キャンプでパンを焼く——kicchowの読者のみなさんなら、一度は憧れたことがあるはずです。実はその「焚き火でパン」を、国の食文化として何世代も受け継いできた国があります。オーストラリアです。今回ご紹介する「ダンパー(damper)」は、小麦粉・塩・水という最小限の材料を、焚き火の熾火(おきび)やキャンプオーブンで焼き上げる、開拓時代から続くブッシュ(奥地)のパン。日本のキャンプ場でもそのまま再現できる、シンプルさの極みのようなパンなんです。
ダンパーとは——材料は「小麦粉・塩・水」だけ
ダンパーは、オーストラリアへ渡った初期のヨーロッパ系開拓者たちが作っていた伝統的なパンです。基本の材料は小麦粉・塩・水のみ。手に入るときにはバターを加えることもあった、とされています。生地をこねて丸めたら、焚き火の熾火に直接埋めるか、キャンプオーブン(脚付きの鋳鉄鍋)に入れて焼き上げます。
伝統的なダンパーは基本的に無発酵パンです。ただ、生地をひと晩置くと自然に発酵が始まることがあり、前日の生地の残りを発酵種のように使った可能性も指摘されています。偶然のサワードウ、と考えるとロマンがありますね。現代のオーストラリアでは、ベーキングパウダー入りのセルフライジングフラワー(self-raising flour)で手軽にふくらませる作り方が一般的になっています。
「damper」という名前の由来には諸説あります。有力なのは「火を鎮める・弱める」という意味の英語表現「damp down」と関係するという説で、灰をかぶせて火力を抑えた熾火でじっくり焼く調理法そのものを映した名前だと考えられています。
羊飼いと旅人を支えた「持ち運べる主食」
ダンパーを焼いてきたのは、広大な内陸部を移動しながら働く人たちでした。家畜を追って何週間も旅をするストックマン(牧場労働者)やドローバー(家畜追い)、そして荷物をかついで職を探し歩いた旅人スワッグマン(swagman)。彼らにとって、日持ちする小麦粉・塩だけを持ち歩き、水と火さえあればその場でパンが焼ける、というのは合理性そのものだったんです。
食べ方も実用的でした。乾燥肉や調理した肉と一緒に主食として食べるほか、甘い楽しみ方の定番がゴールデンシロップ(サトウキビ由来の琥珀色のシロップ)をたっぷりかける食べ方。このシロップは農場で働く人たちの間で「cockie’s joy(コッキーの楽しみ)」という愛称で呼ばれていたと伝えられています。焚き火のそばで、熱々のダンパーに琥珀色のシロップ——想像しただけで、キャンプに行きたくなってきませんか。
日本の家庭・キャンプ場での活かし方
編集部としては、ダンパーは「日本のキャンプパン入門に最適な一本」だと感じています。発酵待ちがないので、思い立ったらすぐ焼けるのが最大の魅力。キャンプ場での手順を整理しました。
Step 1:粉と道具を準備する(自宅で計量まで)
要点は「現地で計量しない」こと。薄力粉とベーキングパウダー(粉200gにつき小さじ2が目安)と塩ひとつまみを自宅で混ぜてジッパー袋へ。セルフライジングフラワーの代わりはこれで十分です。水は現地で約100ml、あればバター20gも。計量は0.1g単位のスケールで済ませておくと、現地作業が「混ぜて焼くだけ」になります。
Step 2:袋の中でこねて、まとめる
要点は「こねすぎない」こと。ジッパー袋に水を少しずつ加えて袋ごと揉めば、手も汚れません。粉気が消えてひとまとまりになったらOK。ベーキングパウダーのパンは、こねすぎるとかえって固くなります。生地を直径12〜15cmの円盤にまとめ、火の通りをよくするため上面に十字の切り込みを入れましょう。
Step 3:熾火でじっくり焼く
要点は「炎ではなく熾火(おきび)で焼く」こと。これが本場の流儀です。ダッチオーブンに薄く油を塗って生地を入れ、フタの上にも熾火をのせて上下から加熱します。目安は25〜35分。竹串を刺して生地がついてこなければ焼き上がりです。ダッチオーブンの基本操作はダッチオーブンでキャンプパンを焼く完全ガイドで詳しく解説しているので、初挑戦の方はあわせてどうぞ。
ゴールデンシロップは日本では入手しづらいですが、編集部のおすすめは「はちみつ+メープルシロップを半々」。コクと琥珀色の雰囲気がぐっと近づきます。和の組み合わせなら、バターと黒蜜きなこも相性抜群でした。持ち物の全体像はキャンプで焼きたてパン!持ち運びやすい道具と段取りが参考になりますよ。
上下から加熱できる鋳鉄のダッチオーブンが一台あると、ダンパーの「熾火焼き」がそのまま再現できます。
自宅で配合を仕込んでいくなら、0.1g単位のスケールが確実です。
まとめ
小麦粉・塩・水と焚き火だけで生まれたダンパーは、「パンは設備がなくても焼ける」ことを150年以上前から証明してきたパンです。発酵いらず・道具最小限・失敗しにくい——キャンプパンの第一歩として、これほど心強いお手本はありません。次のキャンプで、オーストラリアの開拓者気分を味わってみてくださいね。
