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ハワイのスイートブレッド(Sweet Bread)— サトウキビ畑に渡ったポルトガルの甘いパンが、島の味になるまで

2026年08月16日 読了時間 約8分
ハワイのスイートブレッドの図案。ドーム型に焼けた甘いパン(嬉兆オリジナル図版)

アメリカのスーパーで必ず見かける、オレンジ色の袋に入ったふわふわの丸いパン。あの「ハワイアン・スイートロール」が、実はポルトガル生まれだと知っていましたか。

ハワイのスイートブレッドは、19世紀後半にマデイラ島やアゾレス諸島からサトウキビ農園へ渡ったポルトガル移民の甘いパン「パン・ドセ(pão doce)」がルーツです。島の家庭の味は、やがて全米の食卓の定番になりました。この記事では、移民とパンの150年の物語、味と配合の秘密、そして日本の台所で再現するコツを紹介します。

サトウキビ畑がつないだ、ポルトガルとハワイ

最初のポルトガル移民がハワイ島に到着したのは1878年。大西洋のマデイラ島とアゾレス諸島から、サトウキビ農園の労働者として太平洋を渡ってきました。彼らの契約には、他の移民労働者と違う点がひとつありました。家族そろっての移住が認められていたのです。家族で暮らせば、故郷の食卓も再現できる。ポルトガル人コミュニティは島々に根を下ろし、1910年には2万人を超えるまでになりました。

彼らが焼き続けたのが、卵と砂糖をたっぷり使った甘いパン「パン・ドセ」です。ただし、ここで不思議なねじれが起きます。サトウキビの島にいながら、精製された砂糖の多くは輸出用で、農園の家庭には高価だったのです。そこで、はちみつや島で手に入るパイナップルジュースで甘みを補いました。「ハワイのスイートブレッドにはパイナップル果汁」という今に続く発想は、この節約の知恵から生まれたと伝えられています。

ハワイ島コナでは、溶岩石を積んだドーム型の石窯「フォルノ」が今も現役です。コナ歴史協会では、キアヴェの薪で窯を熱し、昔ながらの製法でスイートブレッドを焼く公開デモが毎週開かれています。

ヒロのパン屋から世界へ——King’s Hawaiianの実話

このパンを「ハワイの味」として世界に広めたのは、ポルトガル系ではなく、沖縄にルーツを持つ日系人でした。ロバート・タイラ。1923年にハワイ島ヒロで沖縄移民の家庭に生まれ、第二次大戦後は米軍の通訳として日本に駐留します。除隊後、ヒロとシカゴの製菓学校で学び、1950年に故郷ヒロで「ロバーツ・ベーカリー」を開きました。

転機は、ポルトガル系スイートブレッドの弱点だった「日持ちの短さ」を配合の工夫で克服したこと。風味を保ったままスーパーの棚に並べられるパンになり、商圏は一気に広がりました。その後の歩みはこうです。

  • 1950年:ハワイ島ヒロで「ロバーツ・ベーカリー」創業
  • 1963年:ホノルルのキング・ストリートへ移転し「キングス・ベーカリー」に改名
  • 1977年:カリフォルニア州トーランスに工場を建設し、本土へ進出
  • 2003年:タイラ氏死去。会社は現在も家族経営で、「King’s Hawaiian」ブランドとして全米に定着

移民の子が、別の移民のパンを磨き上げて世界ブランドにする。ハワイという土地らしい、混ざり合いの物語です。

どんなパン?——配合と食感の特徴

ひと言でいえば、ブリオッシュとバターロールの中間です。卵・バター・砂糖・牛乳をたっぷり使ったリッチな生地で、焼き上がりはふわっと軽く、指でつまむと繊維がほどけるように裂けます。鼻を近づけると、バターと卵の香りの奥にほんのり甘い香り。家庭のレシピにはパイナップルジュースを少量加えるものが多く、ごく淡い酸味と南国の気配を添えています。

現地での食べ方は自由そのものです。

  • そのまま手で裂いて、朝食やおやつに
  • 厚めに切ってフレンチトーストに(卵液を吸い込むリッチ生地と好相性)
  • 横に割って、カルアポークなどを挟む小さなサンドイッチ「スライダー」に
項目 内容
ルーツ ポルトガル・マデイラ島とアゾレス諸島の甘いパン「パン・ドセ」
ハワイ定着 1878年以降、サトウキビ農園へ渡ったポルトガル移民が持ち込む
配合の特徴 卵・バター・砂糖・牛乳。パイナップル果汁入りのレシピも
食感 ふわふわと軽く、ほんのり甘い。手で裂ける
代表ブランド King’s Hawaiian(1950年ヒロ創業)
定番の食べ方 そのまま/フレンチトースト/スライダー

日本の台所で再現——ちぎりパン方式がいちばん近い

日本でおなじみの「ちぎりパン」は、スイートブレッドの再現にぴったりの形です。ロール同士をくっつけて焼き、手で裂いて食べるのが本場のスタイルだからです。作りやすい配合の目安(18cm角型1台・9個分)はこちら。

  • 強力粉 250g/砂糖 40g/塩 4g
  • 卵 1個/牛乳 90ml/パイナップルジュース(果汁100%) 50ml
  • バター 40g/インスタントドライイースト 4g

手順の流れは次のとおりです。

  • バター以外の材料をこね、まとまったらバターを加えてさらにこねる(目安15分、生地が薄く伸びるまで)
  • 一次発酵は約60分。砂糖が多い生地は発酵がゆっくりなので、時間ではなく1.5〜2倍のふくらみを目安に
  • ガスを抜いて9分割し、丸めて型に間隔を詰めて並べる
  • 二次発酵40〜50分ののち、溶き卵を塗って170℃で15〜18分焼く

ジュースは加糖タイプではなく果汁100%を。濃縮還元よりストレート果汁のほうが、香りが素直に出ます。

よくある失敗と直し方

  • ふくらまない:砂糖の多い生地はイーストに負担がかかります。耐糖性イーストを使うか、発酵時間を2〜3割長く
  • 焼き色が濃くなりすぎる:糖分が多く焦げやすいパンです。表面が色づいたらアルミホイルをかぶせる
  • パサつく:多くは焼きすぎが原因。焼き時間は控えめにし、粗熱が取れたら袋に入れて保湿
  • 裂ける食感にならない:こね不足の可能性。生地が膜のように薄く伸びるまでこねる
  • パイナップルの香りがしない:それで正解です。主張しない淡い香りこそが本場の姿

大西洋の島から、太平洋の島へ

移民のかばんに入っていた家庭の味が、150年かけてアメリカ中のスーパーに並ぶ定番になりました。焼きたてをひとつ裂いて、ほんのり甘い湯気の向こうに、サトウキビ畑とふたつの海の島々を思い浮かべてみてください。ちなみに故郷マデイラ島には、同じ島生まれでまったく別の顔を持つ素朴な平焼きパンもあります。ポルトガル・マデイラ島のボロ・ド・カコの記事もどうぞ。

参考情報源

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ベンチタイムの科学|丸めた生地はなぜ休ませると伸びるのか
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