切ってみたら、あちこちに大きな穴。味は悪くないのに、断面がどうにも野暮ったい。
食パンのきめ、いわゆるすだちの話です。粗いすだちは、粉が悪いわけでも配合が間違っているわけでもないことがほとんどでした。効いているのは、気泡をどれだけ細かく割り直したか。この記事では、すだちを決める5つの要因を、比較実験の結果とあわせて順に紹介します。
すだちが粗いのは、気泡を割り直せていないということ
発酵中の生地の中では、炭酸ガスが泡になってふくらんでいきます。放っておくと、大きい泡がさらに大きく育つ。となりの泡と壁を破ってくっつき、もっと大きくなる。焼くとそれがそのまま穴として残ります。
だからパン作りの工程には、泡を割って散らす作業が何度も出てきます。こね、ガス抜き、丸め、成形。どれも形を作るためだけの手順に見えて、じつは同じ仕事をしている。泡を小さく、数を多く、均一に。
逆に言えば、割り直す機会をどこかで飛ばすと、そのぶんが穴になって出てきます。粉を替えても、加水を変えても、この構造は変わりません。すだちは配合表の外側で決まっているのです。
この視点で見ると、きめを決める要因は5つに整理できます。
要因1:グルテン膜が薄くなるまでこねてあるか
いちばん土台になるのがこねです。こねた生地とこねが足りない生地を比べた実験では、断面の差がはっきり出ています。
しっかりこねた生地は、強く伸ばしても破れない薄いグルテン膜ができ、焼き上がりはきめが細かい。ふんわり軽くて口どけがよく、かたくなるのも遅い。こねが足りない生地は、少し持ち上げただけでブチブチ切れる。発酵も張りが弱く、焼き上がりは低めで、断面のきめは粗い。食感は詰まったように重く、口どけが悪く、老化も早くなります。
膜が弱いと、泡の壁が持ちません。壁が破れれば泡はつながって大きくなる。きめの粗さは、ここから始まっています。
要因2:ガス抜きで、大きな泡を小さな泡に分けているか
一次発酵のあとのガス抜きは、名前のせいで「ガスを捨てる作業」だと思われがちです。実際は違います。
ガス抜きの効果は三つあると説明されます。大きな気泡をつぶして小さな気泡に分散させ、きめを細かく整えること。生地に圧力を加えてグルテン組織を刺激し、膜の張力を強めること。古い炭酸ガスとアルコールを抜いて新しい酸素を入れ、イーストを活気づけること。
- 両手のひらで生地の中央から押さえ、順に外側へ抜く
- 基本のタイミングは一次発酵の終わりと、ベンチタイムのあと
- 発酵が1時間を超えるなら、途中で一度。目安は発酵時間の3分の2
- 3時間以上の長い発酵なら、1時間ごとに
途中で入れるガス抜きは、生地を折りたたむ手順とも重なります。そのあたりの手の動かし方はストレッチ&フォールドにまとめました。
要因3:成形でもう一度、めん棒で空気を抜いているか
三つめが成形です。ここでの差がいちばん見た目に出ます。
同じ生地を、めん棒で伸ばして三つ折りにしてから巻いた俵形と、手で軽く押さえて丸めただけの丸め成形で比べた実験があります。断面を見ると、俵形は気泡が細かく全体のきめが整っている。丸め成形は所々に大きめの気泡が残り、きめがそろっていません。
理由は単純で、めん棒をかけた生地は空気が均一に抜けているからです。手のひらだけでは、抜けるところと抜けないところができる。抜け残った泡が、そのまま穴になります。
ちなみに、同じ生地でも蓋をして焼くか、山型のまま焼くかでクラムの表情は変わります。そちらは山食と角食のちがいで扱いました。
要因4:こね上げ温度が26〜28℃に収まっているか
四つめは温度です。これは見落としやすい。
一般的なパン生地のこね上げ温度は26〜28℃が適正とされます。ここを34℃まで上げて比べた実験では、高い生地は一次発酵で約3倍まで膨らみ、生地は緩んで張りを失いました。焼いても窯伸びせず、断面はきめが粗い。食感は少しパサついて口に残り、イースト臭が強い。適正温度の生地は約2倍で止まり、張りがあって、きめが整っていました。
夏の台所は、常温といっても30℃近いことがあります。仕込み水を冷たくして、こね上がりを25〜28℃に着地させる。温度計を一本持つだけで、この要因は消せます。
要因5:発酵をどこで止めたか
五つめは、四つめと表裏です。生地温度が高いと何が起きるかというと、発酵が行きすぎる。
行きすぎた生地の中では、泡が育ちきって壁が薄くなり、となりの泡とつながっていきます。3倍まで膨らんだ生地のきめが粗いのは、そのせいです。しかも張りを失っているので、オーブンでもう一度伸びる力が残っていない。
だから見きわめは時計ではなく、かさで持ちます。2倍を目安に切り上げる。冬は時間がかかり、夏はレシピの半分で届くこともある。ここを毎回目で確かめるだけで、断面はずいぶん落ち着きます。
| 要因 | きめが粗くなるとき | 明日からの直し方 |
|---|---|---|
| こね | 膜がブチブチ切れる状態でやめている | 強く伸ばしても破れない膜になるまで |
| ガス抜き | 大きな気泡が残ったまま次へ進む | 手のひらで中央から外へ、順に抜く |
| 成形 | 手で軽く押さえて丸めただけ | めん棒で伸ばしてから三つ折りにして巻く |
| こね上げ温度 | 30℃前後まで上がっている | 仕込み水を調節して26〜28℃に |
| 発酵の見きわめ | 3倍まで膨らませてしまった | 2倍で切り上げる。時計ではなくかさで |
次の一斤で、どれから直すか
五つ全部を一度に変えると、何が効いたのかわからなくなります。おすすめの順番は、温度、成形、ガス抜きです。
温度計を用意して仕込み水を調節するのは、その日のうちにできて効果が大きい。次に成形でめん棒を一本足す。ここまでで、大きな穴はたいてい消えます。ガス抜きの回数やタイミングは、そのあとで詰めれば十分です。
こねは時間がかかるぶん、いちばん最後でかまいません。ただし膜のチェックだけは毎回してください。切れる膜のまま先へ進んだ日は、あとの四つを完璧にやっても断面は戻らないからです。
きめは、配合表には書いていないところで決まります。泡を何回割り直したか。次に焼いた一斤を切ったとき、穴のかわりに細かい目がそろっていたら、その日の手はちゃんと働いていました。
参考情報源
- cotta:こねた生地とこね不足の生地の比較。グルテン膜、断面のきめ、老化の速さ
- cotta:ガス抜きの三つの効果と、タイミング・やり方の目安
- cotta:俵形成形と丸め成形の比較。空気の抜け方と断面の気泡
- cotta:こね上げ温度26〜28℃と34℃の比較。発酵の速さときめの違い
- パン教室FUKURA:食パンに穴があく原因としての仕込み水の温度管理
