インド洋に浮かぶ島、マダガスカルの夜明け。炭火にかけた鉄板には丸いくぼみがずらりと並び、そこに白い生地が流されると、じゅわっと音を立てて、まんまるのパンがぷくぷくとふくらんでいきます。これがモフォガシ。米粉の発酵生地を丸い型で焼く、マダガスカルの朝の定番です。外は香ばしいきつね色、中はふんわり、ほんのり甘い。熱いコーヒーと一緒に、街角で立ったまま頬ばるのが現地の朝ごはんのかたちです。
そして日本のパン好きに朗報がひとつ。あの丸いくぼみの鉄板、私たちの台所にはほぼ同じものがすでにあります——たこ焼き器です。この記事では、モフォガシの名前の意味と朝の風景、米粉とイーストで作る生地の仕込み、たこ焼き器での焼き方、つまずきやすい点までを、参考記事を読み解きながら紹介します。
名前は、そのまま「マダガスカルのパン」
モフォガシ(mofo gasy)の「mofo」はパン、「gasy」は「マダガスカルの」。つまり直訳すれば「マダガスカルのパン」——国の名前をそのまま背負ったパンです。それだけ暮らしに根づいている、ということなのでしょう。
面白いのは、その主役が小麦ではなく米だということ。マダガスカルは、日本と同じく米を主食にする国です。島の食文化には東南アジアとアフリカ、両方の影響が流れ込んでいると言われていて、モフォガシもそうした流れの中で生まれたという説があります。米を粉にひき、イーストでふくらませ、砂糖でほんのり甘く。米の国のパンらしい、素直な成り立ちです。
現地では、モフォガシは朝の屋台の食べものです。街角のコーヒースタンドには専用のアルミの焼き型が炭火にかかっていて、焼きたてが次々に売れていく。マダガスカルでは朝食を家で作らず屋台で買うのがごく普通で、ある日本人旅行者の記録によれば、値段は1個あたり日本円にして数円ほど。地元の人が次々に立ち寄っては、コーヒー片手にほおばっていくそうです。
生地は「ゆるい」が正解。混ぜて、待つだけ
モフォガシの生地は、こねません。パンというよりホットケーキに近い、とろりと流れる状態の生地(バッター)を、イーストの力で発酵させます。手が汚れる工程がひとつもないので、パン作りの中でもかなり気楽な部類です。
日本の材料に置き換えると、こんな具合です(たこ焼き器1回分・15個ほど)。
- 薄力粉 60g(現地風に全粒粉を混ぜても)
- 米粉 45g(現地では粗くひいた米を使うので、ざらつきのある米粉ならなお近い)
- ドライイースト 小さじ1/2
- 砂糖 大さじ2(半分は最初に、半分はあとから)
- ぬるま湯 180ml(お風呂くらいの温度。熱湯はイーストが弱るのでNG)
- あればバニラエッセンス少々、練乳小さじ1と1/2(コクが出ます)
作り方の流れも、拍子抜けするほどシンプルです。
- 粉類・イースト・砂糖の半量をボウルで混ぜ、ぬるま湯を注いでなめらかになるまで混ぜる。
- ラップをして、暖かい場所で1〜2時間。米粉が水を吸ってしっとりし、生地がふつふつしてきます。
- 残りの砂糖とバニラを混ぜ込み、さらに30〜45分。表面が泡立ち、ほんのり酸味のある匂いがしてきたら焼きどきの合図です。
夜のうちに生地を混ぜて冷蔵庫に入れ、朝出して室温に1〜2時間置いてから焼く、という前夜仕込みの方法も参考レシピで紹介されていました。休日の朝、コーヒーを淹れているあいだに生地が目を覚ましてくれる段取りです。
朝に:たこ焼き器で、まんまるに焼く
現地の焼き型は、丸いくぼみが並んだアルミの鉄板。海外のレシピではデンマークの丸いパンケーキ用の型(エイブルスキーバーパン)が定番の代用品ですが、日本の台所には、もっと身近な相棒がいます。そう、たこ焼き器。くぼみに生地を流して焼く道具として、ほとんどそのまま使えます。
- たこ焼き器を中火で温め、穴のひとつひとつに油をなじませる。
- 生地を穴の八分目まで流す(大さじ1くらい)。じゅわっと音がして、ふちに小さな泡が立ちます。
- 1〜2分、底がきつね色になり、ふちが固まってきたら、竹串でくるりと返す。
- さらに1〜2分。全体が黄金色になり、串を刺して生地がついてこなければ焼き上がり。
焼き上がりを割ると、中から湯気とともに、甘い米の香り。外側は薄くカリッと、中は米粉ならではのもっちりふんわり。甘さは控えめなので、朝の一杯にすっと寄り添います。現地流ならブラックに近い濃いコーヒー、日本の台所ならミルクたっぷりのカフェオレでも。焼きたてを頬ばりながら飲むコーヒーは、それだけで小さな旅です。
よくある失敗と、その直し方
初めてでも大きくは外しませんが、つまずきどころは決まっています。
- ふくらまない → お湯が熱すぎたか、部屋が寒いか。ぬるま湯は「気持ちいいお風呂」の温度で。冬場はオーブンの発酵機能や、湯を張ったボウルの上へ。
- 酸っぱい匂いがして不安 → それは失敗ではなく、発酵が進んだ合図。参考レシピでも「ほんのり酸味のある香りがしたら準備OK」とされています。安心して焼いてください。
- 型にくっつく → 油が足りません。1回焼くごとに、穴ごとに油を塗り直すくらいでちょうどいい。
- 外は焦げたのに中が生 → 火が強すぎます。たこ焼き器は意外と高温になるので、中火以下でじっくり。返してからの1〜2分を省略しないこと。
米粉の配合は製品によって吸水が違うので、生地が固ければぬるま湯を、ゆるすぎれば米粉を少し。二度目からは、自分の台所の「ちょうどいい」が見えてきます。
海辺には、ココナッツの親戚がいる
マダガスカルの海岸部には、水の代わりにココナッツミルクで生地を作る親戚がいます。名前は「ムカリ(mokary voanio、mokary cocoとも)」。ココナッツの油分でコクが増した、南国らしい一枚です。日本で試すなら、ぬるま湯の半分をココナッツミルクに置き換えるだけで、台所がぐっと島に近づきます。
たこ焼き器は、たこ焼きのためだけの道具ではなかったのです。今度の週末、粉と米粉を混ぜてひと晩あずけて、朝いちばんに鉄板へ。ぷくぷくとふくらむまんまるを串で返しながら、マダガスカルの街角の炭火の匂いを、少しだけ想像してみてください。
