12月の輸入食材店で、背の高い箱が二種類、隣り合って積まれています。片方はドーム型、もう片方は星型。
パネトーネとパンドーロ。イタリアのクリスマスを二分する発酵菓子で、値段も箱の大きさも似ているので、毎年どちらを買うか迷う人が多い。この記事では、二つの生まれと形と中身の違いをはっきりさせたうえで、家庭で作るならどちらが現実的か、市販品はどこを見て選び、どう切ってどう温めるかまでを紹介します。

生まれた町が違う。ミラノのパネトーネ、ヴェローナのパンドーロ
パネトーネはミラノ、パンドーロはヴェローナの菓子です。どちらもイタリア北部で、間は二百キロ足らず。それでも別の町の名物として、はっきり分かれています。
名前の由来は諸説あります。パネトーネは「大きなパン」の意味だとする説と、トーニという見習いが失敗した菓子を立て直したことから「パン・デ・トーニ」と呼ばれた、という説。パンドーロのほうは、卵とバターをたっぷり使った黄金色から「pan d’oro(黄金のパン)」と呼ばれたことに由来すると伝わります。
いまの形のパンドーロには、はっきりした日付があります。1894年10月14日、ドメニコ・メレガッティがヴェローナで、パンドーロを生産する工程の特許を取得しました。あの星型はそこから始まっています。
形も配合も、イタリアでは法律に書いてある
おもしろいのはここからで、この二つには2005年7月22日付の省令があり、名乗るための条件が細かく決められています。
パネトーネは「サワー種による自然発酵で作る、底が丸く上面が裂けた形の、やわらかい生地の焼き菓子」。パンドーロは「サワー種による自然発酵で作る、八角の星の断面をもつ円錐台形で、外側に皮ができないもの」。形が条文に書いてあるわけです。
| 項目 | パネトーネ | パンドーロ |
|---|---|---|
| 発祥の町 | ミラノ | ヴェローナ |
| 形 | 底が丸いドーム、上面が裂ける | 八角の星の断面をもつ円錐台 |
| 乳脂肪(下限) | 16%以上 | 20%以上 |
| 卵黄(下限) | 4%以上 | 4%以上 |
| レーズンと柑橘のピール | 20%以上 | 入らない |
乳脂肪の下限がパンドーロのほうが高いのは、フルーツが入らないぶん生地そのもので勝負しているからです。断面の描写も条文で書き分けられていて、パネトーネは縦に伸びた気泡、パンドーロはきめが細かく均一な気泡とされます。
フルーツが入るか、入らないか。食卓での差はここに出る
パネトーネはレーズンとオレンジやチェードロの砂糖漬けを抱えています。口に入れると柑橘の皮の香りが立ち、噛むとレーズンの酸味が来る。にぎやかで、コーヒーにも赤ワインにも寄っていく味です。
パンドーロはフルーツを入れません。卵黄の黄金色とバニラの香りだけで、生地はふわりと絹のよう。食べる直前に粉砂糖をたっぷりまぶすので、白と黄金の二色になります。ドライフルーツが苦手な人や子どもがいる食卓では、こちらのほうが手が伸びます。
どちらも「発酵菓子」。イーストで一日、では届かない
ここは正直に書いておきます。省令はどちらにも「サワー種による自然発酵」を求めています。ドライイーストで数時間、という作り方は、本来の定義の外にある。
使うのはリエヴィト・マードレと呼ばれる自然発酵種です。自家培養した種に強力粉と水を足してリフレッシュを繰り返し、強い発酵力を保たせたもので、温度管理が要り、一般の家庭では育てにくいとされます。
本格的な製法では、この生地の発酵と休ませを何十時間もかけて何度も繰り返します。焼き上がったパネトーネは、ふくらんだ生地が自重でしぼまないように逆さに吊るし、1〜2日かけて冷ます。前の晩にポーリッシュやビガを仕込む段取り——発酵種(ポーリッシュ・ビガ)の使い分けで書いたあの世界——の、さらに何段も先です。
ちなみに同じ「待つ菓子」でも、シュトーレンは家庭のオーブンで完結します。長い発酵ではなく焼いた後の熟成で味を作る設計なので、台所の時間割にはずっと収まりやすい。クリスマスに何か焼きたいなら、まずそちらです。

