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ジョージアの舟形チーズパン「アジャルリ・ハチャプリ」——とろけるチーズに卵を落とす、黒海の名物

2026年06月20日 読了時間 約9分
舟形に焼いたジョージアのチーズパン、アジャルリ・ハチャプリ。中央のとろけるチーズに卵黄をのせている

# ジョージアの舟形チーズパン「アジャルリ・ハチャプリ」——とろけるチーズに卵を落とす、黒海の名物

ぷっくりと膨らんだパンの“舟”に、なみなみと溶けたチーズ。その真ん中に、つやつやの卵黄がひとつ。アツアツのうちにバターと卵を崩して混ぜ、ちぎったパンですくって食べる——。これがコーカサスの国ジョージアを代表するチーズパン「アジャルリ・ハチャプリ(Adjaruli khachapuri)」です。見た目のインパクトと、混ぜて食べる楽しさで、いま世界中の食通を惹きつけています。今回はこの舟形チーズパンの正体と、なぜ舟の形なのか、そして家庭で楽しむヒントを、パン作りの視点から紹介します。

舟の形をしたチーズパン

「ハチャプリ(khachapuri)」とは、ジョージア語で「ハチョ=カッテージチーズ」「プリ=パン」を意味する、チーズ入りパンの総称です。ジョージアには地方ごとにさまざまなハチャプリがありますが、世界でいちばん有名なのが、この舟形の「アジャルリ」。黒海に面したアジャリア(Adjara)地方の名物で、英語では「ジョージアン・チーズ・ボート(cheese boat)」とも呼ばれます。

ではなぜ、わざわざ舟の形をしているのでしょうか。よく語られるのは、この地方が古くから海に生き、舟づくりにも長けた人々の土地だったから、という由来です。海とともに暮らす人たちが、自分たちのパンもまた誇らしい“舟”の形にした——そんな物語が、この一品の背景にあります。形そのものに土地の暮らしが映し出されているのは、世界のパンを見ていて何度も出会う、心ときめくポイントです。

「舟」のかたちを見てみよう 🥚 卵黄(焼き上がりにのせる) ふちは折って“へさき”に 中はチーズの海
図:アジャルリ・ハチャプリの形(嬉兆オリジナル図解)

アジャルリとは——ハチャプリの中の一種

ハチャプリにはいくつもの種類があります。中央ジョージアのイメレティ地方発祥で、丸く平たくチーズを包む「イメルリ(Imeruli)」、三角形に折りたたむ「アチマ」など。その中でアジャルリは、舟形に成形し、卵をのせるのが最大の特徴です。

味の決め手はチーズ。伝統的には「イメルリ・チーズ」と「スルグニ(sulguni)」という2種類をブレンドします。イメルリはほろりとした素朴なチーズ、スルグニは加熱するとモッツァレラのようにとろけて伸びる引きの強いチーズ。この“ほろほろ”と“とろ〜り”の組み合わせが、あの中毒性のある食感を生み出します。家庭で作るなら、モッツァレラに少し塩気のあるチーズ(フェタなど)を足して近づける、という手も知られています。

ちなみにスルグニは、ジョージア西部のコルキス低地で発達した「練りチーズ」の一種。お湯の中でこねて伸ばしながら作るため、モッツァレラに似た独特の弾力が生まれます。チーズそのものに地方ごとの個性があり、その土地のチーズがその土地のパンを形づくっている——ハチャプリは、ジョージアの“チーズ地図”を味わうパンでもあるのです。

同じジョージアでも、壺窯(トネ)で焼く細長いパン「ショティ」とはまったく別の表情を見せてくれます。一国の中にこれだけ多彩なパン文化があるのも、ジョージアの奥深さです。

食べ方——卵とバターを崩して混ぜる

アジャルリ・ハチャプリの醍醐味は、その食べ方にあります。運ばれてきたときには、まだ卵黄は半熟のまま、てっぺんにちょこんとのっています。これを、提供された熱々のうちに、フォークで一気に崩すのです。

