パン屋さんの棚で、こちらを向いてころんと並ぶバターロール。横に走る渦の段を見るたび、「あれはどうやって作るんだろう」と思ったことはありませんか。種を明かせば、あの形は生地を一度「しずく型(涙型)」にしてから麺棒で細長くのばし、太いほうからくるくると巻いて焼いたもの。この記事では、しずく型の作り方から、のばすときの手の添え方、巻きの回数の目安、巻き終わりを下にする理由、そして二次発酵と卵塗りまで、家庭のオーブンであの形にたどり着く道筋を、参考記事を読み解きながら紹介します。
あの渦の正体は、しずく型と「軽い巻き」
バターロールの生地は、バターと卵と牛乳の入ったリッチな配合です(このタイプの生地の性格はリッチ生地の材料の話で詳しく書きました)。やわらかくて扱いやすい反面、成形の力加減がそのまま焼き上がりに出ます。
そして意外なことに、参考にしたパン職人のブログには「しずく型は、ほとんど寸胴で先だけ少し細ければ十分」とありました。絵に描いたような細長い涙型を目指してぐいぐい転がす必要はないのです。むしろ大事なのは、このあと出てくる「休ませる」と「軽く巻く」。形の完成度より、生地を怒らせないことが先なのですね。
まず、しずく型を作る
一次発酵と分割・丸めが済んだ生地からスタートです(丸めの手つきは丸パンの成形の記事を参考にどうぞ)。
- 円すいの下ごしらえ:丸めた生地の上下を中央へ折り込み、とじ目をつまんで閉じます。この時点でざっくり三角になればOK。
- 転がして、しずくに:とじ目を下にして、片方の端だけに手のひらの小指側を当て、台の上でコロコロ。片側が細くなり、にんじんのような形になります。長さは15〜25cmほど。参考記事によって幅がありますが、太いほうに丸みが残っていれば大丈夫。
- そして、休ませる:全部の生地をしずく型にしたら、乾かないように覆いをして5〜10分置きます。
この「休ませる」が最重要ポイント。しずく型にした直後の生地は緊張していて、すぐ麺棒を当てても縮んで戻ってしまいます。1個目に作ったしずくから順にのばせば、待ち時間はほとんど気になりません。
麺棒でのばして、巻く——手の添え方と三巻きの目安
しずく型の太いほうを奥、細いほうを手前に置きます。麺棒は真ん中から奥(太いほう)へ数回。それから手前へのばしますが、ここで手の添え方にコツがあります。細い先端を反対の手の指で軽くつまんで、ほんの少し浮かせるように支えながら、麺棒をゆっくり手前へ。生地を持ち上げながらのばすと、縮まずにすっと長くなってくれます。30cmほどの細長い二等辺三角形になれば準備完了。一気に薄くしようとせず、軽い力で何回かに分けて転がすのが、製粉会社ニップンの公式レシピでも勧められているやり方です。
巻きは、太いほうから。
- 最初のひと折りで芯を作る:端を1cmほど折り返し、ここだけは少しハリをもたせます。
- あとは軽く、転がすだけ:芯を核にして、手前へころころ。力加減のイメージは「巻き始めがしっかり、本巻きはふんわり」。
- 回数は全体で三巻き前後:参考記事では「2〜3回巻いて芯からまとめる」「巻き始めをひと折りして、あとは軽く巻く」とあり、きっちり数えるより「薄くのばしすぎて何回もきつく巻かない」ことが大切です。きつい多巻きは膨らみを悪くします。
巻き終わりは、必ず真下に
巻き終わった生地は、巻き終わりの生地端(しっぽ)が真下にくるように天板へ置きます。理由はふたつ。ひとつは見た目——横から見たときにしっぽが見えず、渦の段だけがきれいに出ること。もうひとつは実利で、発酵と焼成で生地がふくらむとき、巻き終わりが自分の重みで押さえられて、ほどけにくくなることです。つまんで閉じる必要はありません。置き方ひとつで足ります。
二次発酵でゆるみ、卵でつやをまとう
成形直後の生地は締まっていますが、35〜40度で25〜40分ほどの二次発酵でふわりとゆるみ、ひと回り大きくなります。指で軽く押して、あとがゆっくり残るくらいが目安。
焼く直前に、溶き卵を刷毛で薄くひと塗り。ニップンのレシピでは卵1に対して水1/2でのばし、刷毛を寝かせて塗るよう勧めています。刷毛の先を立てると、せっかくゆるんだ生地の表面に傷がつくからです。渦の溝に卵だまりを作らないよう、なでるようにひと方向へ。これで焼き上がりに、あのパン屋さんの照りが宿ります。オーブンから漂う卵とバターの香りは、この一手間へのごほうびです🍞
よくある失敗と、その直し方
- 巻きがほどける・しっぽが飛び出す → 巻き終わりが真下に置けていないか、最初の芯がゆるいサイン。ひと折り目だけしっかり、置くときは真下を確認。
- 渦の段が出ない・ぼってり潰れる → きつく巻きすぎです。きつい巻きは生地が横に広がり、上への膨らみを奪います。次は「ふんわり三巻き」を合言葉に。
- 表面が割れる → 原因は巻きのきつさだけでなく、一次・二次発酵の不足や生地の乾燥にも。覆いを忘れず、発酵はひと回り大きくなるまで待って。
- 形が不揃い → しずく型の段階の長さと太さがばらばらだと、焼き上がりもばらばらに。分割の重さを揃え、しずくの長さも揃えてから麺棒へ。
どれも生地がだめになったわけではありません。焼けば必ず食べられますし、二回目は一回目よりきっと揃います。
巻いた数だけ、手が覚える
バターロールの成形は、しずく型→休ませる→のばす→軽く巻く→真下に置く、の五拍子。一つひとつは小さな所作ですが、通して手が覚えると、日曜の朝に6個並べて焼くのが楽しみになります。オーブンの窓の向こうで渦がつやつやとふくらんでいくのを眺める時間は、成形をがんばった人だけのもの。今週末、まずはしずく型を10個、台の上に並べるところから始めてみませんか。
