世界のパンニュース

ブータンのカプゼ(Khabzey)— ねじり・花・編みの形に揚げて祭壇に供え、バター茶に浸す新年の揚げ菓子

2026年11月04日 読了時間 約11分
ブータンのカプゼ(Khabzey)— ねじり・花・編みの形に揚げて祭壇に供え、バター茶に浸す新年の揚げ菓子

ブータンの家を訪ねると、まず茶が出て、その横に揚げ菓子の皿が置かれます。ねじったもの、花びらのように広げたもの、縄のように編んだもの。粉と砂糖水と油脂だけでこねた生地を、形に切って油で揚げた、カプゼ(khabzey。綴りは khabzay、khapse などいくつもあります)です。甘いものと塩味のものがあり、祭壇に供え、客に出し、新年ロサルには家族総出で山ほど揚げます。この記事では、カプゼが置かれる場面、形の種類とその作り方、家庭の配合、日本の台所での再現と、つまずきやすい点までを紹介します。

打ち粉をした木の板の上で、長方形の生地の中央に切れ目を入れて片端をくぐらせたねじりの形と、編みの形、花の形に切り分けた揚げる前のカプゼの生地
写真はイメージです(嬉兆制作)

カプゼとは(供えものであり、お茶請けでもある)

カプゼは、ブータンの家庭で作られる揚げ菓子です。基本は小麦粉と砂糖水と油脂。卵もイーストも使わず、かための生地をこねて薄くのばし、形に切って揚げます。チベットの「カプセ」と同じ家族で、ヒマラヤの南北に広がる菓子ですが、ブータンではカプゼと呼び、材料の油脂にバターを使う家も、ひまわり油を使う家もあります。甘いか塩味かも家庭しだい。ブータンの高級ホテルの副料理長が公開している配合は、粉1kgに砂糖350g・バター200g・水300mlと甘めで、湯にバターと砂糖を溶かしてから粉に合わせます。一方で、油と牛乳で作る家庭の配合も広く知られています。

食べる場面は2つあります。ひとつは祭壇。寺院や家の仏壇に、カプゼを積んで供えます。ブータンの地元企業の紹介文には、宗教施設への供えものとして広く使われ、家庭でも日常的に食べられる、とあります。もうひとつはお茶の時間。ブータン中部ブムタンに住んだオーストラリア人のブログによれば、家の訪問も、集まりも、村の行事も、必ず茶と菓子から始まり、カプゼは甘いミルクティー「ナジャ」か、塩とバターの茶「スージャ」に浸して食べるそうです。バター茶のことはチベットのバレップ・コルクンの記事でも触れました。黒茶を濃く煮出し、バターと塩を加えて筒型の攪拌器で混ぜる、ブータンの日常の飲みものです。

鍋の熱い油の中で、ねじり形のカプゼの生地が泡に包まれてきつね色に色づいていくところ
写真はイメージです(嬉兆制作)

ロサル(新年)と、供えものの日

カプゼがいちばん多く揚げられるのは、新年ロサルの前です。ブータンの暦は太陰太陽暦なので日付は毎年変わり、2026年のロサルは2月18日でした。ブータンには新年がいくつもあり、東部を中心に祝われる「チュニパ・ロサル」(供えものの日、Traditional Day of Offering)は、ブータン暦12月1日。1月か2月に当たり、国の休日です。

この日の由来は17世紀にさかのぼります。ブータンを統一した高僧シャブドゥン・ンガワン・ナムゲルのもとへ、各地の代表が感謝の品「ブルワ」を携えてプナカの城に集まった日、とされています。いまも家族は朝早く起きてバターの灯明をともし、カプゼと、「クレー」という薄焼きを用意して、神々と先祖、そしてシャブドゥンに供えます。朝食は米の粥から始まり、スージャとミルクティーにお茶請けが並び、昼と夜は赤米と肉料理。男たちは国技の弓を競い、かつては祝いが15日続いたといいます。

ブムタンのブログには、村の出産祝いのために粉8kgぶんのカプゼを一日がかりで揚げた話が出てきます。時間と手間がかかるからこそ、寺に納めるカプゼは「時間と労力の供えもの」なのだ、と筆者は書いています。

バターの灯明がともる木の祭壇の真鍮の皿に、ねじり・編み・花の形に揚げたカプゼを積んで供えたところ
写真はイメージです(嬉兆制作)

形の種類(ねじり・花・編み・太陽・ロバの耳)

カプゼの楽しさは形にあります。基本は「ねじり」。長方形の真ん中に切れ目を入れ、片端を切れ目にくぐらせます。モンゴルのボールツォグと同じ結び方です。ここから先は手仕事の見せどころで、ブムタンのブログは4つの伝統的な形を紹介しています。

形 作り方 置かれる場面
ねじり 長方形の中央に切れ目を入れ、片端をくぐらせる(2回くぐらせる家も) 日常のお茶請け・いちばん多い形
花 15本の切り込みを5本ずつ束ねて花びらにする 祝いの席・祭壇
編み 切り込みの1本おきを折り返し、二重の三つ編みにする 祝いの席・祭壇
太陽 円にして、切り込みの1本おきを周囲に編み込む 祝いの席・祭壇
ロバの耳 大きく細長い筒状に揚げる ロサルの祭壇に積み上げる(チベットと共通)

「ロバの耳」は、チベットのロサルで祭壇に積み上げる大型のカプセの名で、ブータンのホテルの料理長もねじりと並べて挙げています。チベットでは最初にサソリの形をひとつ作って台所の精霊に供える、とされますが、これはチベット側の資料にある習わしで、ブータンでも同じかは確かめられませんでした。

