50分、二次20〜40分。ただし癖が二つあります。
ひとつは乾燥です。庫内は風が回るので、覆いなしだと表面が張ります。生地にふんわりラップ、固く絞った濡れ布巾、庫内の空いたところに熱湯を入れたコップ。このどれかは必ず添えてください。スチーム発酵の機能があってもなお乾く機種があるので、乾いたら足す。
もうひとつは、焼成の予熱と場所を取り合うことです。二次発酵をオーブンでとると、予熱を始めた瞬間に生地を外へ出すことになります。予熱が終わるまでの10〜20分、生地は室温で発酵し続けている。だから二次発酵は、目標より10〜15分早めに切り上げる。ここを勘定に入れていないと、毎回どこか行きすぎたパンになります。二次発酵の時間そのものは二次発酵は常温で何分?に種類別の表を置きました。
箱と熱源で作る:湯せん、発泡スチロール、クーラーボックス
- 湯せん:大きめのボウルに40〜50℃の湯を張り、その上に生地のボウルを重ねます。生地のボウルの底が湯に触れないよう浮かせること。熱すぎる湯は厳禁で、あっという間に行きすぎます。冷めたら取り替える
- 発泡スチロール箱:湯を入れたカップと生地を一緒に入れて、蓋をする。断熱がよく効くので温度が保ちやすい。20〜30分して下がってきたら湯を替える
- クーラーボックス・保冷バッグ:温めた湯たんぽを底に置き、布を一枚かぶせてから生地を入れます。30〜35℃を作りやすい方法です。湯たんぽの直置きだけは避けること。生地の底だけ煮えます
この三つに共通するのは、熱源が冷めていくということ。置きっぱなしにできない代わりに、箱の大きさと湯の量で温度を加減できます。中に温度計を一本入れておくと、次から自分の家の再現ができるようになります。
余熱を借りる:炊飯器、こたつ、ヨーグルトメーカー
- 炊飯器:保温中の庫内は約60〜75℃あります。ごはんが傷まないようにと決められた温度なので、生地を入れたら終わりです。借りるのは天面のあたたかさだけ。鍋敷きを一枚のせて、その上にボウルを置く
- こたつ:内部は弱い設定で35〜40℃、強くすると60℃を超えます。設定は必ず低めにして、ヒーターの真下は避けて隅に。中はかなり乾くので、覆いは念入りに
- ヨーグルトメーカー:25〜70℃を1℃刻みで、30分から長時間まで設定できる機種があります。温度の正確さはこの中で随一。ただし付属容器は700ml前後と小さく、丸めた小玉や少量の生地向けです
暖房のそばや、湯上がりの浴室もよく使われる場所です。どちらも温度が読めないので、まず温度計を置いてから使ってください。
どの方法でも、温度計ひとつで景色が変わる
七つ並べましたが、うまくいくかどうかを分けるのは、方法の選択ではありません。自分の家のその場所が何度なのかを、一度でも測ったことがあるかどうかです。
オーブンの発酵機能の表示、こたつの弱、湯を張ったボウルの上。どれも「たぶん35℃くらい」で使われていて、実際に測ると思っていた温度と離れていることがあります。庫内温度計を一本、箱の中に転がしておく。それだけで、レシピの数字が自分の台所の言葉に翻訳されます。
逆に言えば、測ってさえいれば、箱は何でも構わないということです。
つまずきやすい場所と、その直し方
- 途中で温度が落ちて発酵が止まる:湯が冷めています。20〜30分で一度見に行く習慣を
- 表面がかさついて皮を張る:湿り気が足りません。濡れ布巾か、湯のカップを足す
- 底だけ色が変わる、生地が溶ける:熱源に近すぎます。布を一枚はさむか、位置をずらす
- いつも行きすぎる:予熱の時間を勘定に入れていないか、湯が熱すぎるか。だいたいこの二つ
- 夏なのに置き場所が見つからない:25℃以上あるなら常温で十分。箱に入れないほうが読めます
専用の発酵器は、たしかによく働きます。ただ、その働きの中身は「温度を一定に保つ」だけ。発泡スチロールの箱と、コップ一杯の湯と、温度計が一本あれば、今夜のところは足ります。
参考情報源
- 日本パン食品:こたつ・湯せん・発泡スチロール箱それぞれの温度と手順、発酵の基本条件
- melkpan:オーブン発酵の温度別の使い分けと時間、予熱のあいだも発酵が進むこと、乾燥対策
- パン教室FUKURA:保冷バッグと湯たんぽの組み合わせ、湯たんぽを直置きしない理由、湯せんの湯温
- タイガー魔法瓶:炊飯器の保温温度が約60〜75℃に決められている理由
- Vitantonio:ヨーグルトメーカーの温度設定範囲(25〜70℃)と時間設定、付属容器の容量
