道具レビュー

発酵かご(バヌトン)の使い方|模様の出し方とお手入れ

2026年06月22日 読了時間 約13分
籐製の発酵かご、バヌトン

私が初めてバヌトン(発酵かご)を手にしたとき、正直「これ、本当に要る?」と思いました。生地はボウルでも発酵できるし、わざわざ専用のかごを買う理由がピンと来なかったのです。けれど一度使ってみて考えが変わりました。焼き上がったパンの表面に、くるくると渦を巻いた美しい同心円が浮かんでいたのです。あの瞬間の「自分でこれを作れたんだ」という小さな感動は、今でもよく覚えています。

ただ、最初の数回は失敗もしました。生地がかごにべったり張り付いて、ひっくり返した瞬間に表面がぐしゃっと崩れたり、お手入れを怠ってかごにうっすらカビを生やしてしまったり。今回は、私自身がつまずいた点も含めて、バヌトンの役割・使い始め・生地の入れ方・焼成までの流れ・お手入れまでを、できるだけ正直に書いていきます。

バヌトンって、そもそも何をする道具?

バヌトン(banneton/ブロートフォルムとも呼ばれます)は、成形した生地の最終発酵(二次発酵・プルーフィング)に使うかごです。役割は大きく二つ。ひとつは、ふくらむ生地を横ではなく上へと支えること。やわらかい高加水の生地ほど放っておくと平たくダレてしまいますが、かごが壁になって形を保ち、結果として高さとボリュームのあるパンになります(King Arthur Baking)。

もうひとつが、あの模様です。籐(ラタン)の編み目が発酵中の生地表面に転写され、焼き上がりにらせん状・同心円状の跡が残ります(Busby’s Bakery)。布のライナーを敷いて使えば模様は付きませんが、籐の編み目をむき出しのまま使うと、あの「いかにも手作りのハード系パンらしい」渦巻きが浮かび上がるわけです。さらに、通気性のある籐は生地表面をほどよく乾かし、焼成時にパリッとしたクラスト(皮)が出やすくなる、という効果もあります。ボウルやざるで代用する人もいますが、この「形を支える・水分を逃がす・模様を付ける」の三つを一台でこなしてくれる点が、専用かごならではの強みだと感じています。

バヌトンの2つの役割 横に広がらず上へ支える 編み目がらせん模様に

まずは一台、丸型18cmあたりが一人〜二人分の食卓パンにちょうどよく、最初の一台におすすめです。

発酵そのものをもっと深く知りたい方は、発酵×温度の完全ガイド発酵とはも合わせてどうぞ。

使い始め:新しいバヌトンは「目を作る」ところから

買ったばかりの籐のかごは、編み目がツルッとしていて、いきなり生地を入れると張り付きやすいです。最初に「目(編み目)に粉の膜を作っておく」ひと手間で、後がぐっと楽になります。

私のやり方はシンプルです。霧吹きでかご全体を軽く湿らせ、そこへ打ち粉をたっぷり振り、指で編み目の溝にすり込みます。余分な粉をトントンと叩き落として、完全に乾かしてから初使用へ。この「ミスト+打ち粉」で薄い膜ができ、これが生地離れの土台になります(Busby’s Bakery)。最初の数回は粉を多めに使い、使い込むうちに膜が育って、だんだん少ない粉でも離れるようになっていきます。

初回の使い始め 3ステップ ミスト ①霧吹きで 軽く湿らせる 打ち粉 ②打ち粉を振り 溝にすり込む 乾燥 ③余分を払い 完全に乾かす

打ち粉は米粉を混ぜると離れやすい

ここが地味に効くコツです。打ち粉に米粉(または製パン用の細かい米粉・ライ麦粉)を混ぜると、生地離れが目に見えて良くなります。理由は、米粉がグルテンを含まず、小麦粉より吸水がゆっくりだから。小麦粉だけだと生地の水分を吸って「のり」のように張り付きやすいのですが、米粉は湿気を吸いにくく、生地とかごの間にサラッとした境界を保ってくれます(Crucible Cookware)。

私は米粉と小麦粉を半々で混ぜたものを「バヌトン専用打ち粉」として小瓶に常備しています。全部を米粉にする必要はなく、半々でも十分に効果を感じられます。

生地の入れ方:とじ目は「上」に

成形した生地をかごに入れるとき、いちばん大事なのが向きです。生地のとじ目(綴じ合わせた、つるんとしていない側)を上にして入れます。

最初はこれが直感に反するんですよね。「きれいな面を上にしたい」と思ってしまう。けれど、かごの中で下になっている滑らかでピンと張った面が、焼くときにひっくり返って上面(=模様の出る面)になります(King Arthur Baking)。だから、とじ目を上にしておくと、焼き上がりは継ぎ目の見えない、張りのあるきれいな面が表に出るというわけです。逆にとじ目を下にして発酵させてしまうと、せっかくの滑らかな面に編み目模様が付かず、上面にとじ目の跡やシワが出てしまいがち。私はここを取り違えて、模様がぼんやりしたパンを焼いたことが何度かありました。成形のときに、表面をしっかり張らせて「つるんとした面」と「とじ目」をはっきり作っておくと、入れる向きで迷わなくなります。

生地を入れたら、最終発酵へ。室温で進める場合も、冷蔵庫でゆっくり一晩おく場合もあります。発酵の見極めや温度の考え方は発酵×温度の完全ガイドが詳しいので、不安な方はそちらを。生地が思うように膨らまない・離れない、といった悩みは失敗の原因と対策も参考になります。

