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コロナ禍で根づいた米国の家庭サワードウ ― 温度と計量がカギ

2026年06月11日 読了時間 約11分

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皿にのせた焼きたての自家製サワードウブレッド

おうちのキッチンから、ぷくぷくと呼吸するサワードウのスターター(天然酵母の種)を毎日のぞきこむ――そんな暮らしが、2020年に米国の家庭で一気に広がったのをご存じでしょうか。サワードウ(天然酵母パン)作りのブームは、パンデミックが落ち着いた今も冷めることなく、2024年時点でも続くトレンドとして報じられています。そして、その熱を静かに支えていたのが、意外にも「温度管理」と「重量での計量」という、地味だけれど焼き上がりを大きく左右する2つのコツでした。今回は、そのお話と、日本のご家庭で再現するためのヒントをいっしょに見ていきましょう。

なぜ米国でサワードウが大流行したのか

きっかけは、やはりパンデミックでした。在宅時間が増えて、SNSで焼き上がりを共有する楽しさが広がり、パン作りはストレス解消や癒やしの時間にもなっていったんです。Wikipediaの「Pandemic baking」によれば、2020年にサワードウのレシピはGoogleで最も検索されたレシピの一つとなり、米国の家庭製パンブームの象徴になったとされています。

数字にも、その勢いがはっきり表れているんですよ。パンデミック初期の数か月で、米国における小麦粉やイーストなど製パン用品の販売は2〜3倍に伸びました。市販のイーストが品薄になったことも後押しして、多くの家庭の焼き手が、イーストを買わずに育てられるサワードウ(天然酵母)へと移っていったのです。

米国でも古い製粉会社のひとつであるKing Arthur Baking Companyは、2020年に1億5,600万ポンドを超える小麦粉を販売し、2019年比で58%増を記録しました。同社サイトではサワードウのレシピ検索が460%増加し、サワードウが看板商品になったといいます。共同CEOのKaren Colberg氏は、ピーク時には通常の約3倍の販売量を経験したと語り、2021年初頭の取材時点でも前年比約25〜30%増の需要が続いていたと述べています。一過性の流行では終わらなかったことが、ここからも読み取れますね。実際この人気はその後も衰えず、2024年にもNPRがトレンドの継続を報じています。

成功のカギは「温度」

サワードウ作りで、最初にちょっとした壁になるのが、スターター(天然酵母の種)作りです。King Arthurのレシピでは、ゼロから作るのに約5日かかります。1日目に小麦粉と水を仕込み、2日目に1回給餌(小麦粉と水を足してあげること)、3〜5日目は約12時間間隔で1日2回(朝晩)給餌します。5日目の終わりには、給餌後6〜8時間で倍にふくらむのが目安です。毎日少しずつ元気になっていく様子を見るのは、それだけで楽しいものですよ。

ここで効いてくるのが温度なんです。スターターの中の微生物は、室温で最もよく育ちます。King Arthurはスターターを最初に作る際、環境温度の目安を約70°F(約21℃。70〜78°F=約21〜26℃の範囲)、仕込み水は68〜70°F(約20〜21℃)の室温水を推奨しています。家が暑ければ冷たい水、寒ければぬるめの水で調整してあげるのがコツです。

温度は、スターターの活動速度を直接左右します。King Arthurのブログによれば、温度を低く(たとえば45°Fや50°F=約7〜10℃)すると活動が鈍って数日放置でき、78°F(約26℃)に上げると再び活発になるそうです。日常の維持では、暖かい時期に約72°F(約22℃)、涼しい時期には75°F(約24℃)を使う運用例が紹介されています。なお、これらの温度設定例は専用の温度管理デバイスを使った筆者の個人的な例で、必須要件ではなく「温度を制御すれば発酵の速度を調整できる」という考え方を示すものです。ここを知っておくと、スターターのご機嫌をぐっと読みやすくなりますよ。


