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エチオピアの発酵フラットブレッド「インジェラ」とは|テフ粉が生む酸味と無数の“目”

2026年06月15日 読了時間 約7分

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銀のトレイに広げたインジェラと赤いワット(煮込み)、スプーン

エチオピアの食卓に欠かせないパンと聞いて、ふわふわの白いパンを思い浮かべると、少し驚くかもしれません。主役は「インジェラ(injera)」、酸味のあるスポンジのような大きな円形のフラットブレッドです。クレープとパンケーキの中間のような見た目で、表面には無数の小さな穴が空いています。これはパンでありながら、お皿でもあり、スプーンでもある、不思議な食べものです。

インジェラの正体は、テフという穀物を発酵させた生地を焼いたもの。数日かけてゆっくり発酵させることで生まれる独特の酸味と、片面焼きならではのスポンジ状の食感が特徴です。今日はこのインジェラがどんなパンなのか、原料のテフ、発酵のしくみ、独特の焼き方と食べ方をやさしくたどりながら、最後に日本の家庭でも試しやすいレシピをご紹介します。

世界最小級の穀物「テフ」

インジェラの主原料は、テフ(teff)という穀物です。エチオピア原産で、おもにエチオピアとエリトリアで食べられてきました。テフの一番の特徴は、その小ささ。世界でもっとも小さい部類の穀物で、一粒がケシの実ほどしかありません。そのため精米のように外皮だけを取り除くことが難しく、丸ごと粉にして使われます。

テフはグルテンを含まない穀物でもあります。小麦のようにこねて粘りを出すパンとは成り立ちが違い、水で溶いて発酵させ、焼いて気泡を生み出すことで、あのスポンジ状の食感を作り出しているのです。栄養価が高い穀物としても近年注目を集めています。

数日かけて発酵させる酸味

インジェラのもうひとつの核は、発酵です。基本の材料はテフ粉と水だけ。これを溶いて生地にし、室温で24〜72時間ほど、つまり1〜3日かけて自然に発酵させます。空気中や粉に住む酵母と乳酸菌のはたらきで、生地はぷくぷくと泡立ち、サワー種のパンに似たさわやかな酸味を帯びていきます。

この酸味こそがインジェラの個性です。発酵の時間が長いほど酸味は深くなり、家庭や地域、季節によっても味わいが変わります。小麦パンのイースト発酵が数時間で済むのに比べ、数日がかりでじっくり育てる発酵は、インジェラならではの時間の使い方と言えるでしょう。

片面だけ焼いて“目”を出す

発酵させた生地は、「ミタド(mitad)」と呼ばれる大きくて平らな円形の鉄板で焼きます。薄く流し入れたら、ここがポイント――インジェラはひっくり返しません。片面だけを焼くのです。

火が入ると生地の水分が蒸気になって立ちのぼり、表面いっぱいに小さな穴が次々と開いていきます。この穴は「目(eyes)」と呼ばれ、焼き上がりの良し悪しを示す目印にもなります。底面はなめらかで、上面はレースのように穴だらけ。このスポンジ状の表面が、煮込みやソースをよく吸い取ってくれるのです。

食べ方も独特です。インジェラは大きなお皿のように広げ、その上に「ワット(wat)」と呼ばれる煮込み料理を何種類ものせます。食べる人は、インジェラを手で小さくちぎり、それで煮込みを包むようにつまんで口へ運びます。皿でありスプーンでもあるインジェラを、みんなで囲んで手で分け合う。パンが食事の中心にも、道具にもなる食文化なのです。

日本の家庭での活かし方

ここからは、編集部のアレンジで日本の家庭でも試しやすいインジェラ風フラットブレッドのレシピをご紹介します。本場のテフ粉は日本では手に入りにくく、100%テフは扱いも難しいため、今回はテフが手に入ればそれを一部使い、なければそば粉や全粒粉で代用する配合にしました。グルテンの少ない粉を使うと、本場に近いスポンジ状の食感に近づきます。

材料(直径20cmほど・3〜4枚分)

  • テフ粉(または そば粉・全粒粉)…100g
  • 強力粉または薄力粉…100g
  • 水…300ml前後
  • 塩…ひとつまみ

作り方

  1. ボウルに粉と水を入れ、ダマがなくなるまでよく混ぜます。クレープ生地よりやや緩いくらいが目安です。
  2. ラップをふんわりかけ、室温で1〜2日おいて発酵させます。表面が泡立ち、ほんのり酸っぱい香りがしてきたら発酵のサインです。
  3. 発酵した生地を軽く混ぜ、塩を加えます。固ければ水を少し足して、流せる固さに整えます。
  4. フライパンを中火で熱し(油はひかないか、ごく薄く)、生地を薄く流し入れて全体に広げます。
  5. ふたをして片面だけ焼きます。ひっくり返しません。表面いっぱいに「目」と呼ばれる小さな穴が開き、ふちが浮いてきたら焼き上がりです。
  6. 皿に取り、カレーや煮込みを添えて、ちぎって包みながら手で召し上がれ。

テフと水の比率が食感を左右するので、正確な計量がおいしさの近道です。

発酵を少し早めたいときや、寒い季節に立ち上げたいときは、補助的にイーストを使う方法もあります。

数日かけて発酵させるインジェラは、生地の温度管理が仕上がりを左右します。室温が低すぎると発酵が進まないので、温度を確かめながら作業すると安心です。

本場のテフやミタドがなくても、片面焼きでスポンジ状の穴を出す感覚は十分に味わえます。いつものカレーをインジェラ風のパンで包んで食べれば、食卓が一気に異国の雰囲気になります。

まとめ

インジェラは、エチオピア原産の世界最小級の穀物「テフ」を水で溶き、24〜72時間かけて自然発酵させた、酸味のあるスポンジ状のフラットブレッドです。ミタドと呼ぶ円形の鉄板で片面だけを焼き、表面には「目」と呼ばれる無数の気泡ができます。大きく広げたインジェラにワット(煮込み)をのせ、ちぎって手で食べる――皿でありスプーンでもあるパンを囲む食文化が、その魅力です。

グルテンフリーのテフ、数日がかりの発酵、ひっくり返さない焼き方。どれをとっても、私たちのなじみのパンとは少し違う成り立ちをしています。テフが手に入らなくても、そば粉や全粒粉で発酵と片面焼きのしくみは体験できます。ぜひおうちで、エチオピアの食卓の知恵を味わってみてください。

参考にした情報源

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