# 韓国の屋台パン「ホットク(호떡)」——黒糖シロップがとろける、冬の手のひらおやつ
寒い季節、韓国の街角でいちばん人だかりができる屋台のひとつが「ホットク(호떡)」です。鉄板の上で平たくつぶされた生地が、ジューッと音を立てながら両面をこんがり焼かれていく。手渡された熱々をひと口かじると、中から黒糖のシロップがとろりとあふれ出す——この瞬間のために行列に並ぶ人が後を絶ちません。
ホットクは、イーストで発酵させた生地に黒糖・シナモン・ナッツを包み、専用のプレスで平たく焼く「甘いパン」です。日本でいえば今川焼きとおやきの中間のような立ち位置で、れっきとした発酵パン生地が使われているのが特徴。今回は、このホットクの来歴と作りの仕組み、そして釜山の名物「種ホットク」までを、日本の家庭で再現する目線で深掘りします。
「外来の餅」という名前が語る、ホットクの来歴
ホットクは韓国生まれの食べものですが、ルーツは中国にあるとされます。19世紀後半、清から渡ってきた商人たちが安価に作って売り歩いたことで、朝鮮半島に広まったと伝えられています。当時はおやつというより、手早くお腹を満たせる「腹もち」のいい食べものとして重宝されました。
寒さの厳しい韓国の冬に、屋台の鉄板で焼きたてを売るスタイルがぴたりとはまり、ホットクはやがて「冬の風物詩」として定着します。今でも気温が下がりはじめると街角にホットクの屋台が増え、湯気とともに甘い香りが漂いはじめると「冬が来た」と感じる——そんな季節の合図のような存在です。
名前そのものが、その出自を物語っています。「ホ(胡)」は韓国で古くから「外来の・北方の」ものを指した語、「トク(떡)」は餅や練り粉ものを意味します。つまりホットクは直訳すると「外来の餅」。料理の名前に渡来の記憶が刻まれているわけです。中国生まれの粉ものが各地で姿を変えていく様子は、中国の蒸しパン「マントウ(饅頭)」とも通じるものがあります。
黒糖がシロップに変わる「焼きの科学」
ホットクのおいしさの核心は、焼いているあいだに起こる変化にあります。生地の主材料は小麦粉・水・牛乳・砂糖・イースト。発酵させてふっくらさせた生地で、黒糖・シナモン・砕いたナッツの「あん」を包みます。
ここからが本番。包んだ生地を熱した鉄板にのせ、専用の丸いプレス(ホットク・ヌルゲ)でぎゅっと平たくつぶします。すると中の黒糖が熱で融け、液体のシロップへと姿を変える。生地の外側はカリッと焼き固まり、内側はもっちり、そして中心は熱々のシロップ——この三層のコントラストが、ひと口で押し寄せてくるのです。
焼き立てが命とされるのは、まさにこの「砂糖が液体である時間」が限られるから。冷めるとシロップが固まり、あのとろける食感は失われてしまいます。屋台で熱々を立ち食いするのが正解、というわけです。
生地にイーストが使われているのもポイントです。発酵によって生まれたガスが、焼くときにほどよい弾力ともちっと感を生む。だからホットクは「揚げ菓子」でも「クレープ」でもなく、あくまで発酵パンの仲間。外はカリッ、中はもちもち、芯はとろり——この食感の三段構えこそが、ほかの甘いおやつにはないホットクならではの魅力です。
釜山名物「種ホットク(씨앗호떡)」——黒糖×ナッツの進化形
ホットクは韓国全土で食べられますが、地域ごとに進化を遂げています。なかでも有名なのが、港町・釜山(プサン)で生まれた「種ホットク(씨앗호떡/シアッ・ホットク)」。「シアッ(씨앗)」は韓国語で「種」を意味します。
普通のホットクが黒糖と少量のナッツを包むのに対し、種ホットクは黒糖シロップに、ひまわりの種・かぼちゃの種・ごま・松の実などをどっさり詰め込むのが特徴です。焼き上げたあと、半分に切って種をたっぷり追い足してくれる店も多く、香ばしさと食べごたえが段違い。
その聖地が、釜山・南浦洞(ナンポドン)のBIFF広場。価格はおおむね1個2,000〜3,000ウォン前後で、多くの屋台が昼前から夜まで営業しています。テレビ番組で取り上げられて全国区の知名度を得た、釜山を代表するストリートフードのひとつです。
日本の家庭でも作れる!ホットク再現のコツ
専用の鉄板やプレスがなくても、ホットクは家庭で十分に再現できます。編集部としては、まずは身近な道具と材料で「あの黒糖とろり」を体験してみるのがおすすめです。
- 生地:強力粉と薄力粉を合わせ、ドライイースト・砂糖・塩・ぬるま湯(牛乳を少し混ぜると風味アップ)でこね、1時間ほど一次発酵。もちっとさせたいなら、餅粉や白玉粉を一部加える手もあります。
- あん:黒糖(日本の黒砂糖でOK)にシナモンと刻んだクルミやピーナッツを混ぜるだけ。釜山風にするなら、ここに白ごまやかぼちゃの種を足しましょう。
- 焼き:フライパンに薄く油をひき、包んだ生地をのせ、フライ返しの背でぎゅっと平たくつぶしながら両面を中火で焼くだけ。プレス役はフライ返しやコップの底で代用できます。
ひとつだけ注意。焼き上がりのシロップは想像以上に高温です。黒砂糖が融けた液体はやけどしやすいので、ひと呼吸おいてからかじってください。家庭で焼くなら、種や粉の配合を変えて「自分だけのホットク」に育てていけるのも楽しみのひとつです。
パン作りに慣れている方なら、発酵生地の扱いはお手のもの。気温と発酵時間の関係に迷ったら、【季節別】パン生地の発酵が決まる!気温・湿度コントロール完全ガイドもあわせて参考にしてください。
まとめ
ホットクは、中国から渡来した記憶を名前に残しながら、韓国の冬の風物詩として根づいた発酵パンです。黒糖が熱で融けてシロップになる「焼きの科学」と、釜山で進化した種ホットクの香ばしさ——どちらも、家庭のフライパンとありふれた材料で驚くほど近づけます。寒い夜のおやつに、手のひらサイズの韓国を焼いてみてはいかがでしょうか。
参考にした情報源
- Wikipedia「Hotteok」 https://en.wikipedia.org/wiki/Hotteok
- VISITKOREA「Griddlecake with Sugar and Seeds Filling (씨앗호떡 / Ssiathotteok)」 https://english.visitkorea.or.kr/svc/thingsToDo/foodTrip/special_view.do?vcontsId=180199
- Korean Bapsang「Hotteok (Korean Sweet Pancakes)」 https://www.koreanbapsang.com/hotteok-sweet-korean-pancakes/
