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チェコの回転焼きパン「トゥルデルニーク(Trdelník)」|炭火で巻いて焼く砂糖パン

2026年06月22日 読了時間 約10分
炭火で焼かれる筒状のパン、トゥルデルニーク

プラハの旧市街を歩くと、甘く香ばしいシナモンの匂いに必ず足を止める。煙の立つ店先で、職人が金属の棒に生地をらせん状に巻きつけ、炭火の上でくるくると回している。やがて焼き上がった筒状のパンに溶かしバターを塗り、砂糖とくるみをまぶす——これがチェコで「トゥルデルニーク(Trdelník)」と呼ばれる回転焼きパンだ。

外はカリッと、中はふんわり。表面でカラメル化した砂糖が、ほろ苦い炭火の香りと溶け合う。観光客にとってプラハの「ご当地スイーツ」の代名詞になっている一方で、実はその出自をめぐっては地元でも議論が絶えない。今回はチェコの名物パンの作り方と、知っておくと面白い「起源の物語」を、事実に沿って読み解いていく。

棒(trdlo)に巻いて回す——名前そのものが製法を語る

トゥルデルニークの核心は、その独特な成形と焼き方にある。酵母(イースト)で発酵させた甘い生地を細長い帯状に切り、「トゥルドロ(trdlo)」と呼ばれる円筒形の棒にぐるぐると巻きつける。これを炭火やグリル、あるいは専用の回転オーブンの上にセットし、絶えず回しながら均一に焼き上げる。

名前の由来もこの道具にある。「trdlo」とはチェコ語・スロヴァキア語で、生地を巻きつける木の棒そのものを指す言葉だ。回しながら焼くため熱が全体に行きわたり、中心が空洞の「煙突(チムニー)」のような形に仕上がる。英語圏で「チムニーケーキ(chimney cake)」と呼ばれるのはこのためである。焼く前に油やバターを塗り、グラニュー糖をまぶしておくと、回転する熱で糖がとろけて琥珀色のカラメル膜になる。

棒に巻いて炭火で回す——3つの工程 ①帯状の生地を巻く trdlo(棒)にらせん状に ②炭火で回し焼き 絶えず回し均一に ③砂糖をまぶす 砂糖・シナモン・くるみ
図:トゥルデルニークの基本工程(嬉兆オリジナル図解)

仕上げは、焼きたてを棒から抜き、砂糖とシナモン、刻んだくるみなどをたっぷりまぶす。これが伝統的なスタイルだ。プラハの店ではここからさらに、内側にチョコレートクリームを塗ったりアイスを詰めたりと、観光客向けに「進化」させた派手な商品も並ぶ。

プラハの観光名物——だが「いつから」が問題だ

現在のプラハで、トゥルデルニークは押しも押されもせぬ看板スイーツになっている。旧市街広場やカレル橋の周辺には専門の屋台や店が密集し、ある報道では、ピークシーズンには推定300の業者が1日に1万本以上を売り上げ、価格はおおむね1本4〜6ユーロほどとされる。立ち上る煙とシナモンの香りは、もはやプラハ観光の風物詩だ。

ところが、この「名物」がプラハに根づいたのは比較的最近のことだ。複数の資料によれば、トゥルデルニークの屋台がプラハで急増したのは2000年代初頭で、1990年代まで市内ではほとんど知られていなかったという。ビロード革命後に観光客が押し寄せるなかで、商機を見た売り手が「伝統菓子」として打ち出した——そうした見方が、地元の専門家から繰り返し指摘されている。チェコのジャーナリスト、ヤネク・ルベシュ(Janek Rubeš)が運営する「Honest Guide」などはこれを「観光トラップ」と批判してきた。トゥルデルニークの着ぐるみに「I am not Czech tradition(私はチェコの伝統ではない)」と書いて街を練り歩く動画(演芸学校DAMUの学生による)が拡散し、ルベシュらがこれを取り上げて話題になったこともある。

つまり、味わいそのものは本物でも、「古くからのチェコの伝統」という看板については慎重に見る必要がある、というのが今のところの実情だ。

プラハに「名物」が生まれるまで 〜1990年代 プラハでは ほぼ無名 2000年代初頭 観光客向け屋台が 急増・「伝統菓子」化 現在 ピーク期は1日1万本超 推定300業者・約4〜6€ ※数値は報道による推計
図:プラハでの普及をめぐる時系列(報道・資料にもとづく/嬉兆オリジナル図解)