とじ目を上に → 焼くと反転して模様面が上 発酵中(かごの中) ↑ とじ目(上) 滑らかな面は下 ひっくり返す 焼成(天板の上) 模様面が上に とじ目は下(隠れる)

かごから出す → クープ → 焼成の流れ

最終発酵が終わったら、いよいよ焼成です。私はいつも少し緊張する場面でもあります。

天板やシート(または予熱した鋳鉄鍋)を用意し、かごを生地ごと逆さにして、ストンと落とすように生地を移します。このとき迷ってモタモタすると張り付きやすいので、思い切りよく一度で。表面に粉が多く残っていたら、刷毛でそっと払うと模様がきれいに見えます。

移したら、焼く直前にクープ(切り込み)を入れます。とじ目を上にして発酵させた生地は、上面に自然な弱点(割れ口)がない状態なので、自分で切り込みを入れて窯の中での膨らむ方向を作ってあげるわけです(King Arthur Baking)。クープには専用のクープナイフ(ラム)があると、すっと深く一発で入れられて失敗が減ります。

なお、かごから生地を移す作業や、台の上での取り回しには、薄くて当て込みやすいドレッジ(スケッパー)が一枚あると本当に便利です。

そして焼成。家庭のオーブンでもしっかり焼けますが、蒸気を閉じ込められる鋳鉄のコンボクッカーやダッチオーブンを使うと、クラストの立ち上がりとクープの開きが段違いになります。ハード系を本気で焼きたい方は検討の価値ありです。

屋外で焼くキャンプパンが好きな方は、ダッチオーブンでキャンプパンもどうぞ。道具まわりを一度ぜんぶ見直したいなら道具一覧が便利です。

出す → クープ → 焼成 ① かごから出す 迷わず一発で反転 ② クープを入れる 焼く直前にスッと ③ 焼成 蒸気で皮を立ち上げる

使用後のお手入れ:洗剤を使わない、こすりすぎない、しっかり乾かす

最後に、長く付き合うためのお手入れです。私が最初にカビを生やしてしまった反省も込めて、ここはていねいに。

籐(ラタン)は多孔質で水分をよく吸います。だから日常のお手入れは「水につけない・洗剤を使わない・乾いてからブラシで払う」が基本です。とくに洗剤(石けんや食器用洗剤)は、天然繊維を傷めたりパンに匂い移りする原因になるので使いません。長く水に浸したりゴシゴシ洗ったりするのも、繊維がふやけて編みがほどけたり、内部に残った水分からカビが生える元になるので避けます(America’s Test Kitchen)。

なお、どうしても粉やこびりつきが取れないときに限り、洗剤は使わず、冷たい水で固めのブラシをさっと当てて落とす方法もあります。ただしこすりすぎは禁物で、洗ったあとは形が崩れない程度に水気を切り、いつも以上に時間をかけて完全に乾かすこと。これが鉄則です。

使い終わったら、まず室温でしっかり乾かします。生地の小さなかけらが付いていても、生乾きでこそげ落とそうとせず、完全に乾いてから乾いた固めのブラシで粉やかすを払い落とすのがコツ。乾けばポロッと面白いほど気持ちよく取れます。私は焼き上がりを待つあいだに、空になったかごを逆さにしてトントンと叩き、大きな粉を先に落としておくようにしています。

そして保管。いちばんやりがちな失敗が「ビニール袋に入れてしまう」「乾く前に重ねて積む」こと。どちらも湿気がこもってカビの温床になります(Breadtopia)。使用後は数時間しっかり風を通し、風通しのよい乾いた場所で、重ねずに保管するのが安心です(Pantry Mama)。

お手入れ ○ と ✕ ○ これでOK 乾いてからブラシで粉を払う 室温で完全に乾かす 風通しのよい所に置く 重ねずに保管する ✕ カビのもと 洗剤でゴシゴシ・長く水に浸す 生乾きでこすり落とす ビニール袋に密閉 乾く前に積み重ねる

まとめ

バヌトンは、ただの「かご」ではなく、生地を上へ支えて高さを出し、あの誇らしいらせん模様まで授けてくれる相棒です。私が遠回りして学んだポイントを、最後にもう一度だけ。

  • 役割は「上方向に支える」と「模様をつける」の二本柱。通気で皮も立ちやすくなる。
  • 新品はミスト+打ち粉で「目に膜」を作ってから。打ち粉に米粉を混ぜると離れが段違い。
  • 生地はとじ目を上に。焼くと反転して、滑らかな模様面が上になる。
  • 出すときは一発で。焼く直前にクープを入れて、窯のなかでの伸びを導く。
  • お手入れは「洗剤を使わない・こすりすぎない・しっかり乾かす」。重ね置きとビニール密閉はカビのもと。

最初の一枚がうまく出せたときの嬉しさは、ぜひ味わってほしいです。失敗しても、それも含めてだんだん「自分のかご」に育っていきます。あなたの台所にも、いい焼き目とらせん模様が増えますように。

イーストや粉の選び方で迷ったらイーストの種類と選び方も覗いてみてください。

参考にした情報源

← 前の記事
グルテンを科学する|こねが足りない・こねすぎの見分け方
次の記事 →
ドイツの結び目パン「ブレーツェル(Brezel/Laugenbrezel)」|褐色の照りはどこから来るのか