フランスパン用に買ったリスドォルが、袋の半分残っている。今夜焼きたいのは食パンのレシピで、強力粉は切れている。そのまま置き換えて焼いていいのか。結論から言えば、焼けます。ただし同じパンにはならず、変わる場所は決まっています。
この記事では、強力粉と準強力粉のたんぱく質の差が、吸水・こね・発酵・焼き上がりのどこに出るかを順に見て、置き換えるときの3つの直し方と、逆に準強力粉のレシピを強力粉で焼くときの考え方までを紹介します。

たんぱく質1〜2%の差は、網の太さの差
強力粉のたんぱく質はおよそ11.5〜13%、準強力粉は10.5〜12%。日清製粉のリスドォルは10.7%、灰分0.45%です。差は1〜2%、粉200gなら2〜4g。たったそれだけで、水を吸ってつながるグルテンの網の太さが変わります。網が太ければガスを逃がさず高く伸び、細ければほどほどで止まる。食パンが高くふくらみ、フランスパンが歯切れよく割れるのは、この差が設計どおりに働いた結果です。仕組みは強力粉・薄力粉・中力粉の違いに書きました。
もうひとつ、見落とされがちなのが灰分です。準強力粉は小麦の外側に近い部分を多めに含むため、灰分が高く、香りが強く、酵素も多い。酵素が多い生地はでんぷんの分解が進みやすく、だれやすくなります。なお「準強力粉」という区分は国の規格ではなく製粉会社ごとの目安なので、銘柄によってたんぱく質は10%から12%まで幅があります。袋の裏の数字を見てから始めてください。

置き換えると、生地の4か所が変わる
最初に出るのは吸水です。グルテンが水を抱えるので、たんぱく質が少ない粉ほど吸える水も減ります。強力粉のレシピの水をそのまま入れると、準強力粉の生地はいつもよりゆるく、手にまとわりつく。「加水率が同じ」でも、粉が変われば生地の硬さは変わる、という話です(加水率の科学)。
次にこねです。網が細いぶん、薄い膜が張るまでの時間は短くなります。強力粉の感覚で同じ時間たたきつけると、できた網を自分で切ることになり、生地はつやを失ってだれます。こね上がりの判断を時間でしている人ほど、ここでつまずきます。
発酵では、ガスを抱える力が弱いので、ふくらんだ生地が自分の重さに負けて横に広がりやすい。灰分が高い粉ほどこの傾向は強く、一次発酵を長く引っぱると、成形のときに張りが戻りません。
そして焼き上がり。背は低く、気泡は不揃いで、噛むと歯切れがよい。もちもちは控えめで、さっくり切れる。灰分が高いぶん焼き色は濃く出て、香りは小麦の皮に近い、少し野性味のあるものになります。食パン型で焼けば、山は低めで、トーストにすると耳が軽く割れる「ハードトースト」の顔になる。これは失敗ではなく、準強力粉のパンの姿です。

