フィンランドのパンと聞いて、まず思い浮かぶのは何でしょうか。多くの人が挙げるのが、どっしりとしたライ麦のパンです。なかでも目を引くのが、ドーナツのように真ん中に穴のあいた平たいパン。「ルイスレイカレイパ(ruisreikäleipä)」、短く「レイカレイパ(reikäleipä)」とも呼ばれる、西フィンランドに伝わる伝統的なライ麦パンです。
この真ん中の穴には、ちゃんとした理由があります。見た目のかわいさのためではなく、寒く長い冬を越すための暮らしの知恵が詰まっているのです。今日はこの穴あきライ麦パンがどんなパンなのか、穴の役割や地域ごとの違い、そしてフィンランドの「国民食」としてのライ麦パンの背景までやさしくたどりながら、最後に日本の家庭でも作りやすいレシピをご紹介します。
真ん中の穴は何のため
穴あきライ麦パンの「穴」は、保存のための工夫です。パンを平たいリング状に焼き、台所の天井のすぐ下に渡した棒(ポール)に、穴を通して引っかけておく。こうして温かい室内でゆっくりと熟成・乾燥させたのです。棒に何枚も重ねて吊るしておけば、場所を取らずにたくさん保管できます。
これは単なる飾りではなく、暮らしを支える仕組みでした。乾いて固くなったパンは長持ちするため、棒はそのまま冬の保存庫の役割を果たしました。寒さの厳しいフィンランドでは、こうして焼きためたパンが、長い冬のあいだ家族の食卓を支えてきたのです。
東は丸パン、西は穴あき
ひとくちにフィンランドのライ麦パンと言っても、地域によって姿が違います。大まかに言えば、東部では「ライスリンプ(ruislimppu)」と呼ばれる丸くて厚みのあるパンが好まれ、西部では今回ご紹介している中央に穴のあいた平たいパンが伝統とされてきました。同じライ麦の国でも、東と西で形がはっきり分かれているのは面白いところです。
味わいの面でも、フィンランドのライ麦パンには特徴があります。ライ麦パンというとドイツやバルト諸国のずっしり重いものを思い浮かべる方も多いかもしれませんが、フィンランドのものはそれらに比べると口当たりがやや軽いと言われます。同じ穀物を使っていても、土地ごとに少しずつ個性があるのですね。
フィンランドの「国民食」ライ麦パン
ライ麦パン(ruisleipä)は、フィンランドの人々にとって特別な存在です。2017年、独立100周年を記念して行われた投票では、このライ麦パンがフィンランドの「国民食」に選ばれました。日々の食卓にあるごく身近なパンが、国を代表する食べものとして愛されているわけです。
伝統的なライ麦パンは、水・サワー種(天然の酵母種)・塩・ライ麦粉という、ごくシンプルな材料で作られます。種は各家庭で代々受け継がれてきたものが使われ、その家ならではの酸味を生み出してきました。サワー種ならではのほどよい酸味と、噛むほどに広がる穀物の深い味わい。素朴でありながら奥行きのある味は、まさに毎日食べても飽きない国民食と呼ぶにふさわしいものです。
日本の家庭での活かし方
ここからは、編集部のアレンジで日本の家庭でも作りやすい穴あきライ麦パンのレシピをご紹介します。本場のサワー種づくりはハードルが高いので、今回は手に入りやすいドライイーストを使い、ライ麦粉と強力粉を半分ずつ合わせた、初めてでも扱いやすい配合にしました。ライ麦粉だけだと生地がまとまりにくいので、強力粉を混ぜることでこねやすくなります。
材料(直径15cmほどの穴あきパン2枚分)
- ライ麦粉…150g
- 強力粉…150g
- 塩…6g
- ドライイースト…4g
- はちみつ(または砂糖)…10g
- ぬるま湯(35℃前後)…200〜220ml
作り方
- ボウルにライ麦粉・強力粉・塩を合わせます。別の容器でぬるま湯にはちみつとドライイーストを溶かしておきます。
- 粉に1の水分を加え、ヘラから手に持ち替えて5〜7分こねます。ライ麦粉が多いとべたつきますが、少しずつまとまってきます。
- ボウルにまとめてラップをし、温かい場所で60〜90分、ひとまわり大きくなるまで一次発酵させます。
- 生地を2等分し、それぞれ厚さ1.5cmほどの平たい円形に伸ばします。中央にコップの口などを押し当てて穴をあけ、ドーナツ状にします。
- 天板にのせて20〜30分の二次発酵。表面全体にフォークで数か所穴をあけます。
- 220℃に予熱したオーブンで18〜22分。表面がこんがり色づけば焼き上がりです。
ライ麦と強力粉の割合がそのまま食感を左右するので、正確な計量がおいしさの近道です。
サワー種の代わりにふくらみをしっかり出したいときは、発酵を助けるイーストを用意しておきましょう。
生地を平たい円形に伸ばして中央に穴をあける作業は、表面に凹凸のないマットの上だと進めやすくなります。
焼き上がったパンは、薄くスライスしてバターやチーズをのせるのがおすすめです。本場の棒に通す保存は再現できなくても、穴あきパンならではの素朴な見た目と、ライ麦の酸味を楽しめます。
まとめ
穴あきライ麦パン「ルイスレイカレイパ」は、中央に穴のあいた平たいパンで、西フィンランドに伝わる伝統です。その穴は、台所の天井近くに渡した棒に通して乾燥・保存するための、寒い冬を越す暮らしの知恵でした。東部の丸い厚手のパンとの地域差や、ドイツ・バルト諸国より軽い口当たりも、フィンランドならではの個性です。
ライ麦パンは2017年に独立100周年の国民食に選ばれたほど、人々に愛されてきた存在。サワー種と受け継がれる酸味が、その味の核にあります。家庭では手に入りやすいイーストとライ麦粉で、まずは穴あきパンの形と素朴な味わいを楽しんでみてください。いつもの食卓に、北欧の冬の知恵をひとかけら添えてみませんか。
