イランの朝の食卓に欠かせないのが、細長い平焼きパン「バルバリ(Barbari/نان بربری)」です。平焼きパンのなかでは世界でも有数の厚みを持ち、表面に何本もの溝が刻まれ、ゴマやニゲラ(ブラッククミン)を散らして焼きます。この記事では、バルバリとは何か、溝と独特の焼き方、そして名前の由来と歴史を、出典を確認しながら整理します。
※トップの写真はイメージです。イランの本場のバルバリそのものとは見た目が異なる場合がありますが、細長く溝を刻んだ厚めの平焼きパンという特徴が共通します。
バルバリとは何か
バルバリは、イーストで発酵させた平焼きパンです。平たいパンでありながら厚みがあり、外はパリッ、中はふんわり。イランでもっとも日常的に食べられているパンのひとつで、朝食に「リグヴァン(Lighvan)」と呼ばれるフェタに似たチーズや、ジャム、クリーム、ナッツ、果物などを添えて食べます。
黄金色の表面には、縦に何本もの細長い溝が刻まれているのが特徴です。サンギャク、タフトゥーン、ラヴァシュと並ぶ「イランの主要な4つのパン」の一つに数えられ、なかでもバルバリは厚みのある食べごたえで、朝食の主役として広く親しまれています。
図:バルバリの特徴
溝と「ローマル」、そしてプレッツェルのような皮
バルバリづくりの特徴は、焼く前のひと手間にあります。成形した生地に指で縦の溝をつけ、表面に小麦粉と水(でんぷん糊)を煮たもの——「ローマル(roomal)」と呼ばれる糊状の液——を塗ってから、ゴマやニゲラを散らします。
このひと塗りが、焼成中のメイラード反応を助け、プレッツェルやラウゲン(アルカリ液)系のパンに似た、つややかで香ばしい皮を生みます。溝は見た目だけでなく、厚い生地に均一に火を通し、独特の歯ざわりを作る役割も果たします。
図:焼く前のひと手間
名前の由来と歴史
バルバリの歴史は、イランを18世紀末から20世紀前半に治めたガージャール朝の時代にさかのぼるとされます。名前は、19世紀ごろにテヘラン周辺に暮らした「バルバル(Barbar)」と呼ばれる人々に由来すると伝えられています。とりわけ、バルバル・ハザーラの人々がこのパンを焼き、ガージャール朝の時代にテヘランへ広めた、という説が知られています。
こうした由来には諸説あり、はっきり断定できない部分もあるため、ここでは「〜とされる/伝えられる」話として紹介します。確かなのは、バルバリが今日もイランでもっとも親しまれる主食パンのひとつであり、毎朝パン屋が早朝から焼き上げて人々の食卓に届けている、という事実です。
図:早朝に焼かれる主食パン
日本の家庭での活かし方
バルバリは特別な窯がなくても、家庭のオーブンで雰囲気を楽しめるパンです。「厚めで、表面につやと溝のある平焼きパン」を目指します。
- ローマルでつやを出す:小麦粉小さじ1ほどを水で溶いて軽く煮た糊を、焼く前の生地に薄く塗ると、つややかで香ばしい皮になります。本場の風味に近づく簡単なひと手間です。
- 溝は指でしっかり:成形した生地に、指で縦の溝を深めにつけます。溝があることで火の通りがよくなり、独特の歯ざわりが生まれます。
- ゴマとニゲラを散らす:白ゴマだけでも十分ですが、ニゲラ(ブラッククミン)が手に入れば少量散らすと、本場らしい香りになります。
- 高温で短時間:厚みのある生地なので、オーブンをしっかり予熱し、高温で焼き上げると、外はパリッ・中はふんわりに仕上がります。焼きたてにチーズやはちみつを添えてどうぞ。
焼成温度や時間はオーブンによって変わります。表面が乾きやすいので、焼く直前までぬれぶきんをかけておくと扱いやすくなります。
