夕方のカンパラ。炭火にかけた丸い鉄板の上でチャパティがぷくりとふくらみ、その隣で溶き卵がじゅうっと音を立てます。ロレックスは、ウガンダの国民的屋台メシです。焼きたてのチャパティに、キャベツやトマトを混ぜ込んだ卵焼きをのせて、くるくると巻いただけ——なのにこれが、街のどこかで一日中、誰かの朝食になり、昼食になり、夜食になっています。名前の由来はあの高級腕時計……ではなく、「rolled eggs(巻いた卵)」の早口。この記事では、その愉快な名前の物語から、屋台の手さばき、国を挙げたお祭りと204.6kgのギネス世界記録、そしてフライパン1枚でできる日本の家庭向けレシピまでを紹介します。
「巻いた卵」が、いつしか「ロレックス」に
ロレックスの正体は、いたって素朴です。野菜入りのオムレツをチャパティで巻く。それだけ。けれど名前には、ウガンダの人たちのユーモアが詰まっています。「rolled eggs(巻いた卵)」を早口で言ううちに「ロレックス」と聞こえるようになった、というのが定説。ギネス世界記録の公式記事も、現地で愛される言い回しとして「ウガンダではロレックスは着けない、食べるんだ」という一言を紹介しています。時計会社が怒るどころか、いまや観光客がわざわざ「本物のロレックス」を探しに来るのだから、名前の勝利です。
土台のチャパティは、もともとインド生まれの無発酵の薄焼きパン。19世紀末、ウガンダ鉄道の建設のために渡ってきたインド人労働者たちが伝えたとされます。そこに卵焼きを巻く食べ方が生まれたのは、東部のブソガ地方。やがて首都カンパラのマケレレ大学近く、ワンデゲヤ地区の学生たちのあいだで大流行し、「安くて早い学生メシ」から、階層を越えて愛される国民食へ駆け上がりました。チャパティそのものの背景や基本の焼き方は、インドのチャパティの記事で詳しく紹介しています。
屋台の鉄板、注文から5分足らずの早業
ロレックスの屋台は、炭火と丸い鉄板と小さな台があれば開店できます。注文が入ってからの流れは、見ていて飽きません。
- ボウルに卵を割り、刻んだキャベツ・トマト・玉ねぎと塩を混ぜる
- 油をひいた鉄板に流し、丸いオムレツに焼き上げる
- 焼き上がったオムレツを、先に焼いておいたチャパティに重ねる
- 端からくるくると巻いて、紙にくるんで手渡し
ここまで5分とかかりません。価格は安いもので1,000ウガンダ・シリング(約0.28米ドル、日本円にして40円ほど)から。2022年には小麦粉と食用油の高騰による値上がりも報じられましたが、それでも「迷ったらロレックス」という立ち位置は揺らいでいません。学校帰りの軽食にも、オフィスの昼にも、この一本が差し込まれます。
進化形もあります。チャパティを何枚も重ねた大物は「タイタニック」。チャパティに煮豆を合わせた「キコマンド」は、任務中に手早くかき込むコマンド部隊にちなんだ名前だとか。ネーミングのセンスまで、どこか陽気な国です。東アフリカの屋台パン仲間なら、ふんわり揚げパンのケニアのマンダジもぜひ。
国を挙げたお祭りと、204.6kgのギネス記録
ロレックスは、いまやウガンダ観光の顔でもあります。2016年、起業家のエニッド・ミレンベさんが「ロレックス・イニシアチブ」を立ち上げ、ロレックス・フェスティバルを創設。カンパラ中心部で毎年開かれ、ウガンダ観光局も後押しする恒例行事に育ちました。通りに並んだ屋台が一斉に鉄板を熱し、客は巻きたてを片手に食べ歩く。屋台メシが主役の、まっすぐなお祭りです。
そして2021年11月4日、ワキソ県カソコソで、とんでもない記録が生まれました。ユーチューバーのレイモンド・カフマさん率いる60人のチームが挑んだ、「世界最大のウガンダン・ロレックス」のギネス世界記録です。
- 完成重量:204.6kg(451ポンド)
- 大きさ:全長2.32m、最大直径0.66m
- 材料:小麦粉72kg、卵1,200個、野菜(玉ねぎ・トマト・キャベツ・にんじん・ピーマン)90kg、食用油40kg
- 調理時間:14時間36分。構想と試作に約1年
