いつもの食パンに全粒粉を混ぜてみたい。でも、袋の裏には「お好みで」としか書いていない。10%なのか、30%なのか、半分でもいけるのか。最初の1回で迷うのは、たいていここです。
全粒粉の割合は好みで決めていい、というのは半分だけ本当です。残りの半分は、割合を決めた瞬間に、水の量と発酵の見方とふくらみの期待値が一緒に決まる、ということ。この記事では、全粒粉が生地に持ち込む2つの性質を先に押さえてから、10%・30%・50%それぞれで何をどれだけ変えるかを整理します。100%で焼く話は全粒粉100%でもふわふわに焼くに譲り、ここではその手前、白い粉と混ぜる範囲だけを扱います。

全粒粉が生地に持ち込む2つの性質
全粒粉は、小麦の粒を外皮(ふすま)も胚芽も丸ごと挽いた粉です。白い強力粉との違いは、ざっくり言えばふすまが入っているかどうか。このふすまが、生地に2つの変化を持ち込みます。
ひとつは、グルテンの網を切ること。製粉会社の試験では、全粒粉パンがふくらまない原因はガスの不足でもグルテンの量の不足でもなく、ふすまの破片がグルテンの立体的な網目に入り込んで強度を落とすことだと結論づけられています。ふすまは粒が粗く、強く挽いても細かくなりにくい。その粒のまわりでガスの膜が破れ、ふくらみが落ちます。割合を増やすほど切れ目が増えるので、ふくらみは割合にほぼ比例して落ちていくと考えて構いません。
もうひとつは、水をよく吸うこと。米国の料理研究機関の計測では、全粒粉は白い粉より重さにして約13%多く水を抱えます。繊維が多いからです。だから白い粉のレシピの水のまま全粒粉を混ぜると、生地は硬く、乾いて、ますますふくらまなくなる。ふくらみの低下の一部は、ふすまのせいではなく、単に水が足りないせいです。加水の考え方そのものは加水率の科学にまとめてあります。

加水:置き換えた全粒粉の重さの1割を、水に足す
調整の中心は水です。目安はシンプルで、全粒粉に置き換えた粉の重さの約1割を、水に足す。粉300gのレシピで30%(90g)を全粒粉にしたら、水を9g前後増やす。粉全体に対する加水率で言えば、全粒粉10%ごとに約1ポイント上がる計算です。
この数字は、複数の情報源で裏が取れます。米国の製粉会社は、置き換えた全粒粉1カップ(約113g)につき小さじ2(約10g)の水を足すよう勧めていて、重さにすると約9%。日本のパン教室の記録では、20%前後なら加水を1〜2%足す程度、50%の生地で約5%、100%の微粉砕全粒粉で約10%増やして白い粉と同じ硬さに着地した、とあります。
- 10%:水は足さなくてもよい。足すなら全体の1%。粉250gなら2〜3g
- 30%:全体の3%ほど。粉250gなら7〜8g
- 50%:全体の5%ほど。粉250gなら12〜13g。ここからはべたつきやすいので、最初は半分だけ足し、こねながら残りを入れる
足した水をふすまに吸わせる時間も要ります。粉と水だけを合わせて30分休ませてからこねる(オートリーズ)と、ふすまがふやけて生地がしなやかになり、ふくらみも戻ります。30%までは任意、50%からは入れたほうが確実です。

