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インドネシアのロティ・ブアヤ(Roti Buaya)— 結婚式に欠かせない、ワニの形をした愛のパン

2026年07月02日 読了時間 約8分
インドネシアのロティ ブアヤ(Roti buaya)— ワニの形に込めた「一途な愛」、結婚式の贈りもの

ジャカルタの結婚式の朝、台所の隅に、こんがり焼けたワニが二匹、背中を寄せ合って横たわっている。長さは六十センチほど、鼻先から尾まで鱗の刻みが入った、甘い生地のパンです。ロティ・ブアヤ(Roti Buaya)は、インドネシア・ジャカルタの結婚式に欠かせない、ワニをかたどった縁起物のパン。花婿が花嫁に贈る「愛と誠実さの約束」を、生地のかたちに込めたものです。

この記事では、なぜワニなのかという由来から、必ず二匹一対で用意する決まり、そして日本の家庭で菓子パン生地を使って作るコツまでを紹介します。

ロティ・ブアヤとは

ロティ・ブアヤは、ジャカルタ先住民のブタウィ(Betawi)の人たちが伝えてきた、結婚式のための儀礼的なパンです。「ロティ」はパン、「ブアヤ」はワニを意味します。

食べることそのものより、贈ることに意味があります。ススラハン(seserahan)と呼ばれる結納の品のひとつとして、布や宝飾品と並んで運ばれ、「私はあなたと生涯を歩み、この家を支えます」という花婿の誓いを表します。

  • 産地・地域:インドネシア・ジャカルタ(旧バタヴィア)、ブタウィ文化圏
  • 用途:結婚式・結納(ススラハン)の贈り物
  • :全長およそ60cm、ワニをかたどる。表面に鱗の刻み
  • 決まり:必ず二匹一対で用意する

なぜワニなのか — 由来

かつてジャカルタはバタヴィアと呼ばれ、十三もの川が流れる湿った土地でした。水辺にはワニがいて、人々にとっては恐ろしくもあり、敬うべき存在でもありました。むやみに殺せば災いが返ってくると信じられるほど、この土地と分かちがたく結びついた生きものだったのです。

ブタウィの人たちは、そのワニにもうひとつの意味を見ました。ワニは生涯ただ一匹の相手と添い遂げるとされ、その一途さから「誠実」「一生添い遂げる」の象徴になったのです。だから二人が生涯をひとつにする結婚の日に、ワニほどふさわしい使者はいませんでした。

面白いのは、はじめからパンだったわけではないこと。小麦の生地が伝わる前は、人々はヤムイモやキャッサバを練ってワニのかたちにしていました。やがて大航海時代、バタヴィアに住んだポルトガルやオランダの人々が発酵させて膨らむパンを伝え、ワニは芋から小麦のパンへと姿を変えました。材料は変わっても、込められた意味は変わっていません。

わざと硬く焼いた、その理由

昔のロティ・ブアヤは、わざと硬く焼かれていました。歯が立たないほど、かちかちに。もったいないようですが、これにはちゃんと理由があります。

やわらかいパンはすぐ食べてしまえば消えてしまいます。けれど硬く焼いたパンは簡単には朽ちず、長くそのかたちをとどめます。つまり硬さは、「私の愛は、すぐ消えるやわなものではありません」という宣言だったのです。食べられないことが誠実さの証、腐らないことが永遠の比喩。ずしりと重い手触りそのものが、贈り物の意味を担っていました。

二匹でひとつ、という決まり

ロティ・ブアヤには、ゆずれない約束があります。必ず二匹、一対で用意すること。一匹では意味をなしません。

  • 大きいほうを花婿、小さいほうを花嫁と見立てる地域がある
  • 二匹を対等の伴侶として並べる地域もある
  • どちらの解釈でも、芯にあるのは「ひとりではなく、ふたりで長い時間を並んで進む」という願い

背中合わせではなく、同じ方を向いて並べる。台所に横たわる二匹の向きにも、ちゃんと意味があります。

時代が変わり、今のロティ・ブアヤはずいぶんやわらかくなりました。歯が立たないほど硬く焼く家は少なくなり、かわりにふんわり甘い生地からチョコレートが流れ出したり、チーズの塩気がのぞいたり、ジャカルタらしくパンダンの緑が香ったり。式が終われば、招かれた人や若い親族が切り分けて食べ、幸せを分け合います。永遠を誓うために硬かったパンが、幸福を配るためにやわらかくなった——象徴も、時代とともに生きているのだと感じます。

日本の家庭で作るには

本式の儀礼を再現する必要はありません。誰かの誕生日や記念日、「いいことがあった」だけの日に、菓子パン生地でワニを焼いてみてください。できれば、ぜひ二匹。

材料(いつもの菓子パン生地でOK)

  • 強力粉
  • 砂糖・塩
  • バター
  • 卵(生地用+つや出しの溶き卵)
  • 牛乳
  • ドライイースト
  • 目用に黒ごま、レーズン、または丸く切った海苔

作り方

  1. 材料をよくこね、ふくれるまで一次発酵させる。
  2. 生地を分け、大きめのかたまりを胴体、細く伸ばしたものを尾、小さくちぎったものを四本の脚にする。
  3. 鼻先をつまんで整え、口は包丁の先で浅く一筋入れる。
  4. 鱗は、キッチンばさみの先で表面を斜めにちょきちょき切り込むと、ぐっとそれらしくなる。
  5. 目に黒ごま・レーズン・海苔などをつける。
  6. 二次発酵でひとまわりふくらませる。
  7. つや出しの溶き卵を、はけで全身に塗る(これを忘れると照りがまるで違う)。
  8. 180度のオーブンで12〜15分。表面がきつね色に染まったら焼き上がり。

完璧な造形でなくて大丈夫。少しいびつなワニのほうが愛嬌があります。脚が一本取れても、尾が短くても、ワニはワニ。二匹並べたとき片方がちょっと不格好なくらいが、かえって本物の夫婦みたいで微笑ましいものです。

二匹のワニを皿の上で背を寄せ合わせ、同じ方を向かせて並べる。それだけで、なんでもない午後の台所が、ほんの少し、誰かの幸せを願う場所になります。「ふたりが、ずっと、並んでいられますように」——沼の街の昔の人たちが込めた素朴な願いは、海をこえても、ちゃんと伝わります。

参考にした情報源

  • Roti buaya — Wikipedia https://en.wikipedia.org/wiki/Roti_buaya
  • Roti Buaya: A Wedding Gift That Means So Much More — Good Indonesian Food https://www.goodindonesianfood.com/story/en/roti-buaya-a-wedding-gift-that-means-so-much-more/
  • Roti Buaya, a Symbol of Loyalty — NOW! Jakarta https://www.nowjakarta.co.id/roti-buaya-a-symbol-of-loyalty/
  • Roti Buaya, a Crocodile-Shaped Culinary Treasure from Indonesia — Seasia https://seasia.co/2025/04/14/roti-buaya-a-crocodile-shaped-culinary-treasure-from-indonesia
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