オーブンの窓ごしに、編み目がふっくらと盛り上がっていく——三つ編みパンが焼けるのを眺める時間は、パン作りのなかでも格別です。中身はいつもの丸パンと同じ生地。それなのに、3本のひもを編んだだけで、食卓の景色がまるで変わります。特別な道具も、追加の材料もいりません。
とはいえ、やってみると意外につまずくのがこの成形です。きれいに編めたはずが、焼いたら模様が消えていた。端がほどけてばらけた。1本だけ太くて、どこか不格好——どれも「あるある」です。この記事では、ひも状にのばすコツ、編み目をきれいに出す力加減、編んだあとすぐに焼かない理由、照りを出す卵塗りまで、参考記事を読み解きながら順に紹介します。
三つ編みは、昔から「特別な日」の合図
スイスでは、バターと牛乳をたっぷり練り込んだ編みパン「ツォップ」が日曜の朝の定番です。ツォップとはドイツ語で「編み髪」のこと。白い小麦粉とバターが贅沢品だった時代、編みパンはハレの日のためのパンでした。ユダヤの食卓でも、安息日にはハッラーという編みパンが灯りの下に置かれます。生地を編むというひと手間は、世界のあちこちで「今日は特別な日」の合図だったのです。それぞれの物語はスイスのツォップの記事とイスラエルのハッラーの記事に書いたので、編みながら思い出してもらえたらうれしいです。
生地は「少し硬め」が編みやすい
編みパンに向くのは、いつもより少し硬めの生地です。柔らかい生地はひもがだれて、せっかく編んでも輪郭がぼんやりしてしまいます。製パン材料店ママパンのシェフは「生地が柔らか過ぎると綺麗な模様が出にくい」として、水の配合を通常より減らすことをすすめています(同店のレシピでは加水66%)。いつものレシピで作るなら、仕込み水をほんの少し控えめにする——それだけで、編み目の彫りがぐっと深くなります。
ひも状にのばすコツは「中央から外へ」
三つ編みの出来は、編む前のひもでほぼ決まります。合言葉は「太さを均一に、中央から外へ」。
- 等分は目分量にしない:生地の総量をスケールで量り、3等分。ここで数グラムずれると、そのまま太さの差になります。
- 丸めて、休ませる:各生地を軽く丸めて楕円にまとめ、ふきんをかけて休ませます(海外の製パンブログでは20分が目安)。休ませずに転がすと、生地がゴムのように縮んで戻ってきます。
- 両手は中央に置き、外へ転がす:ひもの中央に両手をのせ、転がしながら外側へ。端まで行ったらまた中央へ戻り、これを繰り返します。中央だけ太くなるのを防ぎ、中の気泡も押し出せます。
- 端は少しだけ細く:先を軽くつまんでとがらせておくと、編み終わりの始末がきれいです。
- 縮んで戻るなら、待つ:途中で生地が言うことを聞かなくなったら、無理に引っぱらず数分置いてから再開します。
富澤商店の三つ編みパン(小ぶりの8個取り)では、ひもの長さは15cm程度。大きなひと山で焼くなら、3本の長さだけはきっちり揃えてください。
編み目をきれいに出すコツは「きつすぎず、端はしっかり」
いよいよ編みます。ここでの心得はふたつだけ。
- ゆるめに編む:生地はこのあとの発酵と焼成でさらに膨らみます。きつく編むと膨らむ余地がなく、模様が崩れたり生地が裂けたりします。「ちょっとゆるいかな」がちょうどいい。
- ひもに軽く粉をふる:編んでいる途中でひも同士がくっつき、引っぱり合うのを防げます。
- 中央から編み始めて、裏返す:端からではなく中央でクロスさせて片側を編み、裏返して残り半分を編む方法(富澤商店のレシピ採用)だと、編み目の詰まり方が左右で揃います。
- 端はしっかりつまんで、下へ折り込む:編み終わりと編み始めは、生地同士を指でぎゅっとつまんで留め、本体の下に折り込みます。ここが甘いと、発酵中にほどけます。
- 手早く:もたもたすると表面が乾いて、つやのない焼き上がりに。編み方に迷わないよう、ひもを転がす前に一度、手順を口に出しておくと安心です。
編んだら、すぐに焼かない
編み上がった姿はもう完成品のようですが、ここで焼いてはいけません。二次発酵で生地をゆるませ、ひも同士がふっくらと寄り添って一体になるのを待ちます。富澤商店のレシピでは40℃で30〜35分が目安です。
実は、焼いている途中で編み目が裂けて開いてしまう一番の原因は、この待ち時間の不足だと言われます。ハッラー作りの世界では「マシュマロのようにふっくらするまで待て」が合言葉。指がすっと沈むほど軽くなるまで待てば、編み目は裂けずに、模様を保ったまま膨らんでくれます。ただし待ちすぎも禁物で、過発酵の生地は支えを失い、オーブンの中でだれてしまいます。ふっくら、でも張りは残っている。その頃合いを狙ってください。
卵塗りで、あの照りを出す
編みパンの仕上げといえば、こんがり輝く飴色の照り。溶き卵を塗って焼くだけですが、コツがあります。
- 卵液は、卵1個に水大さじ1:少しのばした方が塗りやすく、ムラになりません。
- 溝に溜めない:編み目のくぼみに卵液が溜まると、焼けたときにせっかくの凹凸が埋まります。刷毛はやさしく、山の部分を撫でるように。
- 二度塗りで深い照りに:編み終わった直後に一度、焼く直前にもう一度ごく軽く。ふくらんだ生地をつぶさないよう、二度目は羽のようなタッチで。
よくある失敗と、その直し方
- 編み目が消えて、のっぺりした → きつく編みすぎたか、生地が柔らかすぎ。次はゆるめに編み、仕込み水を少し減らして。卵液の塗りすぎで溝が埋まった可能性も。
- 焼いている途中で編み目が裂けた → 二次発酵の不足。ふっくらマシュマロになるまで待ってから焼く。
- 端がほどけた → つまみが甘かった合図。指でしっかり圧着し、本体の下へ折り込む。
- 1本だけ太い・細い → 分割が目分量。スケールで等分し、転がすときは中央から外へ。
- 横に広がって、だれた → 待ちすぎの過発酵か、生地が柔らかすぎ。発酵は張りが残るうちに切り上げる。
一度で完璧にはいきません。でも三つ編みは、髪でもひもでも生地でも、手が覚えてしまえば一生ものです。
いつもの生地を、3本に分けるだけ
新しいレシピを覚える必要はありません。今週末、いつものパン生地をスケールで3等分するところから始めてみてください。中央から外へ転がし、ゆるく編んで、ふっくらするまで待って、卵液をひと撫で。オーブンの窓の向こうで編み目が金色に盛り上がってきたら、それはもう、スイスの日曜の朝と同じ景色です🍞
