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中国・西安の白吉饃(バイジーモー)— 「鉄の輪・虎の背・菊の芯」、焼き紋で目利きする円盤パン

2026年08月02日 読了時間 約9分
嬉兆オリジナル図版: 中国・西安の白吉饃(バイジーモー)。焼き紋のある円盤パンのイラスト

西安の路地の店先。焼きたての白い円盤パンに包丁がすっと入り、立ちのぼる湯気のなかへ、飴色に煮えた豚肉がどっさり刻み込まれていきます。「中国のハンバーガー」と世界で呼ばれる肉夹馍(ロウジャーモー)——その主役の半分が、今回のパン、白吉饃(バイジーモー)です。小麦粉の生地をあえて発酵させきらずに焼き締めた、外はカリッ、中はふんわりの平焼きパン。この記事では、名前の由来と歴史、焼き紋を読む「鉄圏虎背菊花心」という目利きの言葉、そしてフライパンとオーブンでの家庭再現までを、参考記事を読み解きながら紹介します。

あべこべな名前——「肉夹馍」と白吉饃

肉夹馍は陝西省・西安を代表する屋台の味。「馍(モー)」は小麦の焼きパンなどを指す言葉で、語順どおりに読むと「肉が、パンを挟む」——あべこべです。これにはよく語られる説があります。本来の「馍夹肉(モージャーロウ)」だと、発音が「没夹肉(肉が挟まってない)」に聞こえてしまう。それならひっくり返してしまえ、と「肉夹馍」になった——真偽はさておき、屋台の呼び声の景気の良さが目に浮かぶ話です。

皮の白吉饃の名は、陝西省の白吉鎮という町に由来するという説が有力(これも諸説あります)。煮込み肉の伝統は秦の時代までさかのぼると地元では語られ、隋唐の頃には「馍夹肉」の名が見え、明清の時代に街角へ広まった——人民日報はそんな来歴を紹介しています。シルクロードの起点だった西安で、回族やウイグル族が磨いた「焼きパンの技」と、漢族の「豚を煮込む技」が出会って生まれた合作、という見立ても面白いところです。

「鉄圏虎背菊花心」——焼き紋を読む、目利きの言葉

白吉饃の良し悪しは、焼き紋で見抜けるといいます。合言葉は「鉄圏虎背菊花心(鉄の輪・虎の背・菊の芯)」。

  • 鉄圏:ふちにくっきり一周まわる、こんがり金色の輪。
  • 虎背:ふくらんだ背に浮かぶ、トラ柄のような焼き斑。
  • 菊花心:中心にきゅっと渦を巻く、菊の花芯のような紋様。

三つそろえば、生地の固さも、成形の渦も、火加減も正しかった証拠。焼き紋は職人の成績表なのです。肉夹馍づくりの技は無形文化遺産の項目にもなっていて、認定された継承者がいるほど。一方で産業化も進み、産地のひとつ潼関県では冷凍の饃が年間7億枚も作られ、海外へ輸出されているそうです(人民日報・2025年1月)。それでも手焼きの紋様は、機械には出せない「本物のしるし」として大切にされています。

皮の秘密は「半発酵」——ふくらませすぎない勇気

白吉饃の生地には、パン作りの常識を軽くひっくり返す特徴があります。発酵させきらないのです。

イーストはほんの少し、休ませるのも30分ほど。倍にふくらむ前の「半発酵」で焼きに入ります。ふわふわを目指さないのは、肉汁をたっぷり受け止めてもへたらない、目の詰まったしなやかな皮がゴールだから。水も粉の50%前後とかなり固めの配合です。同じ中国の小麦パンでも、ふわふわに蒸し上げるマントウとは正反対の思想で、同じ粉からまるで逆の答えを出しているのが愉快です。

成形がまた楽しい。生地を細長くのばし、端からくるくると巻き上げ、巻き終わりを底へ押し込んでから、手のひらでぐっと押しつぶす。すると中心に渦が残ります——これがあの「菊花心」の正体。巻いた生地の記憶が、焼き上がりの紋様になって現れるのです。

もう半分の主役、「臘汁肉(ラージーロウ)」

挟む肉は臘汁肉。「臘」は辛さの「辣」ではなく、代々受け継いだ古い煮汁を指す字とされます。現地の老舗では、八角や桂皮、花椒など二十種類を超える香辛料を合わせた煮汁「老湯」で、豚肉を四時間以上とろ火で煮込むのだとか。煮汁は継ぎ足し継ぎ足し、店の宝物。飴色に煮えた塊肉を注文ごとにまな板でトントンと刻み、煮汁をひとさじ混ぜて、焼きたての饃のポケットへ。皮はサクッ、肉はとろり、噛むほどに八角の香りが鼻に抜けます。

