型から出したパンの、底が濡れている。焦がしたのでも生焼けでもなく、それでいい。
パニポポ(Pani Popo)は、南太平洋のサモアで焼かれる甘いパンです。サモア語で pani がパン、popo がココナッツ。丸めた生地を型に並べ、砂糖を溶かした甘いココナッツソースを注いでからオーブンに入れます。ソースはあとからかけるものではなく、パンと一緒に焼くもの——そこがこのパンの全部です。この記事では、焼き上がりがどうなるのか、サモアの食卓のどこに置かれてきたのか、そして日本のスーパーで買える材料でどう焼けるのかを紹介します。
ソースの中で焼く、というつくり
オーブンから出したパニポポは、ひとつのパンの中に二つの表情を持っています。上面は乾いてきつね色、指ではじくと軽い音がする。ところが型を返すと、底はソースを吸ってとろりと濡れ、光っている。焼きながら下から甘い汁を飲ませているので、当然といえば当然です。ちぎると、その境目が断面にはっきり出ます。
形は家によって違います。丸めただけの玉を並べる家もあれば、シナモンロールのように渦に巻いてから並べる家もある。ソースも流儀が分かれていて、コーンスターチでとろみをつけてから注ぐ作り方と、さらさらのまま注いで生地に吸わせる作り方の両方が使われています。
焼き上がりの音も特徴的です。ふちのソースがふつふつと鳴っているうちに取り出し、型のまま少し休ませる。この休ませる時間に、鍋底に残っていたソースがパンの下半分へ吸い上がっていきます。焼きたてをすぐ皿に移すと、いちばんおいしい部分を型に置き去りにすることになります。
日曜の食卓に置かれるパン
サモアで一週間の中心にあるのは、日曜の礼拝のあとに家族が集まる遅めの昼食「to’ona’i(トオナイ)」です。祝いの料理は umu——焼いた石を地面に敷き、その上に食材を置いて葉と石で覆い、石の余熱だけで一、二時間かけて火を通す地面のかまど——で用意されます。パニポポ自体はオーブンで焼くパンですが、置かれるのはこの卓です。
そしてサモアの料理の背骨にあるのがココナッツクリーム(pe’epe’e)で、甘いものにも塩気のものにも当たり前のように入ります。パニポポは、その背骨がいちばん素直に出た一皿だといえます。学校のバザー、親戚の集まり、法事の席——特別な日のごちそうでありながら、家族の日常の甘いものでもある、という位置にいます。
いつ生まれたのかについては、はっきりした記録に行き当たりませんでした。ただ、外から入ってきた小麦粉と、島がずっと持っていたココナッツが、ひとつの型の中で出会っている——そういうパンだ、とは言えます。起源の細部については諸説あり、家ごとの言い伝えの域を出ません。
| サモアの材料 | 日本の台所での置きかえ |
|---|---|
| popo を搾ったココナッツクリーム | ココナッツミルク缶(400ml入りが一般的。半分使い、残りは製氷皿で冷凍) |
| やわらかめのパン生地 | 強力粉。よりふんわりさせたいなら1割を薄力粉に置きかえる |
| 大きな角型でまとめて焼く | 18cmの丸型・スキレット・耐熱皿。深すぎない型が向く |
| とろみのつけ方は家ごと | コーンスターチ小さじ1でとろみをつけるか、つけずに吸わせるか選ぶ |
作り方(18cmの丸型・8個分)
生地はごく普通の甘いパン生地です。難しいのは配合ではなく、ソースをいつ・どこへ注ぐかのほうです。
生地
- 強力粉 250g
- 砂糖 30g
- 塩 4g
- インスタントドライイースト 3g
- 牛乳 150ml(人肌に温める)
- 溶き卵 25g
- バター 25g(室温にもどす)
ココナッツソース
- ココナッツミルク 200ml
- 水 80ml
- 砂糖 45g
- 塩 ひとつまみ
- コーンスターチ 小さじ1(とろみをつける流儀のときだけ)
手順
- 粉・砂糖・塩・イーストをボウルで混ぜ、人肌の牛乳と溶き卵を加えてひとまとまりにする。
- 台に出して5分ほどこね、バターを加えてさらに8分ほど。生地を押した跡がゆっくり戻るくらいが目安。
- 28〜30℃で60分ほど一次発酵。倍くらいにふくらむまで。