さらにバターをひとかけ落とし、卵黄・バター・とろけたチーズをぐるぐると混ぜ合わせる。すると、なめらかでクリーミーな“チーズの海”が完成します。あとは舟の端っこ(へさき)をちぎり取り、その海にひたしながら食べていく——。最後に残った舟の底まで、チーズを吸ってごちそうになります。一皿で「焼きたてパン」「フォンデュ」「卵かけ」のおいしさを全部味わえる、欲張りな一品なのです。

この「自分の手で仕上げて食べる」体験こそが、アジャルリ最大の魅力かもしれません。完成品が運ばれてくるのではなく、半熟卵を崩す瞬間から食事が始まる。一緒に食べる人と「せーの」で混ぜたり、誰がへさきを食べるかでわいわいしたり——食卓に小さなイベントが生まれます。だからこそ、ジョージアでは家族や友人と囲む“みんなのごちそう”として愛されてきたのです。

おいしい食べ方 🍴 ① 卵を崩す 熱いうちに 🧈 ② バターと混ぜる チーズの海に 🥖 ③ ちぎって浸す へさきから
図:アジャルリ・ハチャプリの食べ方(嬉兆オリジナル図解)

作り方の流れ

家庭で焼く場合の流れも、見ておきましょう。基本はイーストを使った発酵生地です。

まず、小麦粉・イースト・砂糖・塩・水・オイルをよく混ね、なめらかになるまでこねて発酵させます。ふくらんだ生地を分割し、丸く伸ばしたら、左右の端をくるくると内側に巻き込み、両端をぎゅっとつまんでねじって留める。これであの“舟”の形ができあがります。

舟の真ん中にチーズをたっぷり詰めたら、高温のオーブンへ。チーズが溶けてふちがこんがり色づいたら、いったん取り出します。フォークでチーズの中央にくぼみを作り、そこへ卵を割り入れて、再びオーブンへ。白身がふんわり固まり、黄身がとろりと半熟のうちに焼き上げるのがコツです。最後にバターをのせて、熱々で食卓へ運びます。

焼き方の流れ 🌾 発酵生地 ① こねる 端を巻く ② 舟に成形 🧀 高温で ③ チーズ詰め焼成 🥚 半熟で仕上げ ④ 卵を落とす
図:アジャルリ・ハチャプリの作り方(嬉兆オリジナル図解)

家庭で楽しむヒント

本格的なチーズが手に入らなくても、雰囲気は十分に楽しめます。いくつかコツを挙げておきます。

  • チーズは“とろける×塩気”の二段構え:モッツァレラなど伸びるチーズをベースに、少量のフェタやピザ用チーズを足すと、本場の塩気とコクに近づきます。
  • 卵は焼き上がり直前に:最初から卵をのせると固くなりすぎます。チーズが溶けてから割り入れ、半熟で止めるのが黄金ルール。
  • 舟の形は無理しない:きれいに巻けなくても大丈夫。長方形の生地のふちを立てて“へり”を作るだけでも、チーズがこぼれにくくなります。
  • 熱々を食卓へ:このパンは冷めると魅力半減。焼けたらすぐ、家族みんなで囲んで「崩して混ぜる」ライブ感ごと味わってください。

チーズパンつながりでは、フィリピンの紫いも×チーズの惣菜パン「ウベ・チーズ・パンデサル」も、おやつ感覚で楽しめておすすめです。

まとめ

アジャルリ・ハチャプリは、黒海に生きた人々の暮らしが「舟の形」として刻まれた、ジョージアの誇るチーズパンです。とろけるチーズに卵とバターを混ぜ込み、ちぎって浸して食べる——その体験そのものがごちそう。専用のチーズがなくても、手持ちのチーズで“わが家の舟”は十分に焼けます。週末のブランチに、ちょっと特別な一皿として焼いてみてはいかがでしょうか。

参考にした情報源

  • Saveur「Adjaruli Khachapuri (Georgian Cheese Bread)」 https://www.saveur.com/adjaruli-khachapuri-georgian-cheese-bread-recipe
  • Curious Cuisiniere「Adjaruli Khachapuri (Georgian Cheese Bread)」 https://www.curiouscuisiniere.com/khachapuri-georgian-cheese-bread/
  • Caroline’s Cooking「Imeruli khachapuri (Georgian cheese filled bread)」 https://www.carolinescooking.com/imeruli-khachapuri-georgian-cheese-filled-bread/
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