# ニューヨークの渦巻きクロワッサン「シュプリーム(Suprême)」——SNSで爆発した、クリーム入りの“円盤”ペストリー
三日月形——それがクロワッサンの常識でした。ところがニューヨークで、その常識をひっくり返す一品が現れます。ぐるぐると渦を巻いた厚い円盤に、クリームをたっぷり詰め、てっぺんに艶やかなグレーズとトッピングをあしらった「シュプリーム(Suprême)」。SNSで火がつき、開店前から長い行列ができるほどの社会現象になりました。今回はこの渦巻きクロワッサンの正体と、なぜここまでバズったのか、そして家庭で焼くときの難しさを、パン作りの視点から掘り下げます。
行列とSNSが生んだ、ニューヨークの新名物
シュプリームを生み出したのは、ニューヨーク・NoHo(ノーホー)地区にあるフランス風グランカフェ&ベーカリー「Lafayette(ラファイエット)」です。考案したのはペストリーシェフのScott Cioe(スコット・チョー)氏と、ヘッド・ブーランジェのJames Belisle(ジェームズ・ベリーユ)氏。もともとは定番のパン・オ・ショコラを再解釈しようという試みから生まれた、実験的なメニューだったと報じられています。
2022年春に登場すると、その月のうちにTikTokを中心としたSNSで一気に拡散。発売初日にはあっという間に売り切れ、二日目には開店待ちの客が、三日目には行列ができた——とシェフ本人が語っています。報道では、ひとつ8.5ドル前後という価格にもかかわらず、わざわざ1時間以上並んで買い求める人が後を絶たなかったとされています。
おもしろいのは、この一品が「まったく新しい奇抜なお菓子」というより、フランス菓子の王道であるパン・オ・ショコラの延長線上にあることです。慣れ親しんだ折り込み生地に、見たことのない形とたっぷりのクリームという“ひとひねり”を加える。その引き算と足し算の按配が絶妙だったからこそ、初めて見る人にも「おいしそう」と直感的に伝わったのでしょう。奇をてらいすぎず、しかし確実に目を引く——ヒット商品の多くに共通する設計が、ここにもあります。
「シュプリーム」とは何か——円盤型クロワッサンの正体
シュプリームの最大の特徴は、その形にあります。直径およそ5インチ(約13センチ)の、ぎゅっと渦を巻いた厚い円盤型。三日月形のクロワッサンとはまったく違うシルエットです。
この円盤の中心に、フレーバークリームをたっぷり充填します。表面にはグレーズ(糖衣)をかけ、ピスタチオやチョコレートなどのトッピングを贅沢に飾る。レギュラーの味はチョコレートとピスタチオで、これに月替わりの限定フレーバー(季節のベリーやかぼちゃ&チャイなど)が加わります。
なぜわざわざ円盤にするのか。理由はシンプルで、この形なら、たっぷりのクリームを詰められて、堂々と自立し、上面を華やかに飾れるからです。SNS映えと食べごたえを同時に満たす、よく考えられた設計といえます。
クロワッサン生地を“巻く”という発想
では、あの渦巻きはどう作られているのでしょうか。シュプリームは、クロワッサンと同じ折り込み生地(バターを何層にも織り込んだ生地)を、三日月に成形するのではなく、帯状にして渦巻き状に巻き上げます。
ここで効いてくるのが「ベーキングリング(焼き型の輪)」。生地を金属の輪の中で焼くことで、膨らもうとする層を横から押さえ、あのきれいな円柱・円盤の形をキープするのです。焼き上がったら冷まし、中心にクリームを注入し、グレーズとトッピングで仕上げる——ラファイエットでは、これらすべてを一から手作りし、完成まで三日かけると説明しています。
なぜここまでバズったのか
シュプリームのヒットは、偶然ではありません。3つの要素がきれいに噛み合っています。
ひとつめはビジュアルの強さ。渦巻き、自立する厚み、てっぺんの飾り——どこを撮っても画になります。ふたつめは希少性。手間がかかり数が限られ、すぐ売り切れる。「並ばないと買えない」という事実そのものが話題を呼びました。みっつめは変化し続ける楽しさ。月替わりの限定フレーバーがあるから、リピーターが何度も足を運び、そのたびに新しい投稿が生まれます。
こうした「バズるパン」の波は世界中で起きていて、パリ発のクルッキー(クロワッサン×クッキー)や、韓国で行列の塩パンも同じ系譜にあります。クロワッサン生地という“素材”が、各地でアイデア勝負の主役になっているのです。
家庭で作るときの難しさと、近づけるコツ
正直に言うと、本物のシュプリームを家庭で完全再現するのは、かなりハードルが高めです。土台が折り込み生地である以上、バターと生地を交互に層にする「ラミネート」の工程が必要で、これは温度管理がとてもシビア。バターが溶けると層が崩れ、あのサクサク感が出ません。
それでも、要点を押さえれば「それらしい一品」には近づけます。
- 生地はとにかく冷やす:折り込みの合間にこまめに冷蔵庫で休ませ、バターを溶かさないこと。室温が高い日は避けるのが無難です。
- 形は型で支える:セルクル(丸い金属の型)やマフィン型を使えば、家庭でも円盤・円柱の形を保てます。
- クリームは焼成後に注入:焼く前に詰めると流れ出てしまうので、必ず冷ましてから中心に絞り入れます。
- 無理なら市販生地で:冷凍のクロワッサン生地やパイシートを帯状にして渦巻きにするだけでも、雰囲気は十分楽しめます。
最初から完璧を目指さず、「渦巻きにして型で焼く」という発想だけ取り入れてみる——それがいちばん挫折しないコツです。クリームも、最初は市販のカスタードや生クリームで十分。慣れてきたら、ピスタチオペーストを混ぜたり、チョコレートガナッシュを詰めたりと、自分だけのフレーバーに挑戦すると一気に楽しくなります。お店の完全コピーではなく、「シュプリームに着想を得た、わが家の渦巻きパン」を目指すくらいの気持ちが、結果的にいちばんおいしく仕上がります。
まとめ
シュプリームは、三日月という固定観念を捨て、クロワッサン生地を渦巻きの円盤に仕立て直した一品です。映えるビジュアル、限られた数、月替わりの新作という三拍子で、ニューヨークから世界へ広がりました。家庭での完全再現は難しくても、「巻いて型で焼く」発想は十分マネできます。いつものクロワッサンに、ちょっとした冒険を加えてみてはいかがでしょうか。
参考にした情報源
- Tasting Table「What Is NYC’s Must-Have Croissant Creation, The Suprême?」 https://www.tastingtable.com/1133338/what-is-nycs-must-have-croissant-creation-the-supreme/
- Gothamist「I tried it! Standing in an hourlong line for the Suprême croissant」 https://gothamist.com/food/i-tried-it-standing-in-an-hourlong-line-for-the-supr%C3%AAme-croissant
- Lafayette(公式サイト・Breakfast メニュー) https://www.lafayetteny.com/menu/breakfast/
