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元地質学者が築いた独語圏屈指のパンブログ「Plötzblog」——少量イースト+長時間発酵で「時間=風味」を引き出す

2026年06月11日 読了時間 約9分

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長時間発酵で焼き上げたクラストの厚い田舎パン

イーストはごく少量、あとは時間に任せるだけ——。ドイツで「最も読まれるパンブログの一つ」とされるPlötzblog(プレッツブログ)の主、Lutz Geißler(ルッツ・ガイスラー)さんが体系化したのは、まさにそんなメソッドです。もとは地質学者だった人物が、検証と実験を積み重ねて築き上げた「時間を味方につける」パン作り。しかもその多くは、特別な設備のない日本の家庭オーブンでも、鋳物鍋ひとつあれば試せます。「これなら作れる!」「こんな考え方があったのか!」という発見を、今日はお届けします。

元地質学者がパンの世界へ——「気晴らし」から専業ブロガーへ

Lutz Geißlerさんは1984年、ドイツ・ザクセン州フライベルクの生まれ。フライベルク工科大学(Technische Universität Bergakademie Freiberg)で地質学を学び、2009年に地質学ディプロム(Diplom-Geologe)を取得しています。卒業後はエンジニアリング会社のプロジェクト地質技師、続いてGEOMIN Erzgebirgische Kalkwerke GmbHの主任地質技師(Chefgeologe)として働いていました。

意外なのは、パン作りを始めたきっかけです。本人いわく、もともとは地質学のディプロム論文に伴うラボやパソコン作業の「息抜き」だったとのこと。2008年にパンを焼き始め、2009年初頭にブログ「Plötzblog」(ploetzblog.de)を開設します。そして2014年以降は、パン作りを専業(フルタイム)に。趣味の気晴らしが、人生の本業になったわけです。

その地質学者としての「検証主義」が、ブログの個性そのものになっています。Plötzblogには1,000を超えるレシピが掲載され、用語集(レキシコン)、サワー種交換プラットフォーム、ポッドキャスト「PLÖTZ-lich Bäcker」、製パン理論を扱うBrotschauなどへと広がってきました。書籍も強く、代表作『Brotbackbuch Nr. 1』(2013年)は10万部超を売り上げ、独語圏で最も売れたパン焼き本の一つとされます。著書全体では2020年12月時点で累計35万部以上を記録しています。

なお現在、レシピ部門とBrotschauは2024年3月以降、Steadyプラットフォーム経由のサブスクリプション(有料)になっています。一方で用語集(Bäckerlatein)など一部は無料で参照できます。

核心は「lange Führung」——少量イースト+長時間発酵という哲学

Plötzblogの看板技法が、lange Führung(ランゲ・フュールング=長時間発酵)です。基本ルールはとてもシンプルで、「イーストを使わないか、ごく少量にして、生地の休息・熟成の時間を延ばす」こと。

具体的には、長時間発酵の生地はイーストを通常配合より最低40〜50%減らし、加水(水の量)をやや増やして仕込みます。すると、扱いやすい「お行儀のよい」生地になり、風味と消化のよさが通常より明確に向上するというのです。

この考え方を象徴するのが、ガイスラーさんのこの一言です。

> Viel Zeit heißt meistens auch viel Geschmack. > — Lutz Geißler(hagengrote.de

「たっぷりの時間は、たいてい、たっぷりの風味でもある」——短いながら、メソッドの芯を突く言葉です。

これを家庭で実践しやすくするのが、低温の一晩発酵(kalte Gare/Übernachtgare)。生地・保管温度を24℃より十分に低く保ち、冷蔵庫で一晩寝かせて発酵をゆっくり進めます。「長く・温かく熟成させるほど必要なイーストは少なくて済む」という関係で量を調整するのがポイント。冷蔵庫で時間を味方につければ、仕込みと焼成のタイミングを家庭の都合に合わせて自由に組めて、香りの深い生地が手に入ります。

焼成は「鍋ひとつ」でOK——そして“最大の禁じ手”

