世界のパンニュース

台湾の胡椒餅(フージャオビン)— 窯の壁に貼り付けて焼く、黒胡椒と肉汁の夜市パン

2026年07月06日 読了時間 約6分
ゴマをのせた黄金色の焼き包みパン(胡椒餅のイメージ)

台北の夜市。人だかりの奥で、職人が素手で生地の玉をつかみ、赤く熾った炭の上、熱い窯の内壁にぺたりと貼り付けていきます。数分後、ナイフで剥がされて出てくるのは、ゴマをまとって黄金色に焼き上がった小さなパン——胡椒餅(フージャオビン)です。割れば黒胡椒の香りと熱い肉汁、たっぷりのネギ。台湾夜市の行列グルメの代表格ですが、実はオーブンさえあれば、家の台所でもかなり近いところまで焼けます。この記事では、名前にまつわる説、窯焼きの仕組み、そして家庭のオーブンでの作り方までを、参考記事を読み解きながら紹介します。

「胡椒餅」なのに、名前のルーツは地名?

胡椒餅のふるさとは、海の向こう、中国福建省の福州だとされています。福州からの移民が台湾へ持ち込んだもので、台湾の老舗の多くが「福州胡椒餅」と看板に掲げているのはその名残です。

面白いのは名前の由来です。福州ではもともと「蔥肉餅(ツォンロウビン=ネギ肉パン)」と呼ばれていたのに、台湾に渡ると「胡椒餅」になった。一説には、「福州」の現地の発音が「胡椒」と似て聞こえたから、と言われています。地名がいつのまにか香辛料の名前にすり替わり、それに合わせるように餡の胡椒も効いていった——ほんとうのところは誰にも分かりませんが、耳から生まれたパンの名前だと思うと、なんだか愛おしくなります。

窯の内壁が「オーブンの天板」

胡椒餅の焼き方は、パン好きなら一度は見ておきたい光景です。使うのは、インドのタンドールによく似た円筒形の粘土窯。底に炭火を熾し、職人は成形したての生地を素手で持って、熱い窯の内壁に次々と貼り付けていきます。焼き上がったらナイフで壁から剥がして完成。つまり窯の壁そのものが天板であり、炭の直火と輻射熱が同時に襲いかかる、強烈な焼成装置なのです。

この焼き方の聖地が、台北・饒河街観光夜市の入口近くに構える「福州世祖胡椒餅」。窯の中は200〜300度に達し、職人が手作業で貼り付けていく様子は屋台の前から見られます。ミシュランのビブグルマンに選ばれ、CNNの取材も受けた行列店ですが、焼き上がる数が多いので列の進みは意外と速いのだとか。ひとつ60台湾元。外の皮は香ばしくカリッと、中の豚肉はごろっとして肉汁たっぷり、黒胡椒の香りとネギの甘みがひとつに焼き込められています。

家庭版の材料:餡は前の晩に漬けておく

家庭のオーブンで近づけるレシピを、海外のレシピ記事から組み立て直しました。餡を一晩漬け込むのが最大のポイント。夜のうちに仕込んでおきましょう。

生地(8個分の目安):

  • 強力粉 270g
  • インスタントドライイースト 小さじ1
  • 砂糖 大さじ1、塩 小さじ1/2
  • ラード(またはサラダ油)15g
  • ぬるま湯 170ml

餡:

  • 豚ひき肉(脂のあるもの)250g
  • 粗挽き黒胡椒 小さじ1〜大さじ1(好みで。本場はかなり効かせます)
  • 白胡椒 小さじ1/2
  • 醤油 大さじ2、砂糖 小さじ1、ごま油 小さじ1、片栗粉 小さじ1、塩 少々
  • 小口切りの青ネギ どっさり(120gほど。餡とは別に取っておく)

ひき肉と調味料を混ぜたら、ラップをして冷蔵庫へ。参考にしたレシピでは8〜12時間漬け込みます。老舗も餡を長時間漬け込むそうで、この「待ち時間」こそが屋台の味の正体のひとつです。

作り方:包んで、ゴマに「浸して」、高温で一気に

  • 生地の材料をこね、なめらかになったら2倍になるまで発酵させます。
  • 8等分して丸め、直径15cmほどの円に伸ばします。中心は厚め、ふちは薄めに。
  • 生地に餡をのせ、その上に青ネギをこれでもかと重ねます。ふちを少しずつつまみ寄せ、ひだを畳んで完全に閉じ、閉じ目を下にして天板へ。
  • 表面に蜂蜜を溶いた水(または溶き卵)を塗り、白ゴマの皿に押しつけるように浸します。パラパラ振るのではなく、浸す。屋台のあの姿になります。
  • 200度にしっかり予熱したオーブンの上段寄りで約20分。全体が濃いきつね色になれば焼き上がりです。

オーブンの扉を開けた瞬間、胡椒とネギと焼けたゴマの香りが立ちのぼります。焼きたては肉汁が熱いので、ひと呼吸おいてから。皮のカリッ、肉のじゅわっ、ネギの甘みの順に来たら成功です。

よくある失敗と、その直し方

  • 焼くと閉じ目が開いて肉汁が漏れる → 成形がこのパンの最難関。ふちに餡の脂が付くと閉じません。ふちは触らず清潔に保ち、ひだをしっかりつまんで、閉じ目は必ず下に。
  • ゴマがはがれ落ちる → 蜂蜜水や卵液が薄いのかも。しっかり塗って、ゴマの皿に押しつけて浸すのがコツです。
  • 表面だけ焦げて中が生っぽい → 焦げ始めたらアルミホイルをふわりとかぶせて、時間はそのまま焼き切ります。
  • 肉汁が出ない、味がぼやける → 赤身だけのひき肉だと乾きます。脂のあるひき肉を選び、漬け込みを一晩に。ネギの量も遠慮しないこと。

窯はなくても、匂いは再現できる

炭の窯とオーブンでは、さすがに火力の桁が違います。それでも、黒胡椒の効いた餡を一晩漬け、ネギを山ほど包み、ゴマをまとわせて高温で焼き上げれば、台所には饒河街の入口とよく似た匂いが立ちこめます。いつか台北で本物を頬張る日の予習に、まずは今夜、ひき肉に胡椒を挽くところから始めてみませんか。

参考にした情報源

← 前の記事
パンの焼き上がりの見分け方|中心温度で「焼けたか」を確かめる
次の記事 →
発酵の見極め方|フィンガーテストで「まだ」と「もう」がわかる

🍞 この記事を読んだ人は、次の1本へ

同じテーマ・同じ国の記事から、続けて楽しめる一本をお届けします。

スライスして渦巻き模様が見える巻きパン
▶ 続けて読む その他
ベネズエラのクリスマスパン「パン・デ・ハモン(Pan de Jamón)」|生地に具を巻き込む祝祭のパン
6/23