スコットランドの素朴な伝統パンが「バノック(Bannock)」です。もとは大麦やオーツ麦の粉で作る、平たくて丸い(または楕円の)かたまりを、鉄板(girdle=ガードル)や石の上で焼いたもの。発酵させない素朴なパンから、レーズンたっぷりの豊かな菓子パン版まで、長い歴史のなかで姿を変えてきました。この記事では、バノックとは何か、その歴史と焼き方、そして名物「セルカーク・バノック」を、出典を確認しながら整理します。
バノックとは何か
もともとのバノックは、大麦やオーツ麦の粉で作る、平たく重い丸い(または楕円の)パンでした。発酵させず、鉄板(スコットランド語で girdle)や熱した石の上で焼くのが伝統的なやり方です。
かつてスコットランドで広く育てられていた「ベア(bere)」という大麦が、オーツ麦が主役になる前のバノックの主材料だったとされます。素朴で日常的な、暮らしのパンでした。
図:バノックの特徴
歴史と、ふくらませ方の移り変わり
バノックという言葉は、北イングランドやスコットランドの方言に由来し、「焼いた生地」を意味するラテン語 panicium や、パンを意味する panis にさかのぼるとされます。8世紀の文献の注釈に「bannuc」として登場するなど、とても古い言葉です。
作り方も時代とともに変わりました。初期のバノックは発酵させない素朴なものでしたが、のちに酵母や前回の生地(種)を使うようになり、19世紀初めごろには、酸(バターミルクなど)と合わせる重曹で、さらにのちにはベーキングパウダーでふくらませるようになりました。発酵パンというより、現代では「クイックブレッド(手早く焼くパン)」に近い性格を持ちます。
図:ふくらませ方の変化
名物「セルカーク・バノック」
バノックには、豊かな菓子パン版もあります。スコティッシュ・ボーダーズの町セルカークの名物「セルカーク・バノック(Selkirk bannock)」です。小麦粉で作る、ふんわりバターの効いた生地に、たっぷりのレーズンを詰めた、フルーツケーキにもたとえられる一品です。
この名物を最初に作ったのは、1859年にセルカークで店を開いたパン職人ロビー・ダグラスだとされています。素朴な日常のバノックから、町を代表するごちそうパンまで——バノックという名前は、じつに幅広いパンを指しているのです。
図:素朴版とごちそう版
日本の家庭での活かし方
バノックは、オーブンがなくてもフライパンで焼ける、手軽な素朴パンです。日本の家庭でも気軽に試せます。
- フライパン(鉄板)で焼く:本場の girdle にならい、よく熱したフライパンで両面を焼けば、オーブンなしでもOK。弱めの中火でじっくり、こんがり焼き色をつけます。
- オーツ麦や全粒粉でざっくり:強力粉だけでなく、オートミール(粉状にする)や全粒粉を一部混ぜると、素朴で香ばしい本場の風味に近づきます。
- 重曹+ヨーグルトで手早く:発酵を待たずに作るなら、重曹とヨーグルト(またはバターミルク代わりに牛乳+レモン汁)で膨らませる「クイックブレッド」式が手軽です。
- ごちそう版はレーズンたっぷり:セルカーク風にするなら、バターとレーズンをたっぷり。紅茶に合う、おやつパンになります。
焼き加減はフライパンやオーブンによって変わります。厚みがあると中まで火が通りにくいので、平たく成形するのがコツです。
