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セルビアのポガチャ(Pogača)— 客人を「パンと塩」で迎える、ちぎって分け合う黄金色の丸パン

2026年07月08日 読了時間 約7分
切り分けた丸い田舎パン

玄関のドアが開くと、家の主人が両手で丸いパンを捧げるように持って立っている。金色に照り、生地で編んだ飾りがのった焼きたての一枚。かたわらには小さな塩の器——。セルビアには、客人をこうして「パンと塩」で迎えるならわしがあります。パンの名はポガチャ。外は軽く香ばしく、中はふんわりやわらかな、食卓の真ん中に置いてみんなでちぎる丸パンです。この記事では、この歓迎の作法の意味から、フォカッチャとつながる名前の来歴、そして日本の台所で今日焼ける「イーストなし版」の作り方までを、参考記事を読み解きながら紹介します。

客人は「パンと塩」で迎える

セルビアの歓迎の儀式は、こんなふうに進みます。客が到着すると、ホストがポガチャを運んでくる。テーブルには塩の小鉢。客はパンをひとかけらちぎり、塩にちょんと浸して口に運びます。たったそれだけ。けれどこのひと口が、「あなたを信頼と友情の輪に迎え入れます」という何よりの意思表示なのだそうです。

パンと塩の組み合わせはスラヴ文化圏に広くありますが、セルビアではとりわけ大切にされてきました。パンは昔から単なる食べもの以上の、神聖なものとされてきた存在。塩はかつて金のように貴重で、純潔と永遠の象徴だったといいます。結婚式や新築祝いといった人生の節目にポガチャは登場し、外国の賓客を迎える公式の場でこの伝統が選ばれることもあるとか。歓迎のポガチャには、生地の三つ編みや花の飾りがあしらわれることも多く、「食べられる花束」といった風情です。

名前の祖先は、フォカッチャと同じ

ポガチャという名前をさかのぼると、ラテン語の「panis focacius(炉床で焼くパン)」に行き着きます。これがビザンツ帝国のギリシャ語を経て南スラヴの言葉に入り、「ポガチャ」になった——つまり、イタリアのフォカッチャとは同じ祖先を持ついとこ同士なのです。

この一族はバルカン半島にとどまりません。トルコには「ポアチャ(poğaça)」、ハンガリーには「ポガーチャ(pogácsa)」。トルコのポアチャは白チーズなどを包んだ小ぶりの惣菜パンとして親しまれ、ハンガリーでは中世から愛されて国の文化的特産品にも数えられています。同じ名前の火が、土地ごとに違う形のパンを育てた。セルビアの大きな丸い一枚は、その家系の本家筋のような顔をしています。

もとは、灰に埋めて焼くパンだった

ポガチャの焼き方の原風景も面白いのです。かつて旧ユーゴスラビアの各地では、「サチ(sač)」と呼ばれる金属の丸いフタを生地にかぶせ、熱い灰と熾火に埋めて焼いていたそうです。フタの中で熱がゆっくり対流し、独特の風味が生まれる——これ、キャンプでダッチオーブンにパン生地を仕込んで炭火に置く、あの焼き方とほとんど同じです。焚き火でパンを焼いたことのある人なら、ポガチャの香ばしさはもう半分知っているようなものかもしれません。

今日焼ける、イーストなしヨーグルト版

家庭のポガチャにはイースト発酵版もありますが、まずはバルカンの家庭で定番の「イーストなし・ヨーグルト版」から。思い立って1時間ほどで焼けます。

  • 材料(直径23cmの丸型1枚):小麦粉500g(強力粉と薄力粉を半々でOK)、プレーンヨーグルト200g、牛乳100ml、卵1個、ベーキングパウダー大さじ1/2、重曹小さじ1/2、塩小さじ1、油適量
  • 1. 予熱:オーブンを250℃に予熱。粉類(粉・ベーキングパウダー・重曹・塩)を混ぜておく
  • 2. こねる:卵・牛乳・ヨーグルトを加えて混ぜ、手で7〜10分。なめらかで、べたつかない生地玉になるまで
  • 3. 成形:油を塗った丸型(23cmほど)に生地を移し、こぶしで軽く叩いて広げる
  • 4. 穴あけ:フォークで表面を浅く数か所刺す(焼成中の蒸気の逃げ道になります)
  • 5. 焼く:オーブンを200℃に下げて35〜40分。途中で一度、型の向きを180度回す
  • 6. 休ませる:焼き上がったら清潔な布巾に包んで30〜60分

オーブンの扉を開けた瞬間の、ヨーグルトのほのかな酸味を含んだ温かい香り。ここでちぎりたくなるのをこらえて布巾に包んで休ませると、中の水分が落ち着いて、しっとりふんわりの本領が出ます。仕上げにバターをひと塗りすれば、照りと香りがぐっと増します。

祝いの日は、バターの層とごまの飾り

行事の日のポガチャは、もうひと手間かけたごちそう仕様になります。セルビアの家庭レシピでは、イースト生地を8つに分けて薄くのばし、バターを塗って巻き、渦巻きや三角に切って型に放射状に並べる作り方も。卵黄を牛乳で溶いた液を塗り、ごまやケシの実を散らして160〜170℃で40〜45分。焼き上がりは花のような姿で、ちぎるとバターの層がはらりとほどけます。テーブルの中央に置き、ナイフを使わずみんなの手でちぎって分けるのが伝統的な食べ方だそうです。

よくある失敗と、その直し方

  • 生地がべたついて手に負えない → 手に油を塗って扱うと一気に楽になります。粉の追加は最小限に(目安は50gまで)
  • ふくらみが鈍い・酸っぱさが残る → 重曹とベーキングパウダーの配分ミスかも。ベーキングパウダーは重曹の2倍以上が目安です
  • 表面ばかり焦げていく → 焼き色が早すぎたらアルミホイルをふわりとかぶせて続行
  • 切ったら中がねっとり → 焼きたてを我慢できなかった合図。布巾に包んで30分、が仕上げの工程のうちです
  • 濃いヨーグルトしかない → ギリシャヨーグルトなら水でゆるめて使えばOK

食卓の真ん中に、丸いパンをひとつ

来客の予定がある週末、ポガチャを一枚焼いてみませんか。食卓の真ん中にどんと置いて、小皿に塩をひとつまみ。「ちぎって、塩をつけてどうぞ」——それだけで、いつもの食卓が少しだけ儀式めいた、あたたかい場になります。ちぎった断面から立つ湯気の向こうに、バルカンの玄関先の光景がすこし透けて見えるはずです。

参考にした情報源

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