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カザフスタンのバウルサク(Baursak)— 一度に2.3トン揚げた記録も持つ、祝いの席のひとくち揚げパン

2026年07月20日 読了時間 約7分
鍋の油で揚がる、ふっくらした揚げ生地

大鍋の油がふつふつと鳴り、丸めた生地が次々と沈んでは、金色にふくらんで浮かんでくる。カザフスタンの祝いの日、台所はこの音と香りでいっぱいになります。バウルサクは、中央アジアの草原で生まれた、ひとくち大の揚げパン。結婚式にも、春の祭りにも、ふらりと訪ねてきた客人の茶の席にも、山盛りで登場します。この記事では、名前に込められた意味、遊牧の暮らしとのつながり、トン単位で揚げてしまう記録更新のお祭り、そして家庭のフライパンでふっくら揚げるコツまでを、参考記事を読み解きながら紹介します。

名前のなかに「きょうだい」がいるパン

バウルサク(baursak)という名前は、カザフ語で肝臓や血縁を表す「バウル(bauyr)」につながる言葉で、「兄弟のように結びつく」「一つになろうとする」といった意味合いを含む——そう解説されています。つまりこのパンは、名前からして「人と人を結ぶ」ためのもの。訪れた客にバウルサクを差し出すことは、敬意と歓迎のしるしでした。

カザフスタンでは、祝いの食卓「ダスタルハン」にバウルサクが欠かせません。結婚式、春分の祭りナウルズ、そして弔いの席まで、人が集まるところには必ずこの金色の揚げパンが積まれる。「これがなければ祝いの膳が調わない」と言われるほどの存在です。豊かさ、繁栄、もてなしの心——小さな揚げパンひとつに、ずいぶんたくさんの意味が乗っています。

カザフの人々はバウルサクを、国旗にも描かれる太陽になぞらえることがあるそうです。丸くて、金色で、テーブルの真ん中で輝いている。そう聞いてから写真を見ると、山盛りのバウルサクが本当に小さな太陽の集まりに見えてきます。

草原の暮らしが生んだ、旅する保存食

なぜ「揚げる」のか。答えは遊牧の暮らしにあります。広い草原を移動しながら生きるには、手早く作れて、腹持ちがよく、日持ちする食べものが要る。オーブンのいらない揚げパンは、その条件にぴったりでした。伝統的には羊の脂で揚げ、生地に染みた油脂が乾燥を防いで、焼いたパンより長くもったといいます。旅に携える「ジョル・バウルサク(道のバウルサク)」という専用の呼び名まであるほどです。

もうひとつ、心に残る言い伝えがあります。バウルサクを揚げるとき、その香ばしい匂いは空高くのぼり、先に逝った家族の魂を養う——だから法事や追悼の席でも、この揚げパンが用意されるのだそうです。台所から立ちのぼる湯気が、そのまま祈りになる。パンを揚げるという日常の仕事に、こんな物語が重なっている国があります。

揚げた量は2.3トン——記録更新がつづく国民食

バウルサクへの熱量は、記録への挑戦にも表れています。2013年11月、アルマトイのショッピングモールでは、10人の料理人が667kg・約25,000個のバウルサクを揚げ、来場者が2時間足らずで食べきって「調理され食べられたドーナツの最多量」としてギネス世界記録に認定されました。使った小麦粉は470kg。それまでの記録はクウェートのグレーズドーナツ500kgだったといいますから、堂々の更新です。

翌2014年9月には、同じアルマトイで856kgの「最大のドーナツ(バウルサク)の盛り付け」がギネス記録に。さらに2024年11月、コスタナイ州の「バウルサク・フェスト」では2,339kg650gという量が揚げられ、カザフスタン記録簿の公式代表が確認に訪れたと報じられています。トン単位の揚げパン。数字だけでも、この国でバウルサクがどれほど愛されているかが伝わってきます。

家庭での作り方(配合と手順)

ロンドン在住の研究者ジェーン・レヴィさんが公開しているカザフ家庭のレシピを、家庭サイズ(元の半量)に換算して紹介します。「朝こねて、夜揚げる」のがこのパンのリズムです。

  • 材料:小麦粉750g(強力粉、または強力粉と薄力粉半々)、ぬるめの牛乳250ml、卵1個、ドライイースト5g、砂糖大さじ1.5〜2、塩大さじ1/2、溶かしバター大さじ1/2
  • こねる:全部をひとまとめにし、5分ほどこねる。弾力が出て、ややゆるいボールにまとまればOK
  • 発酵:暖かい場所で最低4時間。ゆっくり待つほど、揚げたときの「ふわっ」が育ちます
  • 成形:生地をいくつかの玉に分け、厚さ5mmほどにのばして、ひとくち大に切り分ける。形は不揃いでかまいません(カザフでは丸めてボール状にすることも多いそうです)
  • 揚げる:厚手の鍋に油を深さ3cmほど。生地の切れ端を落とし、しゅわっと泡を立てて浮けば適温。重ならないように入れ、返しながら全面が金色になるまで揚げる

うまくいくと、中が空洞の「ふわふわの枕」のような揚げパンになります。外はカリッ、中は空気のように軽い。熱いうちに蜂蜜やジャム、粉砂糖を添えて、濃いめの紅茶と。スープや煮込みに添えて、汁を吸わせて食べるのも現地流です。

よくある失敗と、その直し方

揚げパンのつまずきどころは、だいたい油と時間に集まっています。

  • 油っぽく、重たい → 油の温度が低いまま入れたサイン。切れ端テストで、勢いよく泡が立つまで待って
  • 外は焦げ色なのに中が生 → 今度は油が熱すぎ。火を少し落とし、生地も厚すぎないか見直しを
  • ふくらまない → 発酵不足のことが多い。「最低4時間」を信じて、生地に時間をあずけましょう
  • 鍋に入れたら温度が急降下 → 一度に入れすぎです。ひと並べ分ずつ、ゆったりと

一度にたくさん揚げて、どっさり器に盛るのがバウルサクの流儀。多少の不揃いは、山にしてしまえば愛嬌です。

小さなパンを、山盛りに

ひとくち大のパンをわざわざ山と積むのは、きっと「みんなで手を伸ばすため」なのだと思います。ひとり一個では祝いにならない。週末、生地を朝に仕込んで、夕方の台所で油を鳴らしてみてください。金色の小さな太陽が器に積み上がるころ、その香りは——カザフの言い伝えを借りるなら——ずいぶん遠くまで届いているはずです。

参考にした情報源

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