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ギリシャの復活祭の編みパン「ツレキ(Tsoureki)」|マハレピとマスティハが香る三つ編み

2026年06月23日 読了時間 約8分
三つ編み状の甘い編みパン

ギリシャの正教会のイースター(復活祭、ギリシャ語でPascha)に欠かせない甘い編みパンが「ツレキ(Tsoureki、Τσουρέκι)」です。バターと卵をたっぷり使ったブリオッシュに近いリッチな生地を三つ編みにし、ときに赤く染めた卵を編み込んで焼き上げます。何より特徴的なのは、サクランボの種に由来する「マハレピ(mahlepi)」とマスティック樹の樹脂「マスティハ(mastiha)」という二つの香りづけ。ほかのパンにはない、ナッツとほのかな松脂のような独特の芳香が、このパンを唯一無二の存在にしています。

ツレキは正教会のイースターの食卓を象徴するパンであり、40日間の四旬節(断食期間)を終えた復活祭の日に家族で分け合われます。今回はその由来・香り・象徴性を事実に基づいて整理し、日本の家庭で再現するヒントまで掘り下げます。

ツレキとは——名前と起源

ツレキはギリシャ語ですが、語源には諸説あります。英語版Wikipediaによれば、この語は古テュルク語で「丸いパン」を意味する çörek に由来するとされ、ペルシア語やアルメニア語に起源を求める見方もあります。アルメニアの古い呼び名「bsatir」は「冠」と「置く」が合わさった語で、キリストの茨の冠を暗示するともいわれます。

このパンはギリシャだけのものではありません。トルコでは paskalya çöreği、ブルガリアでは kozunak、ルーマニアでは cozonac、アルメニアでは čʿorek と呼ばれ、地中海から東欧にかけて似たイースターの甘いパンが広く存在します。三つ編みのパンを焼く習慣はキリスト教が伝わる以前から春を祝うものとしてあり、それが正教会のイースターと結びついたと考えられています。

図:ツレキと近縁のイースターパン

地中海〜東欧に広がる「編みイースターパン」 ギリシャ:ツレキ トルコ:チョレキ ルーマニア:コゾナック ブルガリア:コズナック 名前も形も少しずつ違うが、いずれも卵とバターのリッチな甘い編みパン

二つの香り——マハレピとマスティハ

ツレキを「ただの甘い編みパン」から特別な存在へ引き上げているのが、ギリシャ独特の二つの香りづけです。

  • マハレピ(mahlepi / mahlab):野生のサクランボ(マハレブザクラ)の種を挽いた香辛料です。アーモンドに似た、ナッツのような甘く香ばしい芳香を持ちます。
  • マスティハ(mastiha / mastic):エーゲ海のヒオス島で採れるマスティック樹の樹脂です。乾いた樹脂の粒を砕いて使い、松や杉を思わせる清々しい香りと、ほのかな苦味のニュアンスを生地に与えます。

この二つが合わさることで、バターや卵のコクの奥に、他のパンにない複雑で東地中海的な香りが立ち上ります。どちらもギリシャ系食材店やオンラインで入手できますが、後述のように代替も可能です。

図:ツレキの香りの構成

ツレキの香りを作る要素 マハレピ 桜の種・ナッツ様 マスティハ 樹脂・松/杉様 柑橘の皮 オレンジ等 バター・卵のコクの上に、この三層の香りが重なる

三つ編みと赤い卵の象徴

ツレキの最も一般的な形は三つ編みです。この三本の編み目は、父・子・聖霊の三位一体を表すといわれます。粉が発酵で膨らみ姿を変えていく過程そのものが、キリストの復活と再生の象徴とされます。

そしてしばしば、三つ編みの上や編み目の間に赤く染めた固ゆで卵が乗せられます。赤い卵はキリストの血を象徴し、卵は墓(殻)を破って現れる新しい命=復活を表します。卵を赤く染めるのは伝統的に聖木曜日(「赤い木曜日」とも)の作業で、ツレキもこの日に焼かれることが多い行事食です。

図:三つ編みと赤い卵の意味

形に込められた意味 三本の編み目=三位一体 赤い卵 =キリストの血 殻を破る=復活

生地と焼き方の要点

ツレキはバター・牛乳・卵・砂糖を使うリッチな生地で、ブリオッシュに近い質感です。特徴は、裂いたときに繊維のように糸を引く食感。長く伸ばした生地を三つ編みにすると縦方向の繊維が育ち、焼くとその繊維がほどけるように分かれるためです。

この食感の鍵は、なめらかで弾力が出て、わずかに手につく程度まで10〜15分しっかりこねること。ロープ状に伸ばすとき端を持って軽く弾ませると繊維が整います。

焼成温度はレシピによって幅があり、おおむね150〜170℃で35〜40分前後が目安です(家庭用オーブンなら190℃で35〜40分とする例も)。最終発酵は暖かい場所で25〜35分ほど。焼く前に卵液を塗り、ゴマやスライスアーモンドをふると、つやと香ばしさが加わります。

日本の家庭での活かし方

マハレピもマスティハも日本のスーパーでは手に入りにくい香辛料ですが、ツレキの魅力は十分に再現できます。

  • 香りの代替:マハレピ・マスティハが手に入らないときは、カルダモン・アーモンドエクストラクト・バニラで補えます。アーモンド系はマハレピのナッツ様に近く、オレンジの皮を加えると本場らしい柑橘の層が出ます。
  • 生地と編み:強力粉・無塩バター・牛乳・卵・砂糖・ドライイーストでリッチなブリオッシュ生地を組み、バターは生地がまとまってから少しずつ加えます。3本のロープを少し長めに伸ばしてから編むと、裂いたときの繊維感が出ます。
  • 赤い卵は無理をしない:行事として楽しむなら固ゆで卵を食用色素で染めて編み目に乗せ、日常のおやつパンなら卵を省いてゴマやアーモンドだけでも十分に「ツレキらしい」一本になります。
  • 食べ方:軽くトーストしてバターやはちみつを添えるほか、フレンチトーストにすると生地が活きます。固くなったら卵液に浸して焼き直すのもおすすめです。

行事の背景を知ったうえで一本焼いてみると、ツレキは「春の祝い」と「家族で分け合うパン」という二つの意味を、日本の食卓にもそのまま運んでくれます。

参考にした情報源

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