朝、まだ空気がひんやりするキャンプサイトで、焼きたてのパンの香りがテントの周りに広がる。これ以上のごちそうは、なかなかありません。けれど「キャンプでパンなんて、オーブンがないと無理でしょう」と思っている方も多いのではないでしょうか。
実は、スキレット1枚あれば朝食パンは十分に焼けます。世界の家庭やアウトドアで親しまれてきたパンの多くは、もともとオーブンではなく、鉄板や火のそばで焼かれてきたものだからです。この記事では、編集部がキャンプの朝にちょうどいいと考えた5品を、海外の伝統レシピを参考にしつつ、日本の家庭の材料と道具で焼けるようにアレンジしてご紹介します。手順・火加減・失敗を避けるコツまで、ひとつずつ見ていきましょう。
なお、スキレットの基本的な使い方や他のキャンプめしについては、スキレットでアウトドア料理!キャンプめしレシピ5選もあわせてどうぞ。
1. イングリッシュマフィン|鉄板で焼く朝の定番
イングリッシュマフィンは、もともとオーブンではなく鉄板(griddle)の上で、途中ひっくり返しながら焼くことで、あの平たい形と中の「ノックアンドクラニー」と呼ばれる気泡をつくります。アメリカに広めたのはイギリスからの移民サミュエル・バス・トーマスで、1880年にマンハッタンで自身のブランドを創業し、当時は高級ホテル向けの「トースター・クランペット」として売り出したと伝えられています。スキレットで焼くのは、まさに本来のスタイルに近い方法なのです。
材料の目安:小麦粉200g、砂糖大さじ1、塩小さじ1/2、ドライイースト小さじ1、ぬるま湯150ml、バター20g。
手順:材料を混ぜて生地をまとめ、約60分発酵させます。アルミホイルで作った型(直径8cm、高さ3cmほど)に生地を入れ、中火(約165℃)に熱したスキレットへ。上下を各4〜5分ずつ焼きます。
火加減と失敗回避:焦げやすいので、布などをふんわりかぶせて熱をこもらせると、中まで火が通りやすくなります。型がなければ、ベーコンの空き缶を半分に切ったものでも代用できます。前夜にイーストを使った生地を仕込んでおくなら、ドライイーストは常備しておくと安心です。
前夜仕込みに使うドライイーストは、こちらが扱いやすくおすすめです。
2. ナン|フライパンでふっくら
ナンはペルシャ(現在のイラン)にルーツがあるとされ、インドの詩人で音楽家のアミール・フスローによって1300年に初めて文献に登場したと伝えられています。インドへのナンの広がりには、エジプトから伝わった酵母が関わっているとも言われます。鋳鉄のスキレットを使えば、家庭のコンロでもキャンプでも、ふっくらしたナンが焼けます。
材料の目安:強力粉200g、ヨーグルト100ml、水50ml、塩小さじ1/2、ドライイースト小さじ1/4、ギー(またはバター)大さじ2。ナンには強力粉を使います。
手順:材料を混ぜて約45分発酵させ、手のひらサイズに成形します。スキレットを中強火(約180℃)に予熱し、油を薄くひいて生地をのせます。1〜2分焼いて表面に気泡が出てきたら裏返し、もう片面も焼きます。
火加減と失敗回避:気泡が出てプクッとふくらむのが裏返しの合図です。火が強すぎると表面だけ焦げて中が生焼けになるので、気泡の出方を見ながら調整しましょう。キャンプでは前夜に生地を仕込んでおき、朝は焼くだけにしておくと段取りがぐっと楽になります。
3. アイリッシュソーダブレッド|イーストいらずの最速パン
ソーダブレッドの魅力は、イーストを使わないこと。膨らませる役割は重曹とバターミルクの組み合わせが担います。最も古いレシピは1836年の『The Farmer’s Magazine』に載ったもので、全粒粉・塩・重曹・とても酸っぱいバターミルクという4つの材料が基本でした。重曹がアイルランドに伝わったのは1840年代ごろで、ソーダブレッドが広く食べられるようになったのは、小麦粉と重曹が再び手に入りやすくなった大飢饉(1845〜1852年)のあとだと言われています。伝統的には、直火にかけた鋳鉄の鉄板で焼かれてきました。
材料の目安:薄力粉250g、重曹小さじ1、塩小さじ1/2、バターミルク(または牛乳200ml+酢大さじ1)。
手順:材料をさっくり混ぜて軽くまとめ、直径15cmほどの平たい形にします。中火で予熱したスキレットに油を薄くひき、両面を各8〜10分ずつ焼きます。
火加減と失敗回避:とにかく捏ねすぎないことが最大のコツ。こねるほど固くなってしまいます。バターミルクがなければ、牛乳にレモン汁を少し加えて代用できます。発酵を待たずに焼けるので、朝の時間がないときの強い味方です。