起源は「諸説あり」——キュルトーシュカラーチとの関係

では、本来どこのパンなのか。これこそが最も意見の分かれる点で、断定は避けたい。英語版ウィキペディアの記述では、トゥルデルニークは「歴史的なハンガリー王国の北部に由来する」とされ、19世紀半ばにはスロヴァキアの菓子として、20世紀にはモラヴィア(チェコ東部)の菓子として知られるようになったと整理されている。同時に文献上は「ボヘミア(プラハ一帯)の料理ではなく、スロヴァキアまたはモラヴィアの料理として言及されることが多い」とも記される。

よく似た回転焼きパンに、トランシルヴァニア(現ルーマニア)のハンガリー語圏で親しまれる「キュルトーシュカラーチ(kürtőskalács)」がある。こちらは最古とされるレシピが1784年、トランシルヴァニア・ザボラのミケシュ・マーリア伯爵夫人の料理本に登場し、菓子そのものの記録は1679年までさかのぼるという。これらの事実から、「棒に巻いて回し焼く甘いパン」という型はハンガリー語圏に古い系譜を持ち、それが後にスロヴァキアやモラヴィアへ伝わり、さらに近年プラハで観光食として広まった——という見立てが有力視されている。一方でチェコの伝統として語る立場もあり、本記事としては「諸説あり」と明記したうえで、少なくともプラハ路上の現在の姿は近年のものだ、という点を押さえておきたい。

2つの回転焼きパンを比べる 観点 トゥルデルニーク キュルトーシュカラーチ 主な地域 チェコ/スロヴァキア トランシルヴァニア 記録の古さ スロヴァキア菓子は19c半ば レシピ1784年/記録1679年 共通点 棒に巻き回し焼く 砂糖・くるみで仕上げ 違い プラハ普及は2000年代〜 一般にやや大きめ ※起源には諸説あり。系譜の整理は資料にもとづく一例
図:トゥルデルニークとキュルトーシュカラーチの比較(諸説あり/嬉兆オリジナル図解)

日本の家庭で焼くなら、ここを工夫

専用の棒や回転装置がなくても、家庭で雰囲気を再現することはできる。鍵になるのは「均一に巻ける芯」と「全体を回しながら焼く(または転がす)」という発想だ。芯にはアルミホイルを何重にも巻いた円筒や、オーブン対応の金属筒(ステンレスの太いパイプなど)を使い、油を塗ってから生地が貼りつかないようにする。

生地は砂糖入りの甘い菓子パン生地でよい。発酵の見極めに自信がない方は、温度管理を押さえると失敗が減る。詳しくは発酵×温度の完全ガイドイーストの種類と選び方が参考になる。生地を1.5cm幅ほどの帯に切って芯にらせん状に巻き、表面に溶かしバターを塗ってグラニュー糖をまぶす。オーブンなら200℃前後で、ときどき向きを変えながら全体に焼き色をつけ、焼き上がりに砂糖・シナモン・刻みくるみをまぶせば完成だ。糖が0.1g単位で配合できると、カラメル化のムラが出にくい。

巻く前の生地づくりは台の上での作業がしやすく、こね台があると一気にはかどる。屋外で炭火の香りを楽しみたいなら、ダッチオーブンで蓋上に炭を載せて「回し焼き」の代わりに上下からじっくり熱を入れる手もある。アウトドアでのパン焼きはダッチオーブンでキャンプパンで具体的に紹介している。


うまく膨らまない、焼き色がつかないといったときは失敗の原因と対策も併せて確認してほしい。

まとめ

トゥルデルニークは、棒(trdlo)に生地を巻いて炭火で回し焼き、砂糖・シナモン・くるみで仕上げる、香り高い回転焼きパンだ。今やプラハ観光に欠かせない一品だが、その普及は2000年代以降と新しく、起源についてはハンガリー語圏のキュルトーシュカラーチとの関係を含めて諸説ある——この二段構えで味わうと、一口の甘さがいっそう奥行きを増す。

「伝統」のラベルにとらわれず、製法と歴史を分けて見つめる。それは家庭でパンを焼くときの姿勢にも通じる。まずは身近な道具で、回しながら焼く楽しさから始めてみてはいかがだろうか。道具選びに迷ったら道具一覧もどうぞ。

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