直し方1:水の5%を残して、後から足す
加水の調整は、減らす量を決め打ちしないのがこつです。レシピの水のうち5%を別にしておき、粉気が消えたところで生地の硬さを見る。強力粉のときと同じくらいの手触りなら、残した水は入れずに終わり。まだ硬ければ少しずつ足す。減らす幅は銘柄と季節で変わるので、最初の1袋は「5%を保留」から始めると外しません。国産の準強力粉は吸水が外国産より低めに出ることが多いので、初回はもう少し控えても構いません。
直し方2:こねは短く、膜が張ったら止める
こねの終点は、時間ではなく膜で見ます。生地を少しちぎって指で薄く広げ、指紋が透けるくらいの膜が破れずに張ったら、そこで止める。強力粉のレシピの「15分こねる」を準強力粉でなぞると、たいてい行きすぎます。たたきつける回数を減らし、台の上で押し伸ばす動きを主にすると、網を切らずに仕上がります。グルテンができていく過程はグルテンの科学のとおりで、準強力粉はその工程を少し手前で降りる、と覚えてください。
直し方3:発酵は1.5〜1.8倍で切り上げ、形で支える
一次発酵は、強力粉のレシピが「2倍」と書いていても、1.5〜1.8倍で次へ進みます。ガスを抱える力が弱いので、2倍まで待つと成形で張りが戻らず、最終発酵でだれ、窯で伸びません。最終発酵も同じで、ひと回り大きくなり、押した跡が少し残る程度で止める。
形で支えるのも有効です。型に入れる、発酵かごを使う、小さく分割する。横に広がりたがる生地を、器や大きさで受け止めてやる。食パンなら蓋をする角食より、低めの山でも構わない山食のほうが、準強力粉の性格と相性がいい。ハード系に寄せるなら、クープを1本入れて窯の中の逃げ道を決めておくと、低い生地でもきれいに割れます。
| 工程 | 強力粉の生地 | 準強力粉に替えると | 直し方 |
|---|---|---|---|
| 仕込み水 | レシピどおりでまとまる | 同じ水量だとゆるく、べたつく | 水の5%を保留し、硬さを見て足す |
| こね | 時間をかけて強い膜 | 膜は早く張り、こねすぎると切れる | 指紋が透けたら止める。たたきつけを減らす |
| 一次発酵 | 2倍まで待てる | 長く置くとだれて張りが戻らない | 1.5〜1.8倍で切り上げる |
| 成形・最終発酵 | 高く張った形を保つ | 横に広がりやすい | 型・かご・小分割で支える。押した跡が少し残る程度で焼く |
| 焼き上がり | 背が高く、もちもち | 背は低め、歯切れよく、焼き色が濃い | 温度は同じで、色を見て2〜3分早く出す |
向くレシピと、向かないレシピ
置き換えて歓迎されるのは、歯切れが長所になるパンです。ハードトースト、プチパン、ピザ、カンパーニュ風、フォカッチャ。クロワッサンやデニッシュのように伸ばして折る生地も、準強力粉のほうが扱いやすいくらいです。逆に、高く伸ばした山型食パンのふわふわや、ベーグルやもちもち系の弾力を狙うレシピは、準強力粉では別物になります。やわらかさが欲しいソフト系で置き換えるなら、水の一部を牛乳にし、卵を少し加えると口当たりが補えます。
逆の置き換え:準強力粉のレシピを強力粉で焼くとき
フランスパンのレシピに強力粉しかないときは、話が逆になります。吸水が増えるので水を少し足し、こねは控えめにしても網が強いので、皮は厚く、中はもちっと寄る。歯切れを近づけたいなら、強力粉8に薄力粉2を混ぜると、たんぱく質はおおむね準強力粉の帯に入ります。ただし灰分と酵素は混ぜても補えないので、香りまでは同じになりません。粉を切らした夜の考え方は強力粉がないときのパン作りにもまとめてあります。
よくある失敗と直し方
- レシピどおりの水で、生地が手から離れない:吸水の差。次回は水の5%を保留。今回はこねを短く切り上げ、打ち粉を多めにして型で焼く
- こねているうちに、つやが消えてだれた:こねすぎ。もう戻らないので、小さく分割して型に入れ、発酵は短めに
- 一次発酵を2倍まで取ったら、成形でへたった:発酵の取りすぎ。1.5〜1.8倍で止める。だれた生地はフォカッチャに逃がす
- 食パンの山が低い:粉の性格。失敗ではない。高さが欲しいなら強力粉を半分混ぜる
- 焼き色がいつもより濃い:灰分の高さ。温度は変えず、レシピより2〜3分早く様子を見る
- 袋を替えたら同じ準強力粉なのに手触りが違う:銘柄でたんぱく質が10〜12%と幅がある。袋の数字を見て、水の保留を増減する
粉を替える日は、レシピを疑う日
粉を置き換えると、レシピの数字のどれが「その粉の都合」だったかが見えてきます。水の量、こねの時間、発酵の倍率。どれも強力粉の網を前提に書かれていたのだと、準強力粉の生地が教えてくれます。保留した5%の水を足すか足さないか、膜が張った瞬間に手を止められるか、1.5倍で次へ進む勇気があるか。この3つが身につくと、袋の裏の数字を見ただけで、その粉でどんなパンが焼けるかが読めるようになります。リスドォルの残り半分は、そのための練習にちょうどいい量です。
参考情報源
- 準強力粉おすすめ商品徹底比較(cotta):リスドォルはたんぱく質10.7%・灰分0.45%、準強力粉は硬質小麦が原料でフランスパンなどハード系に選ばれる
- 準強力粉とは?種類別に徹底比較(プロフーズ):準強力粉はたんぱく質約10.5〜11.5%、グルテンの形成をほどよく抑え歯切れのよいパンに向く、灰分が多い粉は酵素も多く生地がだれやすい
- Bread flour vs. all-purpose flour(King Arthur Baking):たんぱく質の少ない粉を同じ水量で使うとゆるくべたつく、網が弱く気泡が小さく目が詰まる、置き換えるなら水を減らし短くやさしく混ぜる
- 準強力粉の作り方と選び方(kino-sute-pan):準強力粉の区分は製粉会社の目安で銘柄に幅がある、強力粉8:薄力粉2や7:3のブレンド計算、国産粉は加水を約5%控えめに、灰分と酵素はブレンドで補えない
- 準強力粉と強力粉の違いと代用(macaroni):準強力粉は同量で代用でき、弾力はやや弱く伸びのある生地になる、灰分が多く焼き色がつきやすい、ソフト系では牛乳や卵で口当たりを補う