普通サイズのおよそ2,000本ぶん。最大の難関は巨大チャパティを破らずに巻くことで、フィルムを添わせて転がすように巻く方法で乗り切ったそうです。40円の軽食が、国の誇りとして世界記録になる——この距離の近さこそ、ロレックスという食べものの人徳かもしれません。
日本の台所でロレックス——チャパティ生地から
ロレックスのいいところは、特別な道具がいらないこと。フライパン1枚で、チャパティも卵焼きも焼けます。参考記事のレシピを日本の計量に直した目安はこちら(チャパティ4〜5枚分)。
チャパティ生地
- 中力粉(または強力粉と薄力粉を半々)300g
- 塩・砂糖 各小さじ1/2
- サラダ油 大さじ2(生地用。焼くときは別途少量)
- ぬるま湯 210〜220ml
粉類と油を混ぜ、ぬるま湯を少しずつ。耳たぶよりやわらかい、少しべたつくくらいの生地にまとめて10分ほどこね、濡れ布巾をかけて20〜30分休ませます。生地玉に分けて麺棒で直径20cmほどに薄くのばし、中火のフライパンで両面を焼く。ぷくっとふくらんで、きつね色の斑点が浮いたら合図です。焼けたそばから布巾に包んでおくと、しっとり巻きやすいまま待っていてくれます。
卵焼き(1本分)
- 卵 2個
- キャベツのせん切り ひとつかみ
- トマト・玉ねぎのみじん切り 各大さじ1〜2
- 塩 少々
野菜は水気をよく切ってから卵に混ぜ、油をひいたフライパンで丸く焼きます。両面が固まったら、まな板の上のチャパティにのせて、端からくるくる。巻き終わりを下にして少し置くと、全体がなじんで食べやすくなります。かぶりつけば、チャパティのもっちり、卵のふんわり、キャベツのしゃきしゃき。朝の台所が、少しだけカンパラの路上になります。
よくある失敗と、その直し方
- チャパティが割れて巻けない → 焼きすぎか、冷めすぎです。中火で手早く焼き、焼けたら布巾に包んで保温を。巻くのは温かいうちに。
- 生地がべたついて扱えない → このパンは、やわらかめの生地が正解。打ち粉を足しすぎず、手に薄く油を塗って扱うとまとまります。
- 卵焼きが破れる → トマトの水気が残っているサイン。野菜の水切りをしっかり。卵2個に野菜を詰め込みすぎないのもコツです。
- 巻いてもほどけてくる → 卵焼きが温かいうちにチャパティと重ねて巻き、巻き終わりを下にしてなじませて。紙でくるめば、ほどけ防止と屋台気分の一石二鳥。
週末の朝に、ひと巻き
ロレックスには、高級時計のような気取りはひとつもありません。あるのは炭火の匂いと、巻きたての温かさと、「巻いた卵」を「ロレックス」と呼んでしまう人たちの陽気さだけ。今度の週末、フライパン1枚でチャパティを焼いて、卵焼きをくるり。腕にはめる代わりに皿にのせれば、いつもの朝食が、ちょっと自慢したくなる一本になるはずです。
参考情報源
- Guinness World Records https://www.guinnessworldrecords.com/news/2022/2/massive-ugandan-rolex-weighing-200-kg-breaks-world-record-691537
- Wikipedia「Rolex (food)」 https://en.wikipedia.org/wiki/Rolex_(food)
- Wikipedia「Enid Mirembe」 https://en.wikipedia.org/wiki/Enid_Mirembe
- Slurrp https://www.slurrp.com/article/ugandas-giant-egg-rolex-makes-a-world-record-and-wins-hearts-on-the-internet-1643709373474
- AllMomDoes https://www.allmomdoes.com/blog/rolex-recipe-a-delicious-popular-ugandan-street-food/