4. キャンプパンケーキ|スキレットで分厚く
パンケーキは世界中で親しまれてきた朝食ですが、アメリカのパンケーキ文化には17世紀にオランダ系移民が持ち込んだ伝統が大きく影響しています。彼らはペンシルベニアやニューヨークといった地域に、自分たちのパンケーキを伝えました。スキレットなら、外はカリッと中はふんわりの、ボリュームあるパンケーキが焼けます。
材料の目安:卵2個、牛乳100ml、薄力粉100g、砂糖小さじ1、塩小さじ1/4、バター20g。
手順:別容器で生地を混ぜておきます。スキレット(10インチ推奨)を中火で熱してバターを溶かし、生地を流し入れます。弱火にして約8〜10分、上面が固まってきたら裏返してもう片面も焼きます。
火加減と失敗回避:中火で熱した鋳鉄に生地を流し、表面にプツプツと気泡が出てきたら裏返すのが目安。両面がきつね色になれば焼き上がりです。キャンプでは生地を前夜に混ぜておけば、朝は焼くだけ。低温長時間でゆっくり寝かせたい生地づくりは、オーバーナイト発酵(低温長時間発酵)の基本も参考になります。
5. オーストラリアンダンパー|キャンプ生まれのパン
ダンパーは、オーストラリアの開拓者(ブッシュマン)がキャンプの最中に焼いてきた、まさにアウトドア生まれのパンです。たき火の熾火やキャンプオーブン(ふた付きの鋳鉄鍋)で焼くのが伝統で、5品のなかでも特にキャンプとの相性が抜群です。
材料の目安:薄力粉250g、ベーキングパウダー大さじ1、塩小さじ1/2、バター20g、牛乳150ml。
手順:材料を混ぜてひとまとめにし、直径12cmほどの円形に成形。表面に深さ5mmほどの十字の切り込みを入れます。スキレットを弱火で予熱し、油を薄くひいて両面を各12〜15分ずつ焼きます。
火加減と失敗回避:弱火でじっくりが基本です。たき火の白い熾火に生地を直接置き、上から灰を軽くかぶせて約45分焼く伝統的な方法もあります。この場合、焼き上がりは底をコンコンと叩いて軽い音がするかで確かめます。焦げが気になるときは布で包んでから灰に入れると安心です。蓄熱性の高い鋳鉄なら、火加減のムラもやわらぎます。
朝食パン全般に使える鋳鉄スキレットは、1枚あると蓄熱が高く扱いやすいのでおすすめです。
日本のキャンプでの段取り・前夜仕込み
スキレットで失敗しないいちばんのコツは、火加減です。基本は弱〜中火。強火にすると表面ばかり焦げ、逆に火力が弱すぎたり厚みがありすぎたりすると中が生焼けになります。火加減がわからないときは、焼き始めて1分ほどたったら端をそっと持ち上げ、焼き色を確認してみてください。生地の厚さは一定に保つのがコツで、スキレットの両脇に割り箸を置いて、厚みの目安にする方法もあります。
粉は、日本でよく使う薄力粉(タンパク質約9%)でほとんど対応できます。ナンのように生地のコシが欲しいものだけ、強力粉を使うと覚えておけば十分です。バターミルクが手に入らないときは、牛乳100mlに酢小さじ1を混ぜて15分ほど置けば、近い酸味の代用になります。
前夜仕込みの考え方もシンプルです。イーストを使うイングリッシュマフィンやナンは、前夜に生地まで仕込んでおき、朝は成形して焼くだけにします。パンケーキは生地を別容器で混ぜておけば、起きてすぐ焼けます。ソーダブレッドとダンパーは発酵がいらないので、その場で混ぜてすぐ焼ける、朝向きの2品です。火種の安定が課題になりがちなキャンプでは、ガス式の窯を使うと焼き加減が読みやすくなります。
キャンプでパンを安定して焼きたい方には、ガス式の窯焼名人も心強い選択肢です。
なお、ふた付きの鋳鉄鍋でしっかり焼き込みたい場合は、ダッチオーブンでキャンプパンを焼く完全ガイドで道具選びから手順まで詳しく解説しています。
まとめ
スキレット1枚あれば、イングリッシュマフィン、ナン、ソーダブレッド、パンケーキ、ダンパーと、キャラクターの違う朝食パンが5品も焼けます。イーストで前夜仕込みするもの、混ぜてすぐ焼けるもの、火加減でコクを出すもの——それぞれの個性を知っておけば、当日の朝の段取りもぐっと立てやすくなります。
共通するコツは、弱〜中火を守ること、生地の厚みを一定に保つこと、そして焼き色をこまめに確認すること。この3つさえ押さえれば、キャンプの朝に焼きたてパンの香りを楽しむのは、決して難しくありません。次のキャンプでは、ぜひスキレット1枚から始めてみてください。
