ノルウェーの食卓を代表するパンと聞いて、ふんわりした白いパンを思い浮かべると、少し意外に感じるかもしれません。主役のひとつは「レフセ(lefse)」、なんとゆでたじゃがいもから作る、紙のように薄い薄焼きパンです。クレープを思わせる柔らかさで、表面には焼き目の斑点が点々と散っています。素朴でありながら、クリスマスには欠かせないごちそうにもなる、北欧らしい一枚です。
レフセの正体は、ゆでてつぶしたじゃがいもに小麦粉を合わせた生地を、薄く伸ばして大きな鉄板で焼いたもの。バターと砂糖を塗ってくるくる巻けば、おやつにもお祝いの席の一品にもなります。今日はこのレフセがどんなパンなのか、由来・作り方・食べ方の文化をやさしくたどりながら、最後に日本の家庭でも試しやすいレシピをご紹介します。
じゃがいもから生まれた薄焼きパン
レフセそのものの歴史は古く、もともとは小麦粉で作る素朴な薄焼きパンだったとされます。たとえば「ハダンゲルレフセ(Hardanger lefse)」のように、大きく焼いて乾燥させ、クラッカーのように長く保存するタイプも知られていました。寒くて作物の乏しい北欧の冬を越すための、保存のきく食べものだったのです。
私たちが思い浮かべる「じゃがいものレフセ」が登場したのは、もっと後のこと。じゃがいもがノルウェーに広まったのは1750年代ごろとされ、その後にじゃがいもを使ったレフセが各地で作られるようになったと伝えられています(出典: Wikipedia、Daring Gourmet)。新しく入ってきた作物が、昔ながらの薄焼きパンと結びついて、今の姿になっていったというわけです。
溝めん棒で薄く、平鉄板で焼く
レフセ作りの第一歩は、じゃがいもをゆでてつぶすこと。専用の「ポテトライサー」で裏ごしして、なめらかにします。そこへバターや生クリーム、塩を混ぜ、冷やしてから小麦粉を加えて生地にまとめます。じゃがいもがたっぷり入るぶん、小麦のパンとは手ざわりがまるで違う、しっとりした生地になります。
伸ばし方にもひと工夫あります。表面に溝の彫られた専用のめん棒を使い、打ち粉を最小限にしながら紙のように薄く伸ばすのです。伸ばした生地は、長い木のヘラ(lefse stick)でそっと持ち上げ、「タッケ(takke)」と呼ばれる大きな平らな鉄板へ。両面をさっと焼き、表面がぷくっとふくらんで焼き目の斑点が出たら焼き上がりです。焼けたレフセは乾かないように重ねて布で包み、しっとりした状態を保ちます。
バターと砂糖を塗って巻く、ハレの日のパン
レフセの代表的な食べ方は、とてもシンプルです。焼きたての一枚にバターを塗り、砂糖(やシナモン)をふって、くるくると巻く――これだけ。この食べ方はノルウェー語で「レフセ・クレニング(lefse-klenning)」と呼ばれ、ひと口サイズに切った「レフセルーレル(lefseruller)」はパーティーのつまみにもぴったりです。じゃがいものほのかな甘みとバターのコクが溶け合う、素朴で飽きのこないおいしさです。
レフセはクリスマスをはじめとするハレの日の食文化とも深く結びついています。塩干しのタラを灰汁で戻した伝統料理「ルーテフィスク(lutefisk)」を、レフセで巻いて食べる習わしもよく知られています。さらに地方ごとに個性が豊かで、中部の薄い「ティンレフセ(tynnlefse)」、厚みのある「チュックレフセ(tjukklefse)」、フィヨルド地方の「ヴェストランスレフセ(vestlandslefse)」、模様の美しい「クリーナレフセ(krinalefse)」など、さまざまな種類があるとされます(出典: Visit Norway、Wikipedia)。家族や友人で集まって何枚も焼く、にぎやかな手作りの時間そのものが、レフセの魅力なのです。
日本の家庭での活かし方
ここからは、編集部のアレンジで日本の家庭でも試しやすいレフセ風の薄焼きパンのレシピをご紹介します。専用のタッケや溝めん棒がなくても、フライパンやホットプレートと普通のめん棒で十分に楽しめます。ゆでじゃがいもの水気をしっかり飛ばすことと、なるべく薄く伸ばすことが、本場らしい仕上がりへの近道です。
材料(直径20cmほど・4〜5枚分)
- じゃがいも(男爵などホクホク系)…正味300g(ゆでてつぶした状態で)
- 薄力粉…100g
- 無塩バター…20g
- 牛乳または生クリーム…大さじ1
- 塩…小さじ1/4(ひとつまみ強)
- 〈仕上げ用〉バター・砂糖・お好みでシナモン…各適量
作り方
- じゃがいもは皮をむいて一口大に切り、やわらかくなるまでゆでます。湯をしっかり切り、弱火で軽く揺すって余分な水分を飛ばします。
- 熱いうちにマッシャーやフォークでなめらかにつぶし、バター・牛乳・塩を加えて混ぜます。粒が残らないほどなめらかにするのがコツです。
- 粗熱が取れたら(できれば冷蔵庫で30分ほど冷やすとまとまりやすい)、薄力粉を加えてさっくりひとつにまとめます。練りすぎないこと。
- 生地を4〜5等分し、打ち粉をした台でめん棒を使って、できるだけ薄い円形に伸ばします。
- 油をひかないフライパンを中火で熱し、生地をのせて両面を焼きます。表面に焼き目の斑点が出て、ふちが少し浮いたら焼き上がりです(片面1〜2分が目安)。
- 焼けたら乾かないよう布巾をかけておきます。食べるときにバターを塗り、砂糖(やシナモン)をふって、くるくる巻いてどうぞ。
生地を薄く均一に伸ばすほど、本場らしいしなやかな食感に近づきます。台にくっつきにくく後片付けも楽なシリコン製のクッキングマットがあると、薄く伸ばす作業がぐっとやりやすくなります。
じゃがいもと小麦粉の比率がまとまりやすさと食感を左右するので、0.1g単位で量れるデジタルスケールがあると失敗が減ります。
タッケのような大きな平鉄板がなくても、底が平らで広い鋳鉄の調理器具があれば、何枚も手早く焼けて気分が出ます。
専用の道具がそろわなくても、ゆでじゃがいもで生地を作り、薄く焼いてバターと砂糖で巻く――この流れさえなぞれば、レフセの楽しさは十分に味わえます。いつものおやつが、北欧のクリスマスの食卓のような雰囲気に変わります。
まとめ
レフセは、ゆでてつぶしたじゃがいもに小麦粉を合わせ、溝のあるめん棒で薄く伸ばして「タッケ」と呼ぶ大きな平鉄板で焼く、ノルウェーの素朴な薄焼きパンです。じゃがいも入りのレフセはじゃがいもが広まった1750年代以降に各地へ広がったとされ、バターと砂糖(やシナモン)を塗って巻く「レフセ・クレニング」や、クリスマスにルーテフィスクと共に食べる習わしなど、ハレの日の食文化として親しまれてきました。
ティンレフセやチュックレフセなど地方ごとに多彩な種類があり、家族や友人で集まって何枚も焼く時間そのものが、このパンの大切な魅力です。専用の道具がなくても、フライパンとめん棒、そしてゆでじゃがいもがあれば家庭でも体験できます。ぜひおうちで、じゃがいもから生まれる北欧の薄焼きパンを味わってみてください。
