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発酵器なしで「ほったらかしパン」――山梨の天然酵母教室ぱん蔵が教える、台所の野菜で酵母をおこすコツ

2026年06月11日 読了時間 約9分

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台所で焼き上げた天然酵母の素朴な丸パン

トマト、レーズン、ヨモギ、ふきのとう――台所や畑のすぐそばにある素材から、自分でパンの酵母をおこせると知ったら、ちょっとワクワクしませんか。東京・西東京市と山梨で天然酵母のパン教室「ぱん蔵(ぱんぞう)」を主宰する椿留美子(つばきるみこ)さんは、発酵器を使わず手ごねで焼く「ほったらかしパン」と、身近な野菜・果物からの自家製酵母おこしで知られています。今回は、ぱん蔵さんが公開している事実をもとに、「これなら家でも試せそう」という酵母おこしの考え方を、編集部の視点で読み解きます。

舞台俳優から、田舎暮らしの発酵生活へ

椿さんは岡山県津山市の出身で、もともとは東京で舞台俳優として活動していた方です。幼少期からのひどい鼻炎や、20代での花粉症をきっかけに、穀物や季節の野菜を中心とした食生活へと切り替え、自然酵母の力にも助けられながら体質改善を図ってきたと、ご自身で語っています。

教室「ぱん蔵」を西東京市で開講したのは2009年。翌2010年には、富士山が見える山の中腹――山梨県富士川町へと家族で移住し、2014年1月には山梨で北杜クラスを開きました。2025年時点で「16年目に入る」とされ、現在は山梨県北杜市白州町と東京(西東京市)での対面レッスンに加え、個人オンラインや短期オンラインコースも提供しています。

パン作りだけにとどまらないのも、ぱん蔵さんの特徴です。味噌・醤油・酢などの調味料作り、藍染め、稲刈りといった伝統的な食や暮らしの実践も重ねており、季節に合わせて発酵食・伝統食を学ぶ発酵クラスも、教室の柱の一つになっています。移住先では畑や田んぼの耕作を勧められ、ヨモギ・ふきのとう・シソの実・赤くならないトマトなど、身近な余剰農産物から酵母をおこす実践を続けてきました。畑との暮らしについて、椿さんはこう綴っています。

> 種から撒いて「芽がでる」ってこんなに嬉しいものだと知りました。 — 椿留美子(pan-zou.net

「泡」と「オリ」で読む、酵母の見極め

ぱん蔵さんの酵母おこしで編集部が「なるほど」と思ったのは、温度計に頼りすぎず、見た目で完成を判断する考え方です。

椿さんによれば、甘い果物は糖分が酵母のエサになるため発酵が早く、レーズンのような甘い素材の酵母液は炭酸ガスがたまって激しくシュワシュワと発泡し、香りも強く出ます。一方で、甘みのない野菜・ハーブ・穀物は激しくは発泡しません。芋類や米類は糖質があるので完成が早く、失敗が少ないそうです。そして素材を問わず、瓶の底に「オリ(酵母のかたまり)」がたまれば完成の合図――この泡の出方とオリのたまり方を見れば、手元の素材で仕上がりを判断できる、というわけです。

夏に試しやすいのがトマト酵母です。トマトは「発酵力が強い夏の酵母」として使われますが、水分が多く糖度が低いため、酵母液を仕込むときは糖分をいつもより少し多めに加えるのがコツ。トマトと水と糖分を保存瓶に入れて見守り、数日でぷくぷく泡が出れば成功のサインです。1日数回、清潔なスプーンで混ぜて酸素を送り、活性化させます。発酵時間が短めで済み、生地のふくらみやボリューム・弾力も出やすいので、旬の夏野菜から短時間で力強い酵母を起こせるのが実践的なところです。