- ガスを抜いて8等分し、丸め直す。バターを塗った型に、少しだけ間を空けて並べる。
- 二次発酵は35〜45分。隣どうしの肩が触れるくらいまで。
- そのあいだにソースを作る。材料を鍋で混ぜ、砂糖が溶けるまで温める。とろみをつけるならコーンスターチを同量の水で溶いて加え、ふつふつしたら火を止めて粗熱を取る。
- オーブンを180℃に予熱。ソースの3分の2を、生地と生地のあいだへ流し込むように注ぐ。上から浴びせない。
- 180℃で22〜25分。上がきつね色になり、ふちのソースがふつふつしていれば焼き上がり。
- 型のまま30分ほど休ませる。残しておいたソースは温め直して、食べる直前にかける。
甘さの調整については、レシピを公開している Not Quite Nigella が、ココナッツのトッピングに「a little salt into my coconut cream topping to balance the sweetness
」——甘さを釣り合わせるために少量の塩を、と書いています。砂糖を減らすより、この一手のほうがよく効きます。
よくある失敗と、その直し方
- 底が生焼けのようにべちゃっとする:ソースを最初に全部入れています。3分の2にとどめ、残りは焼き上がりに回す。型が深すぎるのも同じ結果になります。
- ふくらみがつぶれた:二次発酵の直後に、上から勢いよくソースを浴びせたときに起きます。鍋肌を伝わせ、生地のすき間へ静かに落とす。
- 上だけ焦げて中が生っぽい:温度が高いか、型が小さくて生地が厚い。15分あたりでアルミホイルをふわりとかぶせます。
- 甘すぎた:ソースに塩をひとつまみ。次に焼くときは砂糖を5gずつ減らして様子を見ます。
- ふくらみが足りない:ほとんどが二次発酵の見切り発車です。時間ではなく生地の様子で判断します(発酵の温度と時間の考え方はこちら)。
- 翌日かたくなった:ソースを少しかけ直して温め直すと戻ります。もともと下半分が湿っているぶん、翌日に強いパンです。
日本の台所に置きかえる
いちばん引っかかるのはココナッツミルクの量です。日本のスーパーで手に入るのはたいてい400mlの缶で、このレシピで使うのは半分。残りは製氷皿で凍らせておくと、次に焼くときそのまま鍋に落とせます。カレーやスープに回してもかまいません。
型はスキレットが向いています。鋳鉄は側面からも熱が入るので、ふちのソースが早く煮詰まり、キャラメルのような香ばしい縁ができます。屋外で焼くなら、この「ソースごと焼く」構造はダッチオーブンとも相性がいいはずです。
並べ方については、日本のちぎりパンとまったく同じ理屈が働きます。生地どうしをくっつけて焼くと、触れ合った面は蒸されて水分が逃げず、しっとりが続く。パニポポはそこへさらに、下からココナッツを飲ませている——ちぎりパンの発想の、南太平洋版だと思うと分かりやすいかもしれません。
焼けたら、型のまま食卓に出してください。ひとつ取ると、糸を引くように底のソースがついてくる。手がべたつくのは、たぶんこのパンの正しい食べ方です。
参考にした情報源
- Tara’s Multicultural Table「Pani Popo (Samoan Sweet Coconut Buns)」https://tarasmulticulturaltable.com/panipopo-samoan-sweet-coconut-buns/
- Not Quite Nigella「Pani Popo Samoan Coconut Buns Recipe」https://www.notquitenigella.com/2021/08/23/pani-popo-coconut-buns-rolls/
- Polynesian Cultural Center Blog「Pani Popo: A Sticky Gooey Treat From Samoa」https://www.polynesia.com/blog/pani-popo-recipe
- Wild Wild Whisk「Pani Popo (Samoan Coconut Buns)」https://wildwildwhisk.com/pani-popo/
