パン作り

ビガで作るチャバタ|1982年生まれのパンを家庭サイズで焼く

2026年09月18日 読了時間 約8分
焼き上がったチャバタと、その断面。大小の気泡が不揃いに開いている

丸めない。閉じ目も作らない。カードで四角く切って、そのまま天板へ滑らせる。チャバタは、成形の失敗というものが最初から存在しないパンです。

1982年にイタリアで生まれたこのパンの本家は、ビガという低加水の前種で作られます。水をたっぷり含んだゆるい生地は、こねずに折るだけで育ち、切りっぱなしで焼き上がる。だからこそ高加水パンの一枚目にちょうどいい。この記事では、家庭サイズのビガ配合をベーカーズパーセントで示し、こねない生地の扱い方、切りっぱなしの気楽さ、そして家庭のオーブンでの焼き方までを紹介します。

本家のチャバタはビガで作る——1982年の配合はいたって素朴

チャバタが世に出たのは1982年。イタリア・ポレージネ地方の製粉業者アルナルド・カヴァッラーリが、フランスのバゲットに押される自国のパン売り場を憂えて作り出し、地名を取って「チャバッタ・ポレサーナ」と名づけました。イタリア語でチャバッタは室内履きのこと。平たい楕円の形からの命名です。誕生の物語はイタリアのチャバタの記事に詳しく書きました。

意外なのは配合の素朴さです。使うのはグルテンの強い粉、水、塩、イーストだけ。オリーブオイルも乳も入りません。それでいてあの香りが出るのは、水の多さに加えて、前種を使うから。イタリアの前種であるビガは、フランス系のポーリッシュより水の割合が低く、本ごねの12〜24時間前に仕込んでおきます。

ビガの加水率は流派で幅があります。伝統的な50%前後のかたいものから、チャバタ向けに65%前後まで上げるレシピまで。低いほど発酵はゆっくり進み、香りは熟成寄りに尖ります。家庭では50%が計算しやすく、失敗も少ない。まずはここから始めます。

粉300gで2本——家庭サイズの配合

前の晩に仕込むのはこれだけです。

  • 強力粉:150g(全体の粉の半分)
  • 水:75g(ビガの加水50%)
  • インスタントドライイースト:0.2gほど(指でつまんだひとつまみ)

粉気がなくなるまで混ぜ、そぼろが集まったところで止めてふたをします。ここまで10分。涼しい室温(20℃前後)で12〜18時間。夏場は室温に1時間置いてから冷蔵庫へ移し、8〜16時間にすると行きすぎません。翌朝、泡だらけになってヨーグルトに近い酸の香りがしていれば合格です。

翌日、残りを合わせます。

  • ビガ:全量
  • 強力粉:150g
  • 水:150〜165g(ビガの分と合わせて総加水75〜80%)
  • 塩:6g(粉全体の2%)
  • インスタントドライイースト:1.2g(粉全体の0.4%)

油は入れません。本家がそうだからというだけでなく、油を足すと皮が薄くパリッと割れる感じが鈍るからです。

こねない——混ぜて休ませ、30分おきに折る

75%を超える生地は、こね台の上で丸めようとしても手にまとわりつくだけです。ここは力ではなく時間で解きます。

  • ビガを手でちぎって水に散らし、3分ほどふやかす
  • 粉を加え、粉気がなくなるまで混ぜて20〜30分休ませる
  • 塩とイーストを混ぜ込む
  • 濡らした手で、生地のふちを持ち上げて中央へ折る。容器を回して四方くり返せば1セット
  • 30分おきに3〜4セット。回を追うごとに生地が締まって張りが出る

折り方そのものはストレッチ&フォールドの科学で図解しています。ここで大事なのはひとつだけ。ベタつくからといって粉を足さないこと。足した瞬間、あの気泡は失われます。手を濡らす、カードを使う、この二つで乗り切れます。

