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スロベニアのポティツァ(Potica)— ローマ教皇が名指しで尋ねた、EUお墨つきの渦巻き菓子パン

2026年07月07日 読了時間 約7分
くるみの渦巻き断面を見せる、切り分けた菓子パン

包丁を入れると、断面にくっきりと渦巻きが現れます。薄い生地と、くるみのフィリングが何層にも巻き重なった、飴色のらせん。スロベニアの祝祭パン——ポティツァは、紙のように薄くのばした発酵生地にフィリングを塗って巻き上げ、専用の陶器型で焼く、国の顔ともいえる菓子パンです。

クリスマスとイースターの食卓には必ずといっていいほど登場し、2021年にはEUの保護制度にも登録されました。この記事では、ローマ教皇が思わず口にした小さなジョークから、EUが認めた5つのフィリング、そして日本の台所でクグロフ型を使って焼く方法までを、参考記事を読み解きながら紹介します。

ローマ教皇の、ちいさなジョーク

2017年5月24日、バチカン。トランプ米大統領夫妻と面会したフランシスコ教皇は、スロベニア出身のメラニア夫人にこう尋ねました——「彼には何を食べさせているのですか? ポティツァ?」。

発音が「ピザ」に聞こえたせいで、夫人も報道陣も一瞬きょとん。直後に意図を察した夫人が「ポティツァ、ええ!」と笑顔で返した、というのがことの顛末です。教皇はもともとポティツァがお気に入りで、スロベニアの人に会うたびに尋ねてくるのだとか。一国のパンが外交の場のアイスブレイクになる——それだけ、ポティツァはスロベニアそのものなのです。

名前は「包む」から

ポティツァ(potica)の名は、「包む・巻く」を意味するスロベニア語の動詞 poviti に由来するといわれます。文献への登場は古く、16世紀後半の宗教改革者トルバルの著作に記述があり、1689年には博物学者ヴァルヴァゾルが、はちみつとくるみを巻いた菓子として詳しく書き残しています。少なくとも300年以上、この渦巻きは祝いの日の食卓に上り続けてきました。

19世紀末から20世紀初頭には、移民とともに海を渡ります。アメリカのクリーブランドやピッツバーグ、ミネソタの鉱山地帯では、いまもポティツァが地域の味として根づいているそうです。薄くのばした生地にフィリングを巻き込む発想は東欧一帯に広がっていて、以前紹介したルーマニアのコゾナックも、断面に渦巻きを描く親戚筋。国境をまたいで、それぞれの家の「うちの渦巻き」が受け継がれています。

EUが認めた5つのフィリングと、専用型「ポティチュニク」

2021年4月、「スロベンスカ・ポティツァ(Slovenska potica)」はEUの伝統的特産品保証(TSG)に登録されました。産地を縛る制度ではなく、「伝統的な材料と製法」を守ることを保証する登録です。認められたフィリングは、次の5種類。

  • くるみ
  • くるみ+レーズン
  • レーズン
  • タラゴン
  • タラゴン+カッテージチーズ

甘いパンにハーブのタラゴン——ここがポティツァのいちばんの個性で、スロベニアならではの組み合わせだといわれます。もっとも家庭に目を向ければ、ポピーシードやヘーゼルナッツ、はちみつなど、バリエーションは100を超えるとも。

形の決まりもあります。正式なスロベンスカ・ポティツァは、中央に穴のあいたリング形。「ポティチュニク(potičnik)」と呼ばれる陶器などの専用型で焼き、断面には最低3〜4巻きの渦が入っていること。いちばん小さい型でも底の直径14cmと、規格書はなかなか細かい。ちなみに登録の際には、似た菓子「ポティツェ」を作る隣国オーストリアから異議が出て、「オーストリア側は従来の名前を使い続けてよい」という形で決着したそうです。パンひとつに、外交が二度も顔を出すのがおもしろいところ。

家庭では、クグロフ型で

ポティチュニクがなくても大丈夫。中央に筒のあるクグロフ型(バント型)が、いちばん近い代用品です。スロベニアの料理サイトのレシピを参考に、流れをまとめます。

  • 生地:強力粉500g、ドライイースト5g、砂糖大さじ2、ぬるい牛乳270ml、卵黄2個、溶かしバター65g、塩小さじ1/2。イーストを牛乳と砂糖で10分予備発酵させてからこね、なめらかになったら50〜60分、倍になるまで一次発酵。
  • くるみフィリング:細かく挽いたくるみ300gに、はちみつ60g、砂糖大さじ3、温めた生クリーム75g、バター大さじ1、シナモンとレモンの皮を少々。必ず完全に冷ましてから、砂糖と泡立てた卵白2個分をふんわり混ぜ込みます。
  • のばして巻く:打ち粉をした布の上で、生地を約40×35cm、厚さ5mmほどの長方形に。フィリングを塗り広げ、端は塗り残しておきます。短い辺からきっちり巻いて棒状に。
  • 型に入れて焼く:バターを塗った型に、とじ目を下にして一周させ、45〜55分の二次発酵。表面に牛乳を塗り、竹串で底まで届く空気穴を全体にあけてから、180℃で45分→160℃に下げて20〜25分。

焼き上がりを型から返すと、台所いっぱいに、くるみとはちみつの香ばしい匂い。粗熱がとれたら粉砂糖をふって、断面の渦巻きとご対面です。

よくある失敗と、その直し方

渦巻きパンのつまずきどころは、世界共通です。

  • 断面の渦がぼやける → 生地が厚すぎるサイン。5mmを目安に、布の柄が透けるくらいまで薄く。
  • フィリングが漏れる・生地が破れる → 今度は薄すぎ、あるいは塗りすぎ。端の塗り残しをけちらないこと。
  • 中に大きな空洞ができる → フィリングが温かいまま塗った可能性大。冷ましてから塗る、これだけでだいぶ防げます。
  • 表面が大きく割れる → 焼成中の蒸気の逃げ場がなかったから。焼く直前の竹串の穴あけを忘れずに。もっとも、小さなひびは「ご愛嬌」とされているので、神経質にならなくて大丈夫。

クリスマスを待たなくても

スロベニアの家庭では、ポティツァは「特別な日に、誰かを思って焼くパン」だといいます。とはいえ、私たちがそれに倣う必要はありません。週末にくるみを挽いて、生地を薄くのばして、くるくると巻く。オーブンの前で待つ一時間は、それだけで十分に特別です。切り分けた断面に渦巻きがくっきり現れたら——教皇があの日、思わず名前を口にした気持ちが、少しわかる気がします。

参考にした情報源

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