ブムタンの筆者は、現地の作り手は分量を量らず、手の感覚と記憶で作ると書いています。生地はかたく、こねるのは重労働なので「男の仕事」と言われるそうです。

家庭の配合と、揚げ方

家庭でよく使われるのは油の配合です。粉4カップに対して、ひまわり油2分の1カップ、砂糖3分の1カップをぬるま湯1カップに溶かしたもの、牛乳1カップ。砂糖は増やしても、抜いて塩味にしてもよい。こねて滑らかになったら、厚さ6mmほど(4分の1インチ)にのばします。打ち粉は少なめに。粉が多いと揚げ油を吸ってしまうからです。幅2.5cmほどの帯に切り、さらに斜めに切って同じ大きさにそろえ、切れ目を入れてねじります。

油は、うっすら煙が立つ手前まで熱します。生地の切れ端を落として、すぐ浮いてくれば頃合い。少量ずつ、長い箸や網じゃくしでやさしく返しながら、きつね色になるまで数分。紙の上で油を切ります。道具はすべて乾いたものを。水気があると油がはねます。揚げたカプゼは密閉容器に入れれば長く持ちますが、だんだんかたくなります。

バターを使う配合(粉1kg・砂糖350g・バター200g・水300ml)は、湯にバターと砂糖を溶かしてから粉に合わせ、滑らかになるまでこねて30分休ませ、のばして切って揚げます。バターのぶん香りがよく、ほろりと崩れる食感になります。

日本の家庭での活かし方

日本の台所なら、粉300gに対して、砂糖30gをぬるま湯80mlに溶かし、牛乳70ml、サラダ油40gを合わせてこねる量が扱いやすい。中力粉がなければ強力粉と薄力粉を半々に。生地はうどんよりかたく、耳たぶよりずっとかたい、と覚えてください。最初はぼそぼそでまとまりませんが、水を足さずに10〜15分こね続けると、しっとりまとまります。ブムタンの筆者も「乾いているが、辛抱」と書いています。

厚さは6mm。これより厚いと中まで火が通る前に外が焦げ、薄すぎるとせんべいになります。揚げ油は170℃前後。家庭のコンロなら、菜箸の先から細かい泡が勢いよく出るくらいです。形は、まずねじりだけ作ってください。慣れたら、幅3cm・長さ8cmの帯に、両端を残して縦に5本の切り込みを入れ、1本おきに折り返すと「編み」になります。

合わせる茶は、ほうじ茶に牛乳と塩ひとつまみ、バターを小さじ1落とせばスージャの気分です。甘いカプゼには、塩気のある茶がよく合います。塩味のカプゼにするなら、砂糖を抜いて塩小さじ2分の1を入れ、揚げたてに粗塩を少しふってください。似た揚げ菓子は、祭りの揚げ米パンネパールのセルロティや、祝いの席のカザフスタンのバウルサクでも紹介しました。読み比べると、ヒマラヤと中央アジアの「揚げる祝い菓子」の広がりが見えてきます。

よくある失敗と、その直し方

中が生でねっとりする。油が熱すぎるか、生地が厚すぎます。温度を少し下げ、6mmを守ってください。最初の1個を割って確かめると安心です。

油っぽくてべたつく。油の温度が低いか、打ち粉が多すぎます。打ち粉は最小限に、鍋の表面が埋まらない量ずつ揚げます。

形がほどける。生地がやわらかすぎるか、休ませすぎです。かためにこね、切ったらすぐ揚げるのが基本。切った生地を長く置くと乾いて割れます。

かたすぎて歯が立たない。これは、ある程度は仕様です。カプゼは茶に浸す前提の菓子。やわらかくしたいなら油を1〜2割増やすか、ベーキングパウダーをひとつまみ入れてください。ブムタンの筆者は入れ忘れても差がなかったと書いていますが、日本の粉では軽さが少し出ます。

嬉兆からのひと工夫

カプゼは、揚げてから数日のほうが味が落ち着きます。密閉して2〜3日置き、茶に浸しながら食べる。ブータンの家の「まず茶と菓子から」という作法ごと真似してみると、客を迎える時間の流れが少しゆっくりになります。

参考にした情報源

  • Wikipedia「Traditional Day of Offering」: https://en.wikipedia.org/wiki/Traditional_Day_of_Offering
  • Unstumbled「Chef’s Corner: Crispy Festive Khabzey Recipe By Chef Choda Jamtsho」: https://theunstumbled.com/chefs-corner-crispy-festive-khabzey-recipe-by-chef-choda-jamtsho/
  • From Down Under to the Top of the World「Sweet bites: Kabzey」: http://downundertothetopoftheworld.blogspot.com/2013/12/sweet-bites-kabzey.html
  • Drukyul Tea and Snacks「Drukyul Khabzay」: https://stshomo123.blogspot.com/2020/08/drukyul-khabzay.html
  • Wikipedia「Khapse」: https://en.wikipedia.org/wiki/Khapse
カテゴリ 世界のパンニュース
国・地域 その他
テーマ 文化と伝統をたどる
タグ ブータン

国からさがす

ほかの国のパンも、地域ごとに並べています。

世界のパン図鑑で、地域ごとにすべて見る

世界のパンを新しい順に見る 焼き方は、工程からさがす

← 前の記事
イーストの予備発酵はいるのか|ドライ・インスタント・生の違いと、ぬるま湯の温度・待つ時間
次の記事 →
イーストを入れ忘れた・倍入れた|こねた後に気づいたときの直し方と、焼く判断

この記事を読んだ人は、次の1本へ

同じテーマ・同じ国の記事から、続けて楽しめる一本をお届けします。

korea salt bread sogeumppang(写真はイメージ)
▶ 続けて読む その他
韓国で行列の「塩パン(소금빵)」—バターがとろける空洞の正体と家庭での焼き方
6/17