そのあとは一次発酵。室温で2〜3時間、1.5〜2倍にふくらんで表面に気泡が透けて見えたら次へ。時間が読めなければ、ふたをして冷蔵庫で一晩置いても構いません。

工程 時間の目安 見きわめ
ビガを仕込む 10分 そぼろが集まったら止める
ビガの発酵 12〜18時間 泡だらけ・ヨーグルトに近い酸の香り
混ぜて折る 30分おきに3〜4回 生地に張りが出る
一次発酵 室温2〜3時間 1.5〜2倍・表面に気泡
切って休ませる 30〜40分 切り口がゆるむ
焼く 230℃で25〜30分 濃いめの焼き色

成形しないから、成形の失敗が起きない

ここがチャバタのいちばん気楽なところです。

  • 台に打ち粉をたっぷり振り、ボウルから生地をそっとあける
  • 上からも粉を振り、カードで2つの長方形に切る
  • 丸めない。閉じ目も作らない。張らせない
  • 切った生地をクッキングシートの上へ移し、30〜40分休ませる

気をつけるのは「正確に切ろうとしないこと」だけです。大きさをそろえようと生地を押したりつまんだりすると、そのぶん気泡が抜けます。多少いびつでも、そのほうが焼き上がりの穴は大きく開く。指で軽くくぼみをつけるくらいの触り方でちょうどいい。

丸めのコツも、閉じ目を下にする段取りも、二次発酵で張りを見る目もいりません。初めて高加水の生地に触る人にとって、覚えることが一つ減るというのは、思っているよりずっと大きい違いです。

焼くのは230℃、最初の10分に蒸気を効かせる

天板は生地をのせる前からオーブンに入れ、230℃でしっかり予熱します。冷たい天板に置くと、底が固まる前に生地が広がってしまいます。

  • 天板ごと230℃で20分以上予熱する
  • 下段に空のバットか鉄のフライパンを入れておき、生地を入れる直前に氷か熱湯を注ぐ
  • 25〜30分焼く。焼き色は「少し濃いかな」で引き上げる
  • 残り3分の1のところで一度扉を開け、湯気を逃がすと皮が薄く割れるようになる

高加水のパンは火通りに時間がかかります。表面の色だけで判断せず、持ち上げて底を叩き、軽い音が返るまで待ってください。焼き上がったら網の上で完全に冷ます。熱いうちに切ると、せっかくの気泡が押しつぶれます。

よくある失敗と、その場でできる直し方

  • 生地がベタついて進まない→粉を足さない。手を濡らし、カードで持ち上げる。折る回数を重ねれば自然にまとまる
  • 気泡が細かく詰まってしまう→切り分けや移動でガスが抜けた合図。打ち粉を増やし、触る回数を減らす
  • 焼くと平たく広がりすぎる→折りを1〜2セット足して腰を育てる。たんぱく質の多い粉に替えるのも有効
  • 皮が厚くて硬い→蒸気不足。予熱を惜しまず、最初の10分に湯気を回す
  • 中がねっちり生焼け→焼き足りない。底を叩いて軽い音がするまで、5分単位で延長する
  • ビガが朝もふくらんでいない→温度不足かイーストが古い。翌回は室温側に置き、封を開けて時間の経ったイーストは替える

成形のいらないパンというのは、裏を返せば「生地に任せるパン」です。前の晩のビガと、30分おきの数回の折りたたみ。人がすることはそれだけで、あとは水と時間が穴を開けてくれます。焼きたてを割って、断面の大きな穴にオリーブオイルを落とす。40年前のイタリアで狙われていたのは、たぶんその一口です。

参考情報源

  • Ciabatta – Wikipedia:1982年の誕生、名の由来、粉・水・塩・イーストという構成
  • Busby’s Bakery:ビガを12〜18時間置く手順と、正確に切ろうとしない分割の注意
  • Baker Bettie:ビガの発酵時間の幅と、230℃・蒸気ありで30分前後という焼成
  • The Baker’s Guide:加水65%のビガ、総加水85%の扱い、粉を足さないという原則
  • Baking Steel:加水80%、30分おきの折り、ガスを抜かない分割
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