野菜から酵母を起こす自家製培養は、温度と分量の安定が成功率を左右します。培養と仕込みを支える道具を挙げておきます。



予熱は「発酵を止めるスイッチ」

焼成についても、ぱん蔵さんの説明は腑に落ちます。パンの生地はおよそ60℃くらいまでは発酵を続け、それ以上の高温になると酵母が活動できなくなります。だからこそ予熱(あらかじめ規定温度まで上げきること)が大切で、これをしないと規定温度に達するまでの間に生地が発酵し続け、表面が乾いて、焼き上がりが「かちかち」になったり「火が通らない」状態になりやすいのだそうです。予熱を単なる手順ではなく、「発酵を止めるスイッチ」として理解すると、なぜ生地を入れる前に庫内を上げきるのかが納得できます。ちなみに椿さんは、「予熱」と、残った熱を利用する「余熱」を別物として使い分けています。

種おこしの基本は「身近な素材・温度・失敗を楽しむ」の3点。その土地や季節で手に入りやすい旬の素材を使い(北海道ならじゃがいも、といった具合に)、ドライイーストと違って時間がかかる過程そのものを楽しむ。ホシノ酵母の種おこしでは「お風呂のちょっと熱いくらい・40℃くらい」のぬるま湯を使い(40℃以上で酵母の力が低下します)、20℃以上のやや温かい場所に置き、密閉を避けて1日1回やさしく混ぜると、2〜3日でプクプク起き上がってくるとのことです。

日本の家庭での活かし方

ぱん蔵さんの「泡とオリで見極める」「予熱で発酵を止める」という考え方は、日本の住まいと気候にそのまま重ねると、ぐっと実践しやすくなります。ここから先は、椿さんの教えを土台に、編集部が日本の家庭向けに考えた応用です。

🍞 梅雨〜夏の高温多湿を味方に:トマト酵母は夏の酵母。ただし気温が高すぎる日は放置するとピークを逃すので、椿さんも長時間出かけるときは冷蔵庫へ入れると説明しています。25℃を超える日が続く梅雨明け以降は、台所の室温でも発酵が一気に進みやすいので、朝晩の混ぜを忘れずに見守るのがおすすめです。室温と発酵の関係を体系的に押さえたい方には、季節別の発酵温度コントロール完全ガイドが役立ちます。

🍞 設備を「ゆるい保温箱」として使う:種おこしで欲しい「20℃以上のやや温かい場所」は、冬の底冷えする日本の台所では意外と確保しにくいもの。一般的な家庭設備でいえば、オーブンレンジの発酵機能や、保温が効く家電のそばなど、ほんのり温かい場所を「ゆるい保温箱」として利用すると季節を問わず安定しやすい、と編集部は考えます。お使いの機種の取扱説明書で温度帯を確かめながら、椿さんの言う「20℃以上のやや温かい場所」に近づけてみてください。

🍞 和の素材との掛け合わせを楽しむ:日本の家庭の水は軟水が中心で、一般にパン作りでは、軟水はグルテンを締めにくく生地がやわらかくなりやすいとされます(硬度による違いについては諸説あり、断定は避けるのが無難です)。まずは椿さん流に、泡とオリという「見える合図」で発酵の進み具合を確かめながら、手元の素材で仕上がりを判断するのが安心です。素材選びでは、米麹や甘酒、酒種といった和の発酵素材、抹茶・きなこ・黒糖などとの掛け合わせも、ぱん蔵流の「身近な素材を楽しむ」姿勢と相性がよさそうです。

編集部としては、まず失敗を恐れずに一瓶仕込んでみることをおすすめします。そもそも天然酵母とドライイーストで何が違うのかは、天然酵母とドライイーストの徹底比較で整理しています。泡とオリという「見える合図」があるからこそ、初めての方でも一歩を踏み出しやすいはずです。

まとめ

天然酵母ぱん蔵・椿留美子さんの実践は、「高価な道具がなくても、台所や畑にある素材と体感温度で酵母はおこせる」と教えてくれます。甘い素材は早く激しく発泡し、甘みの少ない素材は静かに発酵する。底にオリがたまれば完成。予熱は発酵を止めるスイッチ――この見極めの言葉を覚えておけば、夏のトマトから冬のホシノ酵母まで、季節ごとに違う表情のパンを楽しめます。発酵器なしの「ほったらかしパン」は、忙しい日本の家庭にこそ似合う発想かもしれません。

参考にした情報源

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