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「ちゃんとこねないと膨らまない」は本当? デンマークのエンジニアが対照実験で覆したサワードウの常識

2026年06月11日 読了時間 約9分

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手でこね上げたパン生地を持ち上げる様子

「サワードウは、しっかりこねないとちゃんと膨らまない」。そう信じて、毎回腕がだるくなるまで生地と格闘していませんか。実は、その“定説”を実験でひっくり返した人がいます。デンマーク・コペンハーゲン在住のソフトウェアエンジニア、Sune Trudslev(スーネ・トゥルズレウ)さん。彼の「基準のパンを1本置いて、変える条件は一度に1つだけ」という科学者のような検証スタイルを知れば、家庭のキッチンでも“なんとなく”から卒業できます。これで作れる! こんな確かめ方があったのか! という気づきを、今回はお届けします。

エンジニアが「パンの定説」に挑むまで

Foodgeek(フードギーク)として発信するSune Adelowo Trudslevさんは、デンマーク・コペンハーゲン在住。本業はソフトウェアエンジニアで、ギター好き・食いしん坊という顔も持つ方です。本格的にサワードウ(自然発酵パン)作りを始めたのは2018年1月ごろ。そこから約半年間、できる限り頻繁に焼き込み、2018年夏の終わりに最初の記事『Sourdough bread for beginners(初心者向けサワードウ)』を公開しました。

転機は動画への展開です。YouTubeチャンネル「Foodgeek」を2019年3月30日に開設。同年5月、餌やり後のスターターをタイムラプス撮影したのが、彼の代名詞となる『Experiment Time!』シリーズの第一歩でした。その後数年で、サワードウ焼成のさまざまな条件を扱う実験動画を60本以上制作。エンジニアらしく、必要に迫られてベーカーズ計算機などのパン作り計算ツールまで自作しています。さらにデンマークの郷土パン、特にライ麦パン(rugbrød)など伝統的なパンのサワードウ版レシピも多数公開している、根っからのパン好きです。

「基準の1本」を置く——対照実験という考え方

Foodgeekさんの発信を貫く軸は、とてもシンプルです。どの検証でも必ず基準となる対照パン(control bread)を1本用意し、変える条件は一度に1つだけにする——ただこれだけ。60本を超える動画でこの型を徹底しているからこそ、「技法Aと技法Bのどちらが効くのか」を公平に比べられるのです。

その威力が一番わかりやすいのが、こね方の比較実験です。同じ生地で「ストレッチ&フォールド」「ノーニード(こねない)」「スタンドミキサー」「フードプロセッサー」の4手法を並べて検証したところ、結論はこうでした。サワードウは長時間発酵が自然にグルテンを育てるため、手軽さでは“こねないノーニード法”が圧勝。一方、生地に触れたい・もっと手を動かしたい人にはストレッチ&フォールドが最適。そしてフードプロセッサーは、よほど強力な機種でない限りグルテン形成が不十分で非推奨、という結果です。「ちゃんとこねないと膨らまない」という思い込みが、ここで気持ちよく覆ります。

こねる・こねないの議論も、条件をそろえてこそ比較できます。対照実験の精度を支えるのは、地味でも正確な計量と温度計です。

温度計の数字を“盲信しない”——99℃神話の検証

もうひとつ、本格志向の方に刺さるのが温度の実験です。サワードウには「中心が99℃になれば焼き上がり」という定番ルールがあります。Foodgeekさんは同一生地のパンを内部温度85℃・95℃・99℃・「焼き上がるまで」の4本に分けて焼き、比べました。

わかったのは、パン内部の構造の大半は99℃に達するずっと前に形成されるということ。けれどクラスト(皮)と残留水分は99℃以降も変化し続け、95℃を超えてからもオーブンスプリングと焼き色が進むのです。つまり、温度計の数字だけに頼るのではなく、焼き色や見た目も合わせて判断すべき、という実践的な指標が見えてきます。

同じ発想は「ねちゃつき(gummy)」の原因切り分けにも使われています。「中がねちゃつくのは焼成時間が足りないせいか?」を確かめるため、同じ生地を30分・35分・40分・50分(普段の50分を基準)で焼き分け、“焼成時間という1変数だけ”の影響を見たのです。感覚で決めつけず、原因を1つずつ潰していくこのトラブルシュートの型は、家庭の焼き手にとっても再現可能な学び方になります。

日本の家庭での活かし方

ここからは、Foodgeekさんが教えてくれる「基準の1本+1変数」という型を、編集部として日本のキッチンにどう応用できるかを考えてみます。以下は彼の実験そのものではなく、日本の家庭で試すための編集部からの提案です。この型が日本で活きるのは、海外と日本とでは“前提”が違うとよく言われるからです。

まず水。一般に、日本の水道水は軟水が多く、ミネラル分の多い水とは生地の扱いや発酵の進み方に差が出るとされます。海外レシピをそのまま真似てうまくいかない時こそ、Foodgeekさん流に「基準の1本」を1回焼いておき、次回は水だけ、あるいは塩だけ、と1か所だけ変えて比べてみてください。あなたのキッチンの“正解”が、感覚ではなく結果として見えてきます。ありがちな失敗の原因を先回りで知っておくならパン作り初心者が陥りやすい失敗の原因と対策も役立ちます。

次に粉。一般に、国産小麦は銘柄ごとにタンパク量や吸水の傾向が異なると言われます。お使いの粉を変えてみたいときも、「粉だけを変えて、加水も配合も同じ」で2本焼けば、自分の好みがどちらの粉寄りかが一目瞭然です。新しい銘柄に挑戦するときほど、この1変数比較が頼りになります。

🍞 温度管理も日本仕様に。一般に、高温多湿の時期は発酵が早まりやすく、寒い時期は進みにくいと言われます。Foodgeekさんが「数字を盲信しない」と教えてくれたように、焼き上げ温度に加えて焼き色も見つつ、オーブンレンジの発酵機能や、低めにセットした炊飯器の保温を“一定の基準環境”として活用すると、季節をまたいでも比較が公平になりやすいはずです。基準環境づくりの具体策は季節別の発酵温度コントロール完全ガイドにまとめています。

そして和の素材。米麹や甘酒、酒種、抹茶、きなこ、黒糖といった日本ならではの素材も、「基準のサワードウ1本」に対して甘酒だけ少量足す、というように1変数で試せば、香りや膨らみへの影響をクリアに観察できます。湯種や中種を“もう1つの変数”として比べるのも面白い実験になります。編集部としては、まず塩か水のどちらか1つから始めるのが、失敗が少なく続けやすいと感じています。

まとめ

Foodgeekさんが教えてくれるのは、特別な道具でも秘密のレシピでもありません。「基準の1本を置き、変えるのは1つだけ」という、誰でも今日から真似できる確かめ方です。こねない法でも十分おいしく焼けること、温度計の99℃は絶対ではないこと——どれも実験が裏づけた事実です。レシピを丸暗記するのではなく、「なぜそうするのか」を自分のキッチンで確かめる。その一歩を、ぜひ次の週末の1本から始めてみてください。

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