加水90%の生地なんて、家庭ではベタついて成形できない——そう思って高加水のハード系を諦めていませんか。日本の個人運営レシピサイト「こむぎプラス(komugiplus.com)」が示すのは、こねず・成形せず「切りっぱなし」のまま焼くという、家庭でも気泡たっぷりのリュスティックに挑戦できる具体的な道筋です。しかも使うのは市販のドライイーストではなく、瓶の中で育てる自家製酵母。こんな方法があったのか、と膝を打つ実践知を、編集部の視点でひもといていきます。
「自家製酵母で作るおうちパン」を体系化したこむぎプラス
「こむぎプラス」は、ハンドルネーム「u3_gurico(ぐりこ)」さんが運営する日本語の個人パンレシピサイトです。サイトは「自家製酵母で作るおうちパンレシピ」を掲げ、Instagram(@u3_gurico)でも日々のパン焼き記録やライブ配信を発信しています。
特徴は、扱う酵母の幅広さです。レーズン酵母・酒種・ルヴァン種・ヨーグルト種・ライサワー種といった複数の自家製酵母を使い分け、食パン・バゲット・カンパーニュ・ドイツパン・菓子パン・酵母菓子まで網羅。なかでも高加水のハードパン専用カテゴリーを持ち、代表例として加水90%の「リュスティック」、ルヴァン種を使った「パン・ド・ロデヴ」(粗く大きな気泡と薄い膜が特徴)を掲載しています。レシピを並べるだけでなく、酵母の起こし方や元種の継ぎ方まで数値付きで解説しているのが、本格志向の焼き手に刺さるポイントです。
加水90%を「切りっぱなし」で攻略する技法
このサイトの白眉が、加水90%リュスティックの作り方です。流れはこうです。まずレーズン酵母エキス60gと準強力粉60gでポーリッシュ種を作り、25〜28℃で約3時間→冷蔵で8〜12時間発酵させます。本生地は加水90%で、発酵倍率1.5倍程度まで(低温長時間なら12〜18時間)寝かせる。一次発酵後は成形もベンチタイムもせず、分割したらそのままホイロ(25℃前後・約45分)し、予熱300℃から300℃で5分、230℃で15分・スチームありで焼き上げます。
サイトの言葉を借りれば、
> 切りっぱなしのままホイロして焼き上げ
——という潔さです(こむぎプラス、原文)。生地を触りすぎず、ガスを均一に分散させることが大きな気泡の鍵だと説明されています。成形が難しい90%級の高加水でも、こねず・成形しないことで家庭の焼き手が挑戦できる、という具体策が数値で示されているのです。
さらに土台となる酵母の見極めも実践的です。レーズン酵母(液種)は、オイルコートなしのオーガニックレーズン60g・はちみつ小さじ1・浄水200mlを熱湯消毒した瓶に入れ、室温約25℃で4〜6日(冬は10日程度)かけて起こします。判断の目安は温度計や顕微鏡ではなく「音・泡・オリ」。蓋を開けると『ぷしゅ』と音がしてシュワシュワし、泡が大きいものから小さいものへ落ち着き、瓶底にオリが溜まったら完成のサインです。元種の方も「水に入れるとふわっと浮くか」で完成を判断でき、かけ継ぎは1〜2回まで——それ以上は発酵力低下や酸味が出るため都度起こす方が安定する、と限界まで明記されています。
加水90%の生地は、グラム単位のブレが仕上がりを左右します。正確な計量と生地温度の管理が「切りっぱなし」を成功させる近道です。
日本の家庭での活かし方
ここからは日本の台所事情に引き寄せて考えます。まず水。リュスティックに使われる強力粉キタノカオリは国産らしいしっとりした風味と吸水のよさが持ち味ですが、日本の水道水は軟水中心です。硬水でグルテンが締まりやすい欧州の生地感とは違い、軟水ではグルテンがゆるみやすく、もともとダレやすい90%の高加水はいっそうベタつきがち。だからこそ「こねない・触らない・切りっぱなし」という設計が、軟水×高加水の日本の家庭に理にかなっているのです。粉が水を抱えきれないと感じたら、加水を5%ほど控えめから始めるのも手です。ベタつきの原因切り分けはパン生地がベタつく原因と対処法5選でも詳しく解説しています。
次に温度管理。レーズン酵母は4〜40℃で活動し、4℃以下で停止・60℃以上で死滅すると解説されています。この数値を日本の気候に当てはめると、梅雨〜真夏は室温だけで発酵が走りすぎるので冷蔵発酵を長めにとり、冬の底冷えする台所ではオーブンレンジの発酵機能(30℃前後)や炊飯器の保温(低温側)を使って25℃の環境を作るのが現実的です。レーズン酵母を冬は10日かけて起こす、という目安はまさに日本の冬の室温を踏まえたもの。編集部としては、酒種にも親しんできた日本の焼き手だからこそ、この「自家製酵母を音と泡で育てる」感覚はすっと手になじむのではと感じます。米麹や甘酒の発酵に慣れた台所なら、なおさら相性がよいはずです。自家製酵母とドライイーストの使い分けに迷ったら天然酵母とドライイーストの徹底比較が判断の助けになります。
まとめ
こむぎプラスが教えてくれるのは、加水90%という難所を「こねない・成形しない」で乗り越える発想の転換と、酵母を数値と五感の両方で管理する確かさです。自家製酵母は時間こそかかりますが、レーズンと蜂蜜と水さえあれば始められます。軟水と国産小麦、そして日本の四季の温度差をうまく味方につければ、家庭のオーブンでも気泡の詰まったハード系に手が届きます。まずはレーズン酵母を一瓶、起こしてみるところから。沼の入り口はすぐそこです。
