「こねるのが大変」「高加水の生地がベタついてまとまらない」——そんな悩みを解いてくれるのが、ストレッチ&フォールド(stretch and fold)という手わざです。台に打ちつけて長くこねる代わりに、発酵の途中で生地を「のばして・たたむ」だけ。力もいらず、ベタつく生地でも扱えて、それでいてしっかりした張りのある生地に育ちます。
このコラムでは、ストレッチ&フォールドとは何か、なぜ生地が強くなるのか、基本のやり方と回数・間隔、そして日本の家庭で取り入れるコツまでを、出典を確認しながら整理します。
※トップの写真はイメージです(手で生地を扱う様子)。ストレッチ&フォールドそのものの動作とは異なる場合がありますが、手で生地を扱う点が共通します。
ストレッチ&フォールドとは何か――こねない生地作り
ストレッチ&フォールドは、一次発酵(バルク)の途中で、生地を引きのばして折りたたむ作業を、数回くり返す手法です。最初にざっと混ぜたら、あとはこね台で延々とこねる必要はありません。発酵させながら、30分おきなどの間隔で「のばして・たたむ」を行い、少しずつ生地に力をつけていきます(The Perfect Loaf)。
機械や手で長くこねる方法に比べて力がいらず、とくにバゲットやチャバタのような水分の多い(高加水の)生地で威力を発揮します。手にくっついて扱いづらい生地でも、濡らした手でやさしく扱えるのが利点です。
図:こねる vs ストレッチ&フォールド
なぜ生地が強くなるのか――グルテンと気泡の科学
のばして折りたたむだけで、なぜ生地が強くなるのでしょうか。鍵は、こねるときと同じグルテンの網目にあります。
生地をのばすと、グルテンの繊維が引きそろえられて強くなります。そこへ折りたたむと、層と層の間に空気が抱き込まれます。この抱き込まれた空気のポケットが、焼き上がりのクラム(中身)の気泡のもとになります。つまり、こねる作業を「のばす=グルテン強化」「たたむ=気泡づくり」に分解して、発酵の力も借りながら少しずつ進めているわけです(Tasting Table)。
さらにうれしい副産物があります。折りたたむと、大きくなりすぎた気泡が分割されてそろい、生地全体が再びよく混ざるため、温度や発酵のムラがならされます。一部だけ早く発酵してしまう、といった偏りを防げるのです(King Arthur Baking)。
図:のばす・たたむで起きること
基本のやり方と、回数・間隔
やり方はシンプルです。発酵中の生地のふちを片手でつかみ、上に引きのばして、中央へ折り返します。容器を90度ずつ回しながら、これを四方(4辺)くり返せば、これで1セット完了です(Weekend Bakery)。
回数とタイミングの目安は、一次発酵の前半に30分おきで3〜4セットほど。最初のセットは生地がまだゆるいので少ししっかりめに、後のセットは生地が張ってくるのでやさしく扱うのがコツです。やりすぎると生地が締まりすぎたり気泡をつぶしすぎたりするので、「張りが出てきたな」と感じたら切り上げます(Busby’s Bakery)。
応用として、生地を持ち上げて巻き取るように扱う「コイルフォールド」や、台に軽くたたきつけて折る「スラップ&フォールド(フレンチフォールド)」もあります。まずは基本の四方折りに慣れてからで十分です。
図:1セット=四方を折る
図:時間割の目安
日本の家庭での活かし方
ストレッチ&フォールドは、こねるスペースや力に自信がない人ほど取り入れやすい手法です。ボウルの中だけで完結できます。
1. 濡らした手で扱う。 高加水の生地は手にくっつきやすいので、作業のたびに手を軽く水で濡らすと、生地が張りつかずきれいに扱えます。打ち粉を足しすぎないのがコツです。
2. ボウルの中でそのまま折る。 台に出さなくても、発酵容器の中で「ふちをつかんで上にのばし、中央へ折る→容器を回す」をくり返せばOK。洗い物も最小限です。
3. タイマーで30分おきに。 1セットごとに30分の休み(発酵)をはさみます。スマホのタイマーをかけておき、3〜4セットを目安に。後半ほどやさしく。
4. 生地の様子で切り上げる。 セット数は絶対ではありません。生地に弾力と張りが出て、表面がなめらかにつやっとしてきたら、それ以上は無理に折らず発酵に任せます。
5. 食パンや丸パンでも有効。 高加水のパンだけでなく、ふだんの食パンや丸パンでも、こねを軽くしてストレッチ&フォールドを足すと、扱いやすさと膨らみのバランスがとりやすくなります。
🍞 ストレッチ&フォールド・チェック 🍞 手は水で濡らして扱う(打ち粉を足しすぎない) 🍞 ボウルの中で四方を折って1セット 🍞 30分おきに3〜4セットが目安 🍞 後半のセットほどやさしく 🍞 張りとつやが出たら切り上げて発酵に任せる
ストレッチ&フォールドは、「がんばってこねる」から「時間に手伝ってもらう」へと、パン作りの力の入れどころを変えてくれる手法です。次に生地を仕込むときは、こね時間を少し短くして、その分を数回の「のばして・たたむ」に置き換えてみてください。手を汚さずに、生地がだんだん張ってくる手ごたえを楽しめるはずです。