家庭で作るなら、パネトーネ寄りのほうが現実的
それでも作りたい人には道があります。パネトーネ種を粉末にした「パネトーネマザー」が製菓材料店で手に入り、これを使えば家庭のオーブンでも組み立てられます。専用のパネトーネ型やベーキングカップも一緒に売られています。
ただし、本場の再現ではなく家庭に落とし込んだ別物だと割り切ったほうがいい。パネトーネ種を使った生地は保水性が高く、焼き上がりの水分活性が下がるため日持ちがよくなる、という性質までは受け継げます。イタリアでは手作りで一か月、メーカー品なら賞味期限が三か月前後というのが目安です。
一方のパンドーロは、八角星の専用型が要るうえ、生地が型の隅々まで回らないと角が立ちません。作る側に回るなら、まずパネトーネのほうから。
市販品は、原材料表示と持ったときの重さで選ぶ
- 原材料の頭のほうにバターが来ているか。植物油脂に置き換わっているものは軽い味になる
- 卵黄がきちんと入っているか。パンドーロの黄金色は卵黄由来
- パネトーネなら、レーズンとピールの入り方。断面写真がすかすかのものは避ける
- 同じ大きさなら重いほうがよい。生地が詰まっている証拠になる
- 賞味期限が長いこと自体は欠点ではない。この菓子はもともと日持ちする作りをしている
切り方と温め方で、同じものが別の顔になる
パンドーロには食べる前の儀式があります。付属の粉砂糖を、本体が入っているビニール袋にそのまま全部あける。袋の口と底の角を両手で持ち、縦に横に振り回して全体にまぶす。この袋は捨ててはいけません。
切るのは縦長に。星の凸の両脇のくぼみに沿って、ナイフを上から下まで通し、七つか八つに分けます。横にスライスして少しずつずらして重ねるとツリーになる、あの盛り方も定番です。手で持って食べるのが本場流で、口のまわりが白くなります。
パネトーネはそのままでも十分ですが、櫛形に切って軽くトーストすると別物になります。表面が香ばしくなり、中が温まってふんわりする。生クリームやバニラアイスを添えれば菓子になり、塩気のある食材と合わせる食べ方もあります。イタリアでは毎日少しずつ食べ進めるのが普通です。

今年は買って、来年は焼く
この二つは、家庭のパン作りの隣にあるようで、実はかなり遠いところにあります。何十時間の発酵と、逆さに吊るして冷ます一日は、台所の時間割には入りません。だから買って楽しむ、でいい。
そのうえで一度パネトーネマザーで焼いてみると、市販品を食べる目が変わります。上面のあの裂け方はこうしてできるのか、と。箱を開けて袋を振り回すところから始まるクリスマスも、なかなか悪くありません。
参考情報源
- Decreto Ministeriale 22 luglio 2005:パネトーネとパンドーロの法令上の定義、形状の規定、乳脂肪16%/20%以上・卵黄4%以上・レーズンと柑橘ピール20%以上という下限
- Wikipedia(パンドーロ):ヴェローナ発祥、pan d’oroの由来、1894年10月14日のメレガッティの特許、八つの頂点をもつ形、材料と香り
- 富澤商店 Column:ミラノ発祥、リエヴィト・マードレの育て方と家庭での難しさ、日持ちの理由と期間の目安、パンドーロの八角形の型
- クラシル:名前の由来の二説、何十時間に及ぶ発酵と休ませ、焼成後に逆さ吊りして1〜2日かけて冷ます工程、食べ方
- All About(イタリア):付属の粉砂糖を袋ごと振ってまぶす食べ方、縦長に切り分ける切り方、現地での位置づけ
