朝、SNSを開くと、断面に大きな空洞がぽっかり空いたバターたっぷりのパンが流れてくる——そんな経験はありませんか。韓国・ソウルで人気店に長い列ができ、いまや海を越えて世界へ広がりつつあるのが「塩パン(소금빵 ソグムパン)」です。クロワッサンのように見えて、実は折り込み生地ではない。底はカリッ、中はふんわり、そしてかむほどにバターと塩が効いてくる。シンプルなのに、一度食べると忘れられない味わいです。
今日はこの塩パンを取り上げます。実はそのルーツは日本にあること、韓国でどのように国民的ブームになったのか、そしてあの特徴的な「空洞」がどうやって生まれるのか。事実をたどったうえで、最後に家庭のオーブンで再現するための成形のコツと、編集部アレンジのレシピをご紹介します。
ルーツは日本・愛媛の「塩パン」
意外に思われるかもしれませんが、塩パンは韓国生まれではありません。英語版Wikipediaの「Salt bread」の項目によれば、塩パン(shio pan)は2014年ごろ日本の愛媛県で生まれ、「パンメゾン(Pain Maison)」というパン店が広めたとされています。日本語の「塩パン」がそのまま名前になっており、コッペパンのようなミルク系のやわらかい生地に、有塩バターと粗塩を組み合わせたのが原型です。
この「塩」という発想がポイントです。複数の英語メディアが、暑い夏に食欲が落ちても、体は自然と塩分を欲する——そんな日本の夏向けに考案されたパンだと紹介しています。甘いだけでも、塩辛いだけでもない。バターのコクに粗塩のアクセントが乗ることで、何個でも食べたくなる絶妙なバランスが生まれました。日本各地のパン屋やコンビニにも定番として広がっていったのは、ご記憶の方も多いでしょう。
韓国でなぜ国民的ブームになったのか
その塩パンが、2020年代に入って韓国へ渡ります。オーストラリアのメディアBroadsheetは、塩パンを「軽い日本のshio panの兄弟分」と表現し、2020年代に韓国へ渡って人気が爆発し、2025年にピークを迎えたと報じています。きっかけは、おしゃれなカフェ文化との相性でした。
火付け役のひとつが、かつて工場や倉庫が並ぶ工業地帯から、いまやカフェとベーカリーの街へと生まれ変わったソウルの聖水洞(ソンスドン)エリアです。塩パン専門店には連日行列ができ、整理券や仮想待機列(オンラインで順番を取る仕組み)が使われるほどの人気ぶりだと複数の現地レポートが伝えています。韓国の塩パンは、カナダ産小麦やフランス産バター・塩といった素材を打ち出す店もあり、外はカリッと、中はもっちりとした食感が支持されています。さらにカスタードやチーズ、餅(もち)などを詰めたアレンジも登場し、専門チェーンが各地に広がりました。
あの「空洞」はどうやってできるのか
塩パン最大の特徴は、断面にぽっかり空いた空洞と、油でカリッと焼き上がった底面です。これはどう生まれるのでしょうか。
米国のFood Republic(AOL転載)の解説によると、ミルクと有塩バターでリッチに仕立てた生地を三角形に伸ばし、そこへバターのかたまりを置いて、クロワッサンのようにくるくると巻き込みます。焼成が始まると、巻き込まれたバターのかたまりが溶け出します。バターに含まれる水分が蒸気となって膨らむことで、あの特徴的な空気のポケット(空洞)が生まれるのです。同時に、流れ出たバターが天板で生地の底を揚げ焼きのように香ばしく仕上げ、表面には粗塩がきらりと光る——これが塩パンの正体です。
つまり、何層にも折り込むクロワッサンとは仕組みがまったく違います。塩パンは「一かたまりのバターを巻き込んで溶かす」だけ。だからこそ家庭でも挑戦しやすいのが嬉しいところです。
日本の家庭での活かし方
専門店のような空洞を家庭のオーブンで出すコツは、(1)冷たく固いバターを使うこと、(2)生地をしっかり長い三角形に伸ばすこと、(3)巻き終わりを下にして焼くこと、の3点です。バターが柔らかいと巻く前に生地へなじんでしまい、蒸気の空洞ができにくくなります。手に入りやすい材料で再現できる編集部レシピをご紹介します。
材料(6個分)
- 強力粉 250g
- 砂糖 20g
- 塩(生地用) 4g
- ドライイースト 3g
- 牛乳 160ml(人肌に温める)
- 無塩バター(生地用) 20g(室温)
- 有塩バター(巻き込み用) 60g(冷蔵庫から出してすぐの固い状態、6等分に細長く切る)
- 粗塩(仕上げ用) 少々
計量は1g単位のデジタルスケールがあると失敗が減ります。
作り方
- ボウルに強力粉・砂糖・塩・イーストを入れ、温めた牛乳を加えてまとめ、室温の無塩バターを練り込んでなめらかになるまでこねる。
- 約2倍になるまで一次発酵(28〜30℃で40〜60分が目安)。
- 6分割して丸め、10分休ませる。それぞれを長い二等辺三角形(底辺の幅広い側から先端まで20cm前後)に伸ばす。
- 三角形の幅広い側に冷たい有塩バターを1切れのせ、空気を巻き込むようにふんわりと、しかし最後はしっかり巻き終える。巻き終わりを下にして天板へ。
- 35〜40分の二次発酵。表面に牛乳をぬり、粗塩をふる。
- 220℃に予熱したオーブンで12〜15分。底が色づいたら完成。溶け出たバターでクッキングシートが油っぽくなるので、天板の縁が浅いタイプより、油受けに余裕のある天板が安心です。
焼きたての底のカリッと感は時間とともに失われるので、食べる直前にトースターで2〜3分温め直すと、専門店に近い食感がよみがえります。
まとめ
塩パンは2014年ごろ日本・愛媛のパンメゾンが広めたとされるパンが原点で、2020年代に韓国のカフェ文化に乗って広がり、2025年に人気がピークを迎えたと報じられています。聖水洞などでは行列の名物になりました。あの空洞は、巻き込んだバターが溶け、水分が蒸気となって膨らむことで生まれます。家庭では「冷たいバター」「長い三角形」「巻き終わりを下に」の3点を守れば、底カリ・中ふわの塩パンに近づけます。素材も道具も身近なもので挑戦できるのが、このパンの魅力です。