「重量での計量」が一貫性を生む

もうひとつのカギが、はかり(スケール)での重量計量です。King Arthurは、サワードウでは「最良の結果を得るにはスケールで重量計量するのが最も正確で一貫性がある」と強くおすすめしています。スターターは状態によって体積が変わってしまうので、カップでの計量より重量のほうが信頼できるんですね。

実は、小麦粉もちょっとした曲者なんです。レシピの土台でありながら、最も計量を誤りやすい材料でもあります。すくい方次第では、レシピが想定する量より最大25%も多く使ってしまう恐れがあるとされます。良いスケールは1グラム(約0.04オンス)単位の精度があり、カップより格段に正確です。tare(風袋=ゼロリセット)機能を使えば、ボウルに材料を次々と入れながら計量でき、面倒な計算もいりません。これは地味ですが、毎回の安定感がぐっと変わる嬉しいポイントです。

家庭のサワードウは「勘」より「数字」で安定します。生地温度と分量を一定にできると、翌朝の膨らみがぐっと読みやすくなります。

スターターの維持も、やっぱり重量基準です。基本の維持給餌は1:1:1(スターター:小麦粉:水を重量で等量)、つまり100%加水のスターターにします。これで培養中の微生物群を健康に、バランス良く保てるんです。具体的には、室温保存のスターターは12時間ごと(1日2回)に給餌し、113gを残して残りを捨て、その113gに水113g・小麦粉113gを加える、というのがKing Arthurのメンテナンス手順です。

焼く頻度によって、運用も変えられます。週に複数回焼くなら室温(カウンター)保存で毎日給餌、たまにしか焼かないなら冷蔵保存にして給餌を週1回程度に減らせます。冷蔵保存したスターターは、焼く前に室温で数回の給餌を経て活性を取り戻す必要があります。ご自分の暮らしのリズムに合わせて、無理なく付き合っていきましょう。

日本の家庭での活かし方

米国のコツは、日本の台所でもそのまま応用できます。ポイントは「温度」と「重量」を、なるべく数字で押さえてあげることです。

まず温度です。日本の室温は季節差が大きいので、温度計でキッチンの環境温度と水温を測る習慣をつけると、失敗がぐっと減りますよ。目安はKing Arthurの推奨にならって、環境温度21〜26℃前後、仕込み水は20〜21℃前後です。暑い夏は冷水で、寒い冬はぬるめの水で調整してみてください。日本の四季に合わせた発酵環境のつくり方は季節別の発酵温度コントロール完全ガイドで詳しく解説しています。冬場で室温が低いときは、オーブンの発酵モードや、湯を入れた容器といっしょに保温箱に入れるなど、暖かい場所を作ってあげると活動が安定します。逆に暑すぎる日は、冷蔵庫で活動を鈍らせて、給餌のペースをゆっくりにする手も使えます。

次に計量です。0.1〜1g単位で量れるデジタルスケールがあると、スターターも小麦粉も水もブレなく量れます。tare機能のあるスケールなら、ボウルを載せてゼロにし、材料を順番に足していくだけ。カップでのすくい計量は最大25%も誤差が出ることを思えば、重量計量への切り替えは、初心者の方ほど効果の大きい投資なんです。計量の実践的なコツは正確な計量のコツをまとめた記事もあわせてどうぞ。維持給餌も、無理に113gにこだわらなくて大丈夫。1:1:1の比率さえ守れば、ご自分の使う量に合わせて等量で給餌すれば構いません。

道具をそろえる順番としては、まず1g単位(できれば0.1g単位)のデジタルスケール、次にキッチン用の温度計、という順がおすすめです。この2つがあるだけで、レシピの再現性がぐっと上がりますよ。

まとめ

米国の家庭サワードウブームは、パンデミックをきっかけに広がり、今も続いています。その裏にあったのは派手なテクニックではなく、温度を測って整え、材料を重量で量るという基本でした。日本のご家庭でも、温度計とデジタルスケールという身近な道具で、同じ精度を手に入れられます。まずは数字で「測る」習慣から、サワードウ作りを始めてみませんか。きっと、毎日の発酵がもっと愛おしくなりますよ。

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