発酵:進みは速めになりやすい。時間ではなく大きさで止める
全粒粉を混ぜると発酵が遅くなる、と書かれた記事を見かけますが、話は逆のことが多い。ふすまと胚芽には酵素やミネラルが多く、酵母の餌になる糖が生地の中で増えやすいため、同じ温度なら発酵は活発になります。サンフランシスコのタルティーン・ベーカリーの全粒粉パンの作り方でも、全粒粉は白い粉より発酵が活発なので、仕込み水を少し低めの約24℃にして速度を抑える、と説明されています。
ただし、水が足りない硬い生地は逆に動きが鈍い。「全粒粉は発酵が遅い」という印象は、加水を足さずに焼いた経験から来ている可能性があります。水を正しく足した生地なら、速めに進むほうを想定してください。
- 10%:いつもの時間でほぼ変わらない
- 30%:レシピの時間の少し手前で一度見に行く。2倍になっていたら、時間が残っていても次へ進む
- 50%:こね上げ温度を1〜2℃低めに取るか、イーストをわずかに減らす。見極めは大きさで。指で押して跡がゆっくり戻れば終わり
どの割合でも、時計ではなく生地の大きさで止めるのが基本です。全粒粉の生地はガスを抱える力が弱いぶん、過発酵の崩れ方が早い。こね上げ温度で速度を整える方法はこね上げ温度の管理に書いています。
ふくらみと食感:どこまで「白いパン」のつもりで焼けるか
割合を決める前に、どんなパンにしたいかを決めると迷いません。香りだけ欲しいのか、全粒粉のパンとして食べたいのか。
- 10%:見た目はほぼ白パン。香ばしさとわずかな色がつき、ふくらみの差は気にならない。食パンでもロールでも、レシピを変えずに入れられる範囲
- 20〜30%:ふすまのザラつきが舌に出始め、ふくらみも目に見えて少し落ちる。パン教室の記録では、食パンに15%でザラつきが出て、20%でかなりふくらみが悪くなったとある。家庭向けの解説が10〜30%を勧めるのは、この辺りまでなら白いパンの感覚で焼けるからです
- 50%:もう「全粒粉のパン」。クラムは詰まり気味で、噛みごたえと香りが主役になる。山型食パンの窯伸びは期待しないほうがよく、型は小さめか、ロールやカンパーニュ形が向く。加水とオートリーズに加えて、バターや砂糖を少し足すと重さがやわらぐ
粉の選び方でも結果は動きます。微粉砕の全粒粉はふすまが細かく、同じ割合でもふくらみの落ち方が穏やか。粗挽きは香りが立つかわりにグルテンをよく切ります。初めてなら微粉砕を選んでください。
| 全粒粉の割合 | 水の足し方(粉全体に対して) | 発酵の見方 | ふくらみと食感 |
|---|---|---|---|
| 10% | 足さなくてよい。足すなら約1% | いつもどおり | ほぼ白パン。香りと色が少しつく |
| 20〜30% | 約2〜3%。オートリーズ30分は任意 | レシピの時間の手前で一度見る。大きさで止める | ザラつきが出始め、ふくらみが少し落ちる |
| 50% | 約5%。半分ずつ足す。オートリーズ30分 | こね上げ温度を1〜2℃下げるかイーストを少し減らす | 詰まったクラム。香りと噛みごたえが主役 |
| 100% | 約10%。湯種やソーカーを併用 | 別記事(全粒粉100%)のとおり | 重くなりやすい。微粉砕と技法の併用が前提 |
初めての日は、30%から
最初の1回に勧めるのは30%です。10%では変化が小さくて学べることが少なく、50%ではいきなり別のパンになる。30%なら、加水を3%足し、発酵を早めに見に行くという2つの操作を体で覚えられて、焼き上がりに全粒粉の顔がちゃんと出ます。
- いつものレシピの粉のうち30%を、微粉砕の全粒粉に置き換える
- 水を粉全体の3%増やす。粉250gなら7〜8g。仕込み水はいつもより1〜2℃低めに
- 粉と水だけを混ぜて30分置き、それからイースト・塩・油脂を入れてこねる
- 一次発酵は、レシピの時間の少し手前で見に行く。2倍で止める
- 焼成はいつもの温度で。色づきが早いぶん、残り5分で様子を見る
- 気に入ったら、次は40%、50%と1割ずつ上げ、水も1%ずつ足す
よくある失敗と直し方
- 30%にしたらレンガになった:水を足していない。全粒粉の重さの1割を水に足し、30分休ませてからこねる
- 水を足したらべたべたで扱えない:一度に全部入れた。半分を先に、残りはこねながら。粗挽きの全粒粉は吸うのに時間がかかるので、オートリーズを長めに
- いつもの時間で見に行ったら、もう過発酵だった:全粒粉は進みが速い。次回は時間の手前で見るか、仕込み水を下げる
- ザラつきが気になる:粉を微粉砕に替えるか、割合を15〜20%まで落とす。ザラつきはふすまの粗さで、割合だけの問題ではない
割合は、水と時間とセットで決める
全粒粉を何%にするかは、好みの問題であると同時に、水を何g足し、発酵をいつ見に行くかを決めることでもあります。10%ごとに水を1%、という目安をひとつ持っておけば、袋の裏の「お好みで」は、もう怖くありません。次に焼いたら、割合と足した水の量を袋に書いておいてください。3回目には、自分の家の全粒粉の数字ができています。
参考情報源
- How to substitute whole wheat for white flour in baking(King Arthur Baking):まず25%から置き換えて満足なら増やす、置き換えた全粒粉1カップにつき小さじ2の水を足す、こねる前に30分休ませる、100%置き換えはふくらみを大きく下げる
- Whole-Wheat Flour Swap(America’s Test Kitchen):全粒粉は白い粉より重さにして約13%多く水を抱える、水を足さないと乾いたパンになる、足した水は食感を損なわない
- 小麦粉を全粒粉に変えたい 水分値と変える量(アルーチパン教室):食パンで15%でザラつき、20%でかなりふくらみが落ちる、20%前後なら加水1〜2%、50%のロールで約5%、微粉砕100%で約10%増やした記録
- 全粒粉100%が膨らまない理由(木下製粉):ふくらまない原因はガスやグルテン量の不足ではなく、ふすま片がグルテンの立体網目に入り込んで強度を落とすこと
- Whole Wheat Bread(The Splendid Table/Tartine Bread):全粒粉は白い粉より発酵が活発なので、仕込み水を約24℃と低めにして速度を抑える
