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ジョージアの壺窯トネで焼く舟形パン「ショティ(shotis puri)」——壁に貼り付けて焼く”母のパン”

2026年06月14日 読了時間 約8分

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ジョージアの壺窯トネで焼かれる舟形パン、ショティ

黒海とカスピ海にはさまれたコーカサスの国ジョージア。そこには、円筒形の粘土窯の燃えるような内壁に生地を直接貼り付けて焼く、舟形のパンがあります。その名は「ショティ(shotis puri)」。カヌーのように細長く、両端がきゅっととがったその姿は、一度見たら忘れられません。

今回は、ジョージアの食卓に欠かせないこの伝統パンの背景と焼き方を、現地の事実にもとづいてご紹介します。窯の熱を家庭のオーブンでどう近づけるか、というところまで一緒に考えていきましょう。

トネ(tone)という壺窯と、舟形の理由

ショティ(shoti)は、白い小麦粉・水・塩・イーストで作られる、ジョージアの伝統的なフラットブレッドです。生地はカヌー(舟)のような形にのばされ、「トネ(torne)」と呼ばれる円筒形の粘土窯で焼かれます。トネはタンドールに似た縦型の窯で、焼くときには生地を窯の熱い内壁に直接貼り付ける、という独特の方法をとります。

この細長い形には呼び名の由来も関わっています。「shotis puri」は文字どおり訳すと「サーベルのパン」。「shotis」がサーベル(細身の剣)、「puri」がパンを意味します。三日月のように反ったその形は、古代の月の信仰に結びついていて、半月の姿が月そのものを表していたのではないか、という説も伝わっています。

成形のときにもうひとつ欠かせない工程があります。生地の中央に穴を開けることです。これは飾りではなく、技術的に必要な手順だとされています。穴がないと焼成中に内部の熱い空気が膨張し、パンが大きな風船のようにふくらんでしまうためです。中央の穴は、その膨張を逃がす”蒸気抜き”の役割を果たしています。

「母のパン」と呼ばれる理由、そして食卓での役割

ショティは、ジョージアで「母のパン(mother’s bread)」とも呼ばれます。古くから、栄養と家庭の暮らしを象徴する存在だったからです。その起源は東部のカヘティ地方にあるとされ、家族のなかで最年長の女性がトネ窯でこのパンを焼いていました。焼き手は生地をこねながら、家族みんなのために祈りを込めたと伝えられています。パンを焼くという日々の営みが、家族への祈りと重なっていたわけです。

食卓での存在感も格別です。ジョージアの伝統的な宴席「スプラ(supra)」では、トネ窯から出たばかりの温かいショティが、ワインやチーズとともにテーブルの中心に据えられます。スプラを取り仕切るのは「タマダ(tamada)」と呼ばれる乾杯の進行役。パンが整えられてはじめて、宴は動きはじめます。パンがその場の中心にあることが、ジョージアの食文化のひとつの象徴になっているのです。

地方によって変わるショティの姿

ひとくちにショティといっても、地方によって形や食感が変わります。

東部カヘティ地方のショティは、長く三日月形で、片側が厚く反対側が薄いのが特徴。剣を思わせる姿です。西部イメレティ地方のものはより短く、幅広で、やわらかい食感。南部メスヘティ地方のものは丸くて密度が高く、ときにとうもろこし粉を混ぜて作られることもあります。同じ「ショティ」という名前のもとに、地域それぞれの暮らしと好みが映し出されているのが面白いところです。

日本の家庭での活かし方

トネ窯は家庭にはありませんが、高温と蓄熱、そして蒸気を工夫すれば、家庭のオーブンでもショティの雰囲気にぐっと近づけます。ここでは2枚分の配合と手順をご紹介します。

配合(2枚分)

  • 強力粉:400g(全粒粉を20%混ぜると風味がより豊かになります)
  • 水:280ml(粉に対して約70%。季節で調整してください)
  • ドライイースト:6g
  • 塩:5g
  • 油:30ml(オリーブ油またはサンフラワー油)
  • 砂糖:2.5g(イーストの活性化用)

手順

  1. 水を30〜35℃に温め、イーストと砂糖を加えて10〜15分おきます。表面にイーストの泡(キャップ)が浮いてくればOKです。
  2. ボウルに粉と塩を入れ、中央にくぼみを作ってイースト液を注ぎます。
  3. スプーンから手に持ちかえてこね、生地がまとまったら油を少しずつ加えながら約10分こねます。
  4. 油を塗った深めの容器に移し、30〜40℃で1時間発酵させます(オーブンの発酵機能が便利です)。
  5. 2等分して軽く丸め、濡れ布巾をかけて15分休ませてから、手で舟形(長さ20〜25cm、幅8cmほど)にのばします。
  6. 竹串などで、生地の中央に蒸気抜きの穴を開けます。

イーストの発酵には、安定した品質のドライイーストがあると安心です。

高温と蒸気を再現するコツ

トネ窯の魅力は、なんといっても高い熱と蓄熱です。家庭のオーブンは最高温度(260〜288℃/500〜550℉)まで予熱しておきましょう。鋳鉄のダッチオーブンを使うと、ふたつきの密閉空間に熱がこもり、壺窯の蓄熱と蒸気をある程度まで近づけることができます。生地をのせたベーキングペーパーをダッチオーブンに入れ、ふたをして焼くと、内部に水分が閉じ込められて皮の表情が変わります。

家庭で壺窯の高温と蓄熱を近づける道具として、ふたつきの鋳鉄ダッチオーブンが頼りになります。

蒸気が足りないと感じたら、焼き始めに生地の表面へ霧吹きで軽く水をかける方法もあります。皮をパリッとさせたいときに便利です。

焼成

オーブンが充分に高温になったら、まず4〜5分焼きます。いったん天板の向きを180度回転させ、さらに3〜4分、表面が薄いキツネ色になり、底に濃い焼き色がつくまで焼きます(合計7〜9分が目安)。家庭のオーブンは底面が濃く色づきやすいので、底にパーチメント紙や薄いアルミホイルを敷くと、焦げすぎを防げます。

粉の吸水率は種類によって変わります。水は3〜4回に分けて加え、生地の様子を見ながら調整してください。

まとめ

ショティ(shotis puri)は、白い小麦粉の生地を舟形に成形し、トネという円筒形の粘土窯の内壁に貼り付けて焼くジョージアの伝統パンです。「サーベルのパン」という名の由来、中央の穴がもつ蒸気抜きの役割、「母のパン」として家庭と宴席の中心にあり続けた歴史——そのどれもが、パンと暮らしが深く結びついてきたことを物語っています。

トネ窯そのものは用意できなくても、最高温度のオーブンとふたつきの鋳鉄鍋、そして霧吹きの蒸気があれば、その雰囲気に一歩近づくことができます。週末に、コーカサスの舟形パンを焼いてみてはいかがでしょうか。中央の穴を忘れずに——それがふくらみすぎを防ぐ、現地ゆずりの知恵です。

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