レシピには「イーストをぬるま湯で予備発酵させる」とある。でも手元の袋には「粉に直接混ぜてください」と書いてある。どちらを信じればいいのか。パン作りを始めてしばらくの人が、たいてい一度は立ち止まる場所です。
答えは、イーストの種類で決まります。予備発酵が要るものと要らないものがあり、袋に書いてあるほうが正しい。そのうえで、要らないイーストでもわざわざ予備発酵をする場面がひとつだけあります。それは、そのイーストが生きているかを確かめたいとき。この記事では、種類ごとの要否と、ぬるま湯の温度、待つ時間、泡の見方を整理します。

予備発酵とは何をしていることか
乾燥したイーストは、眠っている酵母です。水を吸って目を覚まし、糖を食べて炭酸ガスを出し始める。予備発酵は、この目覚めを生地に入れる前に、ぬるま湯と砂糖で先に済ませてしまう作業です。目的は2つ。ひとつは、目覚めが遅い粒の粗いイーストを、生地の中で出遅れさせないこと。もうひとつは、泡が立つかどうかで、イーストが生きているかを見ること。
だから、目覚めが速い種類のイーストには1つ目の理由がなくなります。残るのは2つ目だけ。これが、「不要」と袋に書いてあるイーストでも予備発酵をする人がいる理由です。

種類ごとの要否:粒の粗さで決まる
家庭で手に入るイーストは大きく3つです。性格の違いはイーストの種類と選び方に書いたので、ここでは予備発酵の要否だけに絞ります。
- ドライイースト(アクティブドライ):粒が粗く、乾燥の度合いが強い。水に戻すのに時間がかかるので、予備発酵が必要です。米国のレッドスター社は、ぬるま湯に砂糖を溶かしてイーストを入れ、10分で目盛りまでふくらまなければそのイーストは捨てるように、と案内しています。日本で「ドライイースト」の名で売られているものの多くは次のインスタントですが、輸入品や粒の粗いものはこちら。袋の表示で見分けてください
- インスタントドライイースト:粒が細かく、粉に直接混ぜて使えるように作られています。1973年にこの形を初めて出したルサッフル社は、水で戻す必要がなく、粉に加えたらそのままこね始められる、と説明しています。赤サフ、スーパーカメリヤなど、スーパーで見かける顆粒のものはほぼこれ。予備発酵は不要で、やるなら生存確認のためだけです
- 生イースト:乾燥していないので、目を覚ます工程がそもそも要りません。30〜35℃のぬるま湯か牛乳に砂糖少々を入れて崩し溶かすか、そのまま生地に混ぜる。溶かすのは均一に散らすためで、予備発酵とは目的が違います。ドライの2.5〜3倍の量を使い、冷蔵で日持ちは短い
インスタントが予備発酵を嫌う、という話も聞きますが、水に触れさせてはいけないわけではありません。ぬるま湯に溶けば普通に目を覚まします。ただし必要のない工程なので、仕込み水の一部を使い、量を仕込み水から差し引く手間だけが増えます。

