パン作り

中種法とストレート法の違い|市販食パンのふわふわの正体

2026年09月04日 読了時間 約8分
中種法とストレート法の違い——嬉兆のオリジナル図版

買って三日目の食パン。袋の口をあけて一枚はがすと、まだ指がふわりと沈む。家で焼いた食パンは二日目の朝にはもう角がかたくなっているのに、あの白い一斤はどうして長持ちするのか。

答えの大きな部分は、材料ではなく製法にあります。大手製パンの食パンは、その多くが中種法(なかだねほう)でつくられています。粉の一部を先に発酵させておき、あとから残りを混ぜる二段構えのやり方です。いっぽう家庭のレシピでおなじみの、全部いっぺんに混ぜて発酵させるやり方をストレート法と呼びます。

この記事では、この二つが生地の中で何を変えているのか、仕上がりと段取りがどれだけ違うのか、そして自分の台所ではどちらを選べばいいのかを紹介します。

ストレート法は一度で混ぜ、中種法は二度に分けてこねる

ストレート法は、粉も水もイーストも塩も砂糖も油脂も、はじめにまとめてボウルへ入れます。こねて、発酵させて、分割して、成形して、焼く。工程が一本道なので迷いにくく、道具も場所も少なくてすむ。食パン一斤なら、こね始めから焼き上がりまでおよそ4時間15分が目安です。

中種法はここを二段に割ります。まず粉の一部と水とイーストだけを混ぜ、ぼそっとしたかたまりにして寝かせる。これが中種です。ふくらみきった中種に、残りの粉・水・塩・砂糖・油脂を加えて本ごねし、そこから先は普通のパンと同じ道をたどります。工程がひとつ増えるぶん、同じ食パンでも6時間30分ほど、ストレート法の1.5倍の時間がかかります。

中種に回す粉の割合は、全体の50〜70%が一般的です。なかでも70%を中種にする「7割中種法」がもっともよく使われます。割合を上げるほど中種の効きは強くなりますが、上げすぎると生地がべたついて扱いにくくなり、焼いたあとに腰折れもしやすくなる。70%あたりがちょうど良いとされるのはそのためです。

市販の食パンがほとんど中種法である理由

工場が中種法を選ぶ理由は、おいしさだけではありません。

  • 手順どおりに進めれば中種の出来が一定になり、製品の品質がそろう
  • 途中で状態を見て修正しやすい
  • 生地が傷みにくく、機械での大量生産に耐える
  • 焼き上がりの日持ちが良い

とりわけ最後のひとつが大きい。工場で焼かれたパンは、トラックに積まれ、棚に並び、買われ、食卓に置かれてから、ようやく食べられます。焼いた翌朝には食べきる前提の家庭のパンとは、必要とされる「もち」の長さがまるで違うのです。

中種法の本命は味ではなく「老化の遅さ」

パンがかたくなる現象を、製パンの世界では老化と呼びます。ただ乾いて水が抜けることだと思われがちですが、主役はデンプンのほうです。

小麦粉の70〜75%はデンプンで、焼くときに水を抱えこんでやわらかくほどけます(糊化)。ところが冷めていく途中でデンプンの分子がふたたび寄り集まり、規則正しく並びなおす。これが老化で、指に返ってくるかたさの正体です。同時にクラム(中身)の水分がクラスト(皮)へ移っていくので、内側はぱさつき、外側はしんなりする。

意外なのが温度です。デンプンの老化がいちばん速く進むのは0℃付近だと言われています。残った食パンを冷蔵庫に入れると翌日ごわつくのは、まさにその帯に置いてしまうから。冬に台所が冷えこむ日、いつもより早くかたくなるのも同じ理屈です。

中種法が効くのは、長い発酵のあいだに粉が水をたっぷり吸い、生地の保水性が上がるからです。焼き上がった時点で水の抱え方が違えば、抜けていくまでの時間も変わる。中種法のパンが数日やわらかいのは、風味の話というより、この水のもちの話です。発酵そのものが生地に何をしているかを押さえておくと、なぜ時間が保水につながるのかが腑に落ちます。

ついでに正直なところも書いておくと、市販のパンでは製法に加えて老化を遅らせる素材も併用されます。飽和脂肪酸モノグリセライドなら対粉0.2〜0.5%、機能性の油脂なら対粉3%前後といった量です。あの日持ちが中種法だけで出ているわけではない、という点は分けて考えておきたいところ。

家で中種を回すときの温度と時間

家庭で試すなら、数字はこのあたりを目安にします。

  • 中種に使う粉:全体の50〜70%(迷ったら70%)
  • 中種の水:中種に使う粉に対して60%前後
  • 中種のこね上げ温度:24〜25℃と、本ごねより低めに
  • 中種の発酵温度:24℃前後を保つ
  • 中種の発酵時間:24℃前後なら3〜4時間、30℃なら約90分
  • 発酵完了の目安:体積が2.5〜3倍、押すとやや力の抜けた感じ
  • 本ごねのこね上げ温度:27℃前後

中種はこね上げてもなめらかにはなりません。ぼそぼそして、まとまりが悪い。それで正解です。時間が経つと表面に細かい泡が浮き、指を差し入れるとしゅわっと空気が抜け、酸味をふくんだ穀物の匂いが立ってくる。この匂いが出たら使いどきの合図です。

どちらを選ぶか、決め手は「いつ食べるか」

ストレート法は、風味がまっすぐ出るのが持ち味です。粉の香りも発酵の香りも、回り道をせずにパンへ乗る。そのかわりボリュームは出にくく、老化は早い。焼いた日と翌朝で食べきる前提なら、それで何も困りません。

中種法は、きめが細かく、ちぎるとふわりと裂けます。日持ちも良い。そのかわり中種の時間ぶん段取りが長くなり、風味はどちらかといえばおとなしくまとまる傾向があります。

つまり選ぶ基準は腕前ではなく、いつ・どれだけ食べるか、です。

  • 朝焼いて、その日のうちに食べきる → ストレート法
  • 週末に仕込んで、平日の朝に何枚か食べたい → 中種法
  • 買った粉の個性をそのまま確かめたい → ストレート法
  • 市販の食パンに近いふわふわを出したい → 中種法
項目 ストレート法 中種法
粉の分け方 一度にすべて混ぜる 50〜70%を中種に先出し
こね始めから焼成まで 約4時間15分 約6時間30分
ボリューム 出にくい 出やすい
老化(かたくなる速さ) 早い 遅い
風味 まっすぐ出る おとなしくまとまる
向く場面 その日に食べきる 数日かけて食べる

中種は発酵種の一族、もっと知りたいときの入り口

粉の一部を先に発酵させて本ごねに足す。この考え方そのものは中種法だけのものではありません。ポーリッシュも、ビガも、老麺も同じ家族です。違うのは水分量と塩の有無、そして狙う方向。中種法は「ふくらみと日持ち」、ポーリッシュは「香りと甘み」というふうに、得意分野が分かれています。仕組みや配合の組み立て方は発酵種(ポーリッシュ・ビガ・中種)の記事で詳しく扱っているので、実際に中種を設計するときはそちらを開いてください。

今度、市販の食パンを三日目に食べるとき、ほんの少しだけ思い出してみてください。あのやわらかさは、焼かれる何時間も前に、誰にも見られないところで静かにふくらんでいた生地のぶんです。

参考情報源

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