世界のパンニュース

ハンガリーのラーンゴシュ — 湖畔と温泉で愛される揚げパン

2026年06月21日 読了時間 約7分
きつね色に揚がった平たいパン

ハンガリーの夏、湖のほとりや市場の屋台で次々と揚げられる平たいパンがあります。それが「ラーンゴシュ(lángos)」。きつね色に膨らんだ生地に、にんにくをこすりつけ、サワークリームとすりおろしチーズをたっぷり。サクッとモチッとした素朴な一枚は、家でパンを焼く人にこそ作りやすいおやつです。

名前は「炎」に由来する

ラーンゴシュの語源は、ハンガリー語で「炎」を意味する láng(ラーング)です。かつてハンガリーの家庭や村のパン焼き窯では、週に一度まとめてパンを焼いていました。レンガ窯がまだ熱されている朝、残った生地のかけらを炎のすぐ手前で手早く焼き、その日の朝食として食べたのが始まりとされます。文献ではかなり古くから言及されてきた料理で、長く家庭のパン焼きと結びついてきました。

つまり本来のラーンゴシュは「揚げる」ものではなく、窯で焼くものでした。

「láng(炎)」から生まれた名前 láng =炎 昔:窯の炎の手前で 残り生地を焼く朝食 今:油で揚げる屋台の定番へ 揚げ
図:ラーンゴシュの名前と作り方の変遷(嬉兆オリジナル図解)

揚げパンになったのは20世紀半ば

今わたしたちが思い浮かべる「油で揚げるラーンゴシュ」は、比較的新しい姿です。窯焼きから揚げ物へと変わり、屋台で売られる軽食として広まったのは20世紀半ば以降のこと。とりわけ、社会主義時代にハンガリー人の人気の保養地となったバラトン湖(Balaton)のビーチで、安くてお腹にたまる食べ物として定着しました。

現在では海水浴場のほか、市場、お祭り、温浴施設の周辺など、人が集まる場所の屋台で揚げたてが売られています。中欧一帯にも広がり、チェコやスロバキアでは「langoš」と綴られるなど、国境を越えて親しまれています。路上で焼かれ・揚げられるパンという点では、インドのチャパティ・ロティポーランドの路上パン オブヴァジャネクとも通じる、庶民の暮らしに根ざした一枚です。

王道トッピングはにんにく・サワークリーム・チーズ

ラーンゴシュの定番は、揚げたての表面に生のにんにくをこすりつけるか、にんにくバターやにんにく水を塗り、その上にサワークリームをたっぷり広げ、すりおろしたチーズをのせる食べ方です。チーズはトラピスタ(Trappista)やエダム(Edam)といった、クセの少ないとろけるタイプがよく使われます。

これに加えて、ハム・ソーセージ・きのこ・玉ねぎなど、店ごとにさまざまな具がのることもあります。ベーケーシュチャバ(Békéscsaba)周辺ではブリンザ(bryndza)という羊乳チーズをのせる地域色も。さらに近年は、ヌテラやジャムをのせた甘いラーンゴシュを出す店も現れています。

王道トッピングの重ね順 揚げたての生地 サワークリーム すりおろしチーズ ① にんにくを こすりつける ② クリーム ③ チーズ
図:にんにく→サワークリーム→チーズの王道の重ね順(嬉兆オリジナル図解)

作り方の流れと、じゃがいも入りのバリエーション

基本の生地は、小麦粉・水(または牛乳)・イースト・塩を混ぜて作ります。よくこねて1時間ほど発酵させ、ふくらんだ生地を平たい円形に伸ばして、油でこんがり揚げるだけ。仕上がりは外がサクッと、中はふんわりして気泡が入った食感になります。

地域によって人気なのが、ゆでてつぶしたじゃがいもを生地に練り込む「クルンプリシュ・ラーンゴシュ(krumplis lángos)」。じゃがいもを入れるべきかどうかはハンガリー国内でも意見が分かれるところですが、この生地はほんのり甘みととろみが出て、冷めても固くなりにくいのが利点です。サワークリームやヨーグルトを生地に加えるレシピもあります。

基本の作り方 4ステップ ①混ぜる 粉・水・酵母・塩 ②発酵 約1時間 ③伸ばす 平たい円形に ④揚げる きつね色に
図:混ぜる→発酵→伸ばす→揚げるの基本工程(嬉兆オリジナル図解)

日本の家庭で作るときのコツ

家でパンを焼く人にとって、ラーンゴシュはハードルの低い揚げパンです。ピザ生地や食パン生地と同じく、強力粉・水・ドライイースト・塩・少量の砂糖で生地を作れば十分。じゃがいも入りにしたい場合は、ゆでてつぶしたものを粉100gあたり大さじ2ほど目安に加え、その分だけ水を控えると扱いやすくなります。

揚げ油は170〜180℃を目安にし、生地を手で薄く伸ばしてから入れます。中央を少し薄くしておくと火の通りが均一になり、屋台らしい大きな気泡が立ちやすくなります。たっぷりの油で揚げるのが難しければ、深めのフライパンやスキレットに油を1〜2cm張る「揚げ焼き」でも作れます。片面が色づいたら返し、両面きつね色にすればOKです。

トッピングは、すりおろしにんにくを少量の塩と水でのばした「にんにく水」を熱いうちに刷毛で塗り、サワークリームと溶けるチーズをのせるのが手軽。サワークリームが手に入らなければ、水切りヨーグルトや、ヨーグルトとマヨネーズを少量合わせたもので代用できます。チーズはピザ用のミックスチーズで十分まとまります。揚げたてを温かいうちに食べるのが、いちばんのごちそうです。

層状やもちもち食感の各国フラットブレッドに興味があれば、モロッコの層状フラットブレッド ムセンメンの記事もあわせてどうぞ。

まとめ

ラーンゴシュは、パン焼きの残り生地から生まれ、湖畔の屋台で揚げパンへと姿を変えてきたハンガリーの庶民の味です。にんにく・サワークリーム・チーズという素朴な組み合わせは、日本の台所にある材料でも十分に近づけます。週末にパン生地を仕込んだら、ひとかけを揚げて、揚げたての一枚を味わってみてください。

参考にした情報源

← 前の記事
アルゼンチンのメディアルナ(Medialunas)— シロップで艶をまとう、半月形の朝のクロワッサン
次の記事 →
焚き火・キャンプでピザを焼く完全ガイド|ダッチオーブン・スキレット・ガス窯の使い分け

🍞 この記事を読んだ人は、次の1本へ

同じテーマ・同じ国の記事から、続けて楽しめる一本をお届けします。

草地に置いたフライパンで焼かれたチャパティ/ロティ
▶ 続けて読む その他
インドの毎日パン「チャパティ/ロティ」—アタ+水だけ、フライパンでふくらむ無発酵パンの作り方
6/18