家庭で再現——フライパンとオーブンで焼く白吉饃

現地の伝統的な店は専用の炉で焼き上げますが、家庭はフライパン+オーブンで十分。「炉で焼くパン」の仲間として、窯の内壁にペタリと貼って焼く台湾の胡椒餅を思い出す人もいるはずです。

材料(4枚分):

  • 中力粉 250g(強力粉+薄力粉半々でも)
  • 水 約125ml(粉の50%が目安)
  • ドライイースト 小さじ1/2、ベーキングパウダー 小さじ1/2
  • 砂糖 小さじ1、塩 小さじ1/2

手順:

  • こねる:材料をまとめ、なめらかになるまでこねたら30分だけ休ませる。倍にふくらませないのが白吉饃流。
  • 成形:4等分し、細長くのばして端からロール状に巻き、巻き終わりを底へ押し込む。直径8〜10cm・厚さ2cmほどに押しつぶし、中心をやや薄く、浅いお椀のようにすると本場の顔つきに。
  • フライパン:油をひかない乾いた厚手のフライパンを中火に。くぼみ面を下にして片面1〜2分ずつ、金色の焼き斑が浮くまで。じりじりと粉の香ばしい匂いが立ってきます。
  • オーブン:200℃に予熱したオーブンへ移して8〜10分。ここでぷっくりふくらみ、中まで火が通ります。

肉は「角煮の応用」でいい——日本の台所向けの現実解

老湯から臘汁肉を育てるのは、一朝一夕にはいきません。でも大丈夫、豚の角煮を作れる人なら、もう八合目です。皮付き豚バラを下ゆでし、醤油・紹興酒(なければ日本酒)・氷砂糖に、八角1個、シナモンひとかけ、あれば花椒を加えて1時間〜1時間半、汁がとろりとするまで煮るだけ。市販の角煮やチャーシューなら、八角と花椒を足して10分煮直すと、ぐっとあちらの顔になります。仕上げは必ず「煮汁ごと細かく刻んで挟む」。この刻む一手間こそが、肉夹馍を肉夹馍たらしめる儀式です。

よくある失敗と、その直し方

  • ふくらまず、せんべいになった → 半発酵といえど発酵ゼロではありません。30分の休ませ時間と、イーストの鮮度を確認。
  • 表面ばかり焦げて中が生 → 火が強いか、厚すぎ。フライパンは中火まで、仕上げのオーブン8〜10分を省略しないのが保険です。
  • 焼き紋が出ない → 油をひいていませんか。乾いたフライパンで焼くからこそ、あの虎柄が浮かびます。
  • 切ったら崩れた → 焼きたて直後は切らず、数分落ち着かせて。切り込みは奥のふちを残し、ポケット状に。
  • 皮が肉汁でべちゃべちゃ → 煮汁は刻んだ肉に混ぜる程度に。挟む直前の汁だくは禁物です。

日曜の昼、台所が西安になる

焼き上がった白吉饃に切り込みを入れると、ふわっと湯気が立って、渦巻きの菊花心が顔をのぞかせます。そこへ八角の香る煮豚をどっさり。かぶりつけば皮はカリッ、肉はとろり——二千年級の歴史を背負うといわれる組み合わせの、有無を言わせぬ説得力に笑ってしまうはずです。まずは角煮を仕込む日曜に、フライパンをひとつ空けておいてください。ふちに「鉄の輪」がうまく回ったら、あなたはもう、西安の目利きの入り口に立っています。

参考情報源

  • The Mala Market https://blog.themalamarket.com/xian-chinese-hamburger-roujiamo/
  • Chill Crisp by Xueci Cheng https://chillcrispbyxueci.substack.com/p/homemade-xian-roujiamo
  • Eat with Jin https://eatwithjin.com/2020/10/07/rou-jia-mo-bun-bai-ji-mo-%E7%99%BD%E5%90%89%E9%A6%8D/
  • 人民日報海外版 http://paper.people.com.cn/rmrbhwb/pc/content/202501/02/content_30049319.html
  • 新浪博客(Yukifood) https://blog.sina.com.cn/s/blog_6db2f5270102vicm.html
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