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イラクのサムーン(Samoon)— 45秒にひと窯、バグダッドの朝を焼くひし形の白パン

2026年07月17日 読了時間 約7分
イラクのひし形パン、サムーンを紹介する記事の嬉兆オリジナルSVGアイキャッチ(石窯とひし形パン)

バグダッドの朝、パン屋の窯の前。レンガ窯の口から、両端のとがったひし形のパンが次々と滑り出てきます。ある老舗では、その間隔がおよそ45秒にひと窯。焼きたてを袋に受け取る人の列が、通りまで続きます。このパン——サムーンは、イラクでもっとも親しまれているパンのひとつ。外の皮は香ばしく、割ると中から湯気とともに、ふんわり白い中身が現れます。この記事では、名前にまつわる物語、バグダッドのパン屋の風景、現地の食べ方、そして家庭のオーブンでの焼き方までを紹介します。

名前は海を越えてきた——「サムーン」の由来

サムーン(samoon)という名前をさかのぼると、トルコ語でパンを意味する「ソムン(somun)」に行き着き、さらにその先には古代ギリシャ語の「プソーモス(ひと口、焼いたパン)」がある——イラク料理研究家ナワル・ナスラッラーは、そう説明しています。オスマン帝国の時代、メソポタミアの台所にはたくさんのパンの言葉が流れ込みました。サムーンもそのひとつだったというわけです。

では、あのひし形は誰が生んだのか。ナスラッラーによれば、20世紀初頭のイラクのパン職人たちが発展させた形だとされます。一方で、「バグダッドのバーブ・アル=アーガ地区で、シモンという名のアルメニア系の職人が最初に焼き、その名がなまってサムーンになった」という説を紹介する記事もあります。名前も形も、確かなことはひとつに定まりません。ただどの説にも、異国から来た職人と、それを日々の主食に育てたバグダッドの人々が登場します。パンの来歴とは、たいていそういうものかもしれません。

45秒にひと窯——ラシード通りのパン屋

2023年に報じられた、バグダッド旧市街のラシード通りにあるパン屋の話です。店主アブ・サッジャードの店では、小麦粉・イースト・水(ときに塩)だけのシンプルな生地を機械で10分こね、手早くひし形にととのえて、レンガ窯へ。焼き上がる数は1日およそ1万個、休日の金曜には1万2千個にもなるといいます。

値段は8個で1,000イラク・ディナール、当時のレートで約0.7米ドル。輸入小麦が値上がりしたときも、店は値段を上げるかわりに、1個の重さを120gから100gへそっと軽くしたそうです。「値上げより軽量化」を選ぶあたりに、サムーンが毎日のパンであることがにじみます。買った人は歩きながら横に裂き、ファラフェルと野菜を挟んで頬張る。生まれたときからそばにあって、熱いのがいちばん——取材にそう答える常連の言葉が残っています。

ゲイマルに、ケバブに——サムーンの一日

サムーンは、イラクの食卓のほとんどどの場面にも顔を出します。

  • :濃厚なクリーム「ゲイマル(gaymar)」に蜂蜜をたらし、ちぎったサムーンですくうのが定番の朝ごはん。ラブネ(水切りヨーグルト)を塗ることも。
  • :スープや煮込みにちぎって浸す。あるいは横に裂いて、ケバブやシャワルマ、ファラフェルを挟むサンドイッチに。
  • :ジャムやオリーブ、クリームを添えて、甘い紅茶とともに。

外はカリッ、中はふわっとして肉汁やソースをよく吸うので、挟みものに強いのです。ホットドッグ用のパンに形は少し似ていますが、皮の香ばしさと中の軽さはまるで別もの。焼きたてを裂いた瞬間の湯気こそが、このパンのごちそうです。

家庭のオーブンで——材料と作り方

現地はレンガ窯やタンドール(壁に貼りつけて焼く土窯)ですが、家庭用オーブンでも「外カリ・中ふわ」に近づけます。鍵は、ヨーグルト入りのやわらかい生地と、高温+蒸気。イラクのベーカリー式レシピを参考にした配合です(6個分)。

  • 材料:強力粉500g/インスタントドライイースト7g(小さじ2強)/砂糖12g/塩9g/プレーンヨーグルト30g/溶かしバターまたは油45ml/ぬるま湯330ml
  • こねる:材料を合わせ、なめらかになるまでこねる。加水66%のややべたつく生地が正解。粉を足したくなっても、ぐっとがまん。
  • 一次発酵:約1時間半、倍にふくらむまで。
  • 分割・成形:6等分(約155g)して丸め、少し休ませてから成形。両端をつまんでとがらせ、縦にそっと引きのばし、中央を指で平らに押す——これでひし形(舟形)になります。
  • 二次発酵:30分。表面に水か溶き卵を塗り、好みで白ごまを。
  • 焼く:オーブンは天板ごと250℃(家庭用なら最高温度)にしっかり予熱。下段に熱湯を張ったバットを置いて蒸気を出し、7〜11分、ぷっくりふくらんで黄金色になるまで。

焼き上がりは網の上へ。裂くなら、湯気の立っているうちにどうぞ。

よくある失敗と、その直し方

  • ふくらまず、ぺたんこ → 窯の温度が足りていません。予熱は「もういいかな」からさらに10分。天板やピザストーンも一緒に熱しておくと底から持ち上がります。
  • 皮がぶ厚く、ただ固い → 蒸気不足のサイン。熱湯バットを忘れずに。蒸気があると皮は薄くパリッと仕上がります。
  • 重くて目の詰まったパンになる → こねる途中で粉を足しすぎたか、発酵不足。べたつきはこのパンの個性です。手に油を薄く塗ると扱いやすくなります。
  • ひし形が丸に戻ってしまう → 中央は薄く、両端はしっかりつまむ。成形後の30分でゆるむぶんを見越して、気持ち大げさなひし形に。

一枚目が「大きめのコッペパン」になっても大丈夫。味はもうサムーンです。

熱いうちに、裂いて

バグダッドの人たちがそうするように、焼きたてを横に裂いて、何か挟んでみてください。照り焼きチキンでも、コロッケでも、あんことバターでも。皮のパリッ、中身のふわっ、湯気のほわっ——45秒にひと窯の理由が、ひと口でわかります。週末のオーブンから、ラシード通りの朝の匂いがしてきますように。

参考にした情報源

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