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香港の菠蘿包(ボーローバーウ)— パイナップルは入っていないのに、ひび割れがその名になった茶餐廳の看板パン

2026年07月10日 読了時間 約7分
ひび割れたクッキー生地をのせた香港の菠蘿包(パイナップルパン)

朝の香港。茶餐廳(チャーチャーンテーン)と呼ばれる大衆食堂の棚に、黄金色の甲羅をまとったパンがずらりと並びます。表面のクッキー生地が焼くうちに割れて、亀甲模様のひびが走る——その姿がパイナップルの皮に似ていることから「菠蘿包(ボーローバーウ)」、つまりパイナップルパンと呼ばれるようになりました。中身にパイナップルはひとかけらも入っていません。

下はふわふわの甘いミルクパン、上はサクほろの甘いクッキー皮。日本人ならきっと「メロンパンに似てる!」と声が出るはずです。この記事では、名前の由来と茶餐廳の食文化、メロンパンとの似て非なるところ、そして家庭のオーブンで再現するときの骨子とつまずきどころを紹介します。

名前の由来と、諸説ある生まれ

菠蘿は広東語でパイナップルのこと。名前の由来は、格子状にひび割れた焼き色の皮がパイナップルの表皮にそっくりだから——これが定説です。

生まれについては、はっきりしたことが分かっていません。記録として確認できる最も古い菠蘿包は1942年の香港にさかのぼるとされます。一方で、1946年にメキシコから香港へ渡った一家が、メキシコの菓子パン「コンチャ」を現地の口に合わせて作り替えたのが始まりだという説もあり、諸説あります。いずれにせよ、イギリス統治下で西洋のパン文化と広東の食文化が混ざり合う中から生まれた「東西折衷」の申し子であることは間違いなさそうです。

そして2014年6月、香港政府はこの菠蘿包(の製造技術)を、約480項目からなる無形文化遺産の目録に登録しました。元朗で70年以上続く老舗「大同老餅家」のような店が、手仕事の製法を今も守っています。ただの菓子パンではなく、香港の人々にとって「毎日の暮らしの一部」なのです。

茶餐廳の食べ方:焼きたてに、冷たいバターの「菠蘿油」

菠蘿包の真骨頂は、茶餐廳での食べ方にあります。焼きたての熱いパンに横から切れ目を入れ、そこへ冷蔵庫から出したばかりの冷たいバターをひと切れ、ずぼっと挟む。これが「菠蘿油(ボーローヤウ)」。菠蘿はパイナップル、油はここではバターを指します。

パンの熱でバターの縁がとろりと溶け始め、真ん中にはまだ冷たい芯が残る。サクッと割れる皮、ふわりと甘い生地、塩気のあるバターの三重奏を、両手でハンバーガーのように持ってかぶりつくのが現地流。お供は決まって、濃く淹れたミルクティーです。朝食に、午後のお茶に、香港の一日のそこかしこにこのパンがいます。

メロンパンとの、似て非なるところ

甘いパンにクッキー生地をのせて焼く——構造だけ見れば、菠蘿包と日本のメロンパンは確かに兄弟のようです。実際、似たクッキー皮のパンとして日本のメロンパンや韓国のソボロパンが並べて語られることもあります。

ただ、食べ比べると別人です。菠蘿包の皮は卵黄が濃く、ラードやショートニングを使うレシピも多くて、色は濃い黄金色、食感は薄くサクほろ。皮がパン全体を覆わず、てっぺんに帽子のようにのっているのも特徴です。そして最大の違いは「バターを挟んで食事のように食べる」文化があること。メロンパンをおかず扱いする日本人は、なかなかいませんよね。

家庭で再現するときの骨子

香港の職人技をそのまま持ち帰るのは無理でも、骨組みは家庭のオーブンで再現できます。参考記事のレシピに共通する要点を、日本の台所向けにまとめるとこうなります。

  • 土台のパンは「湯種」入りのミルクパン:小麦粉(強力粉)と水を火にかけてのり状にした「湯種」を冷まして生地に混ぜ込むと、翌日もふわふわの軽いパンになります。牛乳・卵・砂糖多めのリッチな配合が香港式。
  • クッキー皮の材料:やわらかくした(溶かさない)バター、細かい粒子の砂糖(上白糖かグラニュー糖を細かくしたもの)、卵黄、薄力粉、ベーキングパウダー。粉ミルクを少し入れるレシピもあります。
  • 皮は「混ぜすぎない」:粉が見えなくなったらすぐやめて、そぼろ気味のまままとめるのがひび割れへの近道。
  • 皮は冷やしてから使う:冷蔵庫で冷やし、ラップ2枚の間に挟んで丸くのばすとベタつきません。
  • のせるのは二次発酵後、パンの頭だけ:焼くとパンが膨らんで皮が自然に割れるので、全体を覆わないこと。卵黄を塗ってから焼くと、あの黄金色に。
  • 焼成の目安:180℃で12〜13分(レシピによっては190℃前後で14〜16分)。

焼き上がりの皮がパリッと割れて、下からミルクパンの湯気が上がってきたら大成功。熱いうちに切れ目を入れて、冷たいバターを挟んでみてください。

よくある失敗と、その直し方

  • ひびが入らず、のっぺりした皮になる → 皮の生地を練りすぎています。粉気が消えたら即ストップ。砂糖は粒子の細かいものを(粉糖はNG、あの砂糖の粒がサクサクの素です)。
  • 焼くと皮が流れて脇に垂れる → 皮が温まってやわらかすぎた合図。のせる直前まで冷蔵庫で冷やして。
  • パンが目の詰まった重い焼き上がりに → こね不足か湯種の省略が原因のことが多いです。手ごねなら根気よく、ミキサーなら低速でじっくり。
  • 成形中に生地がだれて過発酵気味に → 生地を半分ずつ作業し、残りは冷蔵庫に待機させると慌てません。

一個目から完璧なひび割れは出なくても大丈夫。皮の固さと冷やし加減さえ手が覚えれば、二回目からぐっと「あの顔」に近づきます。

甲羅がパリッと割れたら、香港の朝

パイナップルが入っていないのにパイナップルパン。いい加減な名付けのようでいて、80年ちかく愛され、ついには無形文化遺産にまでなった大らかさが、いかにも香港らしいと思うのです。休日の朝、焼きたての菠蘿包に冷たいバターを挟み、濃いめのミルクティーを添えれば、台所が一瞬だけ茶餐廳になります。甲羅がパリッと割れる音を、ぜひ自分の耳で🍞

参考にした情報源

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