ぬるま湯の温度:35〜40℃、上限は人の肌より少し温かいまで
予備発酵でいちばん間違えやすいのが水温です。熱すぎれば死に、冷たければ動かない。
日本のパン教室やレシピは35〜40℃を勧めます。風呂より少しぬるいくらいの温度です。米国のレッドスター社は、粒の粗いアクティブドライについて43〜46℃(110〜115°F)と、少し高めの数字を出しています。粒が粗いぶん、戻すのに熱が要るという考え方です。どちらでも共通しているのは上と下の線で、30℃を下回ると動きが鈍くなって泡が立たず、約49℃から酵母が傷み始め、60℃で完全に死にます。
家庭では、40℃前後を上限と覚えておけば間違いがありません。温度計があれば一度測ってみてください。手で「ぬるい」と感じる湯は、思ったより熱いことが多い。給湯器の40℃設定の湯を、冬なら少し置いてから使うくらいでちょうどです。
- 湯の量は、イーストの重さの5〜10倍。小さじ1(約3g)なら大さじ2〜3の湯で十分
- 砂糖はひとつまみ(1〜2g)。酵母の最初の餌になる。多すぎると浸透圧で動きが鈍る
- イーストを振り入れ、1分ほど置いてから軽く混ぜる。最初からかき混ぜると粒がだまになる
- 使った湯の量は、レシピの仕込み水から差し引く。忘れると生地がゆるくなる
小さじの重さに幅があることはドライイースト小さじ1は何グラムかで書いたとおりです。予備発酵の湯に入れるイーストも、できればスケールで量ってください。
待つ時間と、泡の見方
元気なイーストなら、3〜4分で表面に細かい泡が出始め、5〜10分で泡が盛り上がってきます。カプチーノの泡のようにふくらみ、パンの匂いがしてくれば合格。そのまま仕込み水と一緒に粉へ入れます。
泡が立たないときの判断は、こうです。
- 10分で表面に細かい泡が少しだけ:まだ動いている。湯が冷たかった可能性があるので、暖かい場所で5分待つ
- 15分たっても静かなまま:イーストが死んでいるか、湯が熱すぎた。新しいイーストでやり直す。生地に入れても、ふくらみません
- 泡は立ったが弱い:弱っている。使えるが、発酵時間を長めに見る。次の袋を用意する
予備発酵が終わったイーストは、すぐ使うこと。置いておくと餌を食べ尽くして弱ります。
「不要」のイーストでも予備発酵をする日
インスタントドライイーストを使っていても、次のような日は予備発酵をしておくと、こねてからの後悔が減ります。
- 開封から1か月以上たった袋を使うとき。開封後のイーストは冷蔵で約1か月が目安で、それを過ぎると活性が落ちていることがあります(夏の小麦粉・イーストの保存)
- 戸棚の奥から出てきた、いつ開けたかわからない袋。生地にしてから気づくと、粉もバターも無駄になります。10分の確認で済む
- 冬の台所で、発酵の出だしを早めたいとき。目覚めを先に済ませておくと、生地に入れてからの立ち上がりが揃います
- 前日に仕込む冷蔵発酵で、少量のイーストを使うとき。0.5gや1gの世界では、イーストが弱っているかどうかが翌朝の差になります
逆に、開けたての袋を標準的な量で使う日は、やらなくて構いません。工程がひとつ減るだけです。
| 種類 | 予備発酵 | ぬるま湯の温度 | 待つ時間と見方 |
|---|---|---|---|
| ドライイースト(粒が粗いアクティブドライ) | 必要 | 35〜40℃(米国メーカーは43〜46℃) | 5〜10分で泡が盛り上がる。10分で動かなければ捨てる |
| インスタントドライイースト | 不要。粉に直接混ぜる | (確認したいときだけ35〜40℃) | 5〜10分。確認のあとはすぐ使う |
| 生イースト | 不要。溶かすのは均一にするため | 30〜35℃の湯か牛乳 | 溶けたらすぐ使う。泡を待つ必要はない |
| 共通の上限 | − | 約49℃から傷み、60℃で死ぬ | 30℃未満は動きが鈍く、泡が立たない |
よくある失敗と直し方
- 給湯器の湯で予備発酵したら泡が立たなかった:湯が熱かった可能性が高い。温度計で40℃を確かめてから。手で熱いと感じたら、もう高すぎる
- 砂糖を入れ忘れた:気づいた時点でひとつまみ足せばよい。砂糖なしでも時間をかければ泡は立つ
- 予備発酵したら生地がべたついた:湯の量を仕込み水から引いていない。使った湯は水の一部と数える
- インスタントなのに毎回予備発酵していて、イースト臭が気になる:予備発酵のせいではなく量が多い。粉の1〜1.5%に戻す(イーストの量と発酵時間)
- 泡は立ったのに生地がふくらまない:イーストは生きている。疑うのは塩との直接接触、生地の温度、砂糖や油脂の多さ。予備発酵は無実
予備発酵は、工程ではなく確認
インスタントドライイーストが主流になったいま、予備発酵は「必ずやる工程」から「必要なときにやる確認」に変わりました。粒の粗いドライイーストと、古くなった袋と、冬の朝。この3つのどれかに当てはまる日だけ、35〜40℃の湯と砂糖ひとつまみで10分。泡が盛り上がったら、そのイーストは今日のパンを間違いなくふくらませます。
参考情報源
- Active Dry Yeast(Red Star Yeast):110〜115°Fの湯1/2カップに砂糖小さじ1を溶かしてイーストを入れ、3〜4分で泡立ち、10分で1カップの目盛りまでふくらまなければ捨てる、使った湯は仕込み水から引く、アクティブドライはインスタントより動きが遅い
- What Temperature Kills Yeast(Bob’s Red Mill):アクティブドライの予備発酵は105〜115°F、インスタントは粉に混ぜて使い予備発酵は任意、120°Fから酵母が死に始め140°Fで完全に死ぬ
- Saf-instant, the first instant dry yeast turns 50(Lesaffre):1973年に生まれたインスタントドライイーストは水で戻す必要がなく、粉に直接加えてそのままこね始められる
- ドライイースト予備発酵の正しいやり方(melkpan):水温35〜40℃、湯はイーストの5〜10倍、砂糖1〜2g、5〜10分で泡が盛り上がる、15分で変化がなければ失敗、60℃で死滅、30℃以下では遅い、湯は仕込み水から差し引く
- 生イーストの使い方(kino-sute-pan):30〜35℃の湯か牛乳に砂糖少々で溶かす、予備発酵は必須でなくそのまま混ぜてもよい、ドライイーストの2.5〜3倍を使う、60℃以上は避ける、冷蔵で日持ちは短い