ガイスラーさんは焼成において、高温・ベーキングストーン・スチーム(蒸気)を重視します。ただし初心者には、特別な設備がなくても良い結果が出るダッチオーブン(鋳物鍋)での焼成を勧めています。家庭のオーブンでも鍋ひとつで、パリッとしたプロ並みのクラスト(皮)が出せる——これは今日すぐ試せる具体策です。鋳物鍋での焼き方の実際はダッチオーブンでパンを焼く完全ガイドで手順を紹介しています。

そしてもう一つ、初心者に向けた強い戒めがあります。それは「べたつく生地に粉を足さない」こと。自然にべたつく生地を、粉を足して「直そう」とするのを、彼は最大の禁じ手(the cardinal sin)と呼びます。代わりに、こねでグルテン構造をつくり、Falten(ファルテン=伸ばして折る)という作業で生地に張りと不規則な大きな気泡を生み出していきます。加水を保ったまま生地を扱う技術へ導いてくれる、実に実践的な指針です。

長時間発酵は時間が味方ですが、生地の扱いやすさも仕上がりを左右します。成形と蒸気まわりを助ける道具を挙げておきます。

日本の家庭での活かし方

このメソッド、日本の台所事情に合わせると、さらに活きてきます。編集部としては、まずに注目したいところです。ドイツは硬水の地域が多く、硬水はミネラルがグルテンを引き締めて生地にコシを与えます。一方、日本は軟水が中心。軟水だと生地がやややわらかく、だれやすい傾向があります。だからこそ、ガイスラーさんの「べたつく生地に粉を足さない/折りで張りをつくる」という指針は、軟水で仕込む日本の生地と非常に相性がよいのです。粉に逃げず、Faltenで張りを出す——ここを意識するだけで仕上がりが変わります。それでも生地が手に負えないと感じたときは、パン生地がベタつく原因と対処法5選が助けになります。

国産小麦との掛け合わせもおすすめです。たとえばタンパク量が高くしっかり吸水する「春よ恋」や「ゆめちから」は、加水を少し増やすlange Führungの考え方と好相性。長時間かけてゆっくり水和させれば、国産小麦ならではの甘みと香りが引き出せます。最初は加水控えめから始め、扱いに慣れたら少しずつ水を増やしていくと安心です。

温度管理は、日本の四季に合わせて読み替えましょう。梅雨〜夏の高温多湿では、常温だと発酵が一気に進みすぎます。そこで冷蔵庫を使うkalte Gareの出番。冷蔵庫の一晩発酵なら、夏でも過発酵を抑えつつ、香りを育てられます。季節ごとの温度調整の考え方は気温・湿度別の発酵コントロール完全ガイドにまとまっています。逆に冬の底冷えの時期は、室温だと発酵が止まりがち。そんなときは、お使いのオーブンレンジの発酵機能や、炊飯器の保温(高温になりすぎないよう注意)を使って、生地の温度をやさしくキープしてあげてください。「時間=風味」という発想は、設備に頼りすぎず時間で勝負する日本の家庭にこそ、ぴったりはまります。

🍞 軟水+国産小麦なら「折りで張りを出す」を意識 🍞 夏は冷蔵庫の一晩発酵で過発酵を回避 🍞 冬はオーブンレンジの発酵機能で温度キープ

まとめ

Plötzblogが教えてくれるのは、「特別な機械よりも、少しのイーストと時間こそが風味をつくる」という、とてもシンプルで力強い哲学です。元地質学者らしい検証主義に裏打ちされたlange Führungと低温一晩発酵、そして鍋ひとつでできる焼成。どれも、本格志向のあなたが今日から取り入れられる考え方ばかりです。軟水と国産小麦、日本の気候という「ご自宅の条件」に合わせて読み替えれば、世界基準のメソッドが、あなただけのオリジナルなパンへと育っていきます。まずは「イーストを減らして、時間を延ばす」——その一歩から、ぜひ。

参考にした情報源

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