湯種を倍にすれば、もっともちもちになるはずだ。そう考えて粉の半分を湯種に回した食パンは、たいてい型の半分で止まります。
湯種はたしかにもちもちを生みますが、増やせば増やすほど効くたぐいの技ではありません。膨らみと引き換えなのです。この記事では、1斤型ぶんの配合をベーカーズパーセントで示し、こねから焼成までの工程表にまとめたうえで、湯種の割合と熱湯の温度という二つの勘どころを紹介します。
湯種は「入れるほどもちもち」ではない
湯種のもちもちは、熱湯で糊になったデンプンが水を抱え込むことから生まれます。ところが同じ熱湯が、グルテンのもとになるたんぱく質の力も奪ってしまう。湯種に回した粉のグルテンは、もう膨らむ仕事をしません。割合を増やすほど、生地は伸びにくく、焼き上がりは目が詰まって重くなります。
作り手たちが示す目安はおおむね一致しています。
- 標準は全粉の15〜20%。多くても30%まで
- 20〜30%の範囲で調整するとよい、という指南もある
- 40%を超えると、はっきり膨らまなくなる
- 逆に少なすぎると、ふつうのパンとほとんど変わらない
下は「意味がない」、上は「膨らまない」。挟まれた適正域の真ん中が、だいたい20%です。実際、市販の材料店が出している湯種食パンの配合を見ると、1斤でも1.5斤でも、湯種に回す粉はきっちり全粉の20%になっています。街に高級食パンの店が並んだころに広まったあの食感は、粉の半分を熱湯で潰して手に入れたものではありません。20%という、ずいぶん控えめな数字の上に乗っています。
熱湯を注ぐだけでは、温度が足りないことがある
もうひとつの勘どころが温度です。デンプンが糊になりはじめるのは65℃を超えたあたり。しっかり糊化させるには70℃前後が要る、という説明が一般的です。
ここで計算を一度してみてください。98℃の熱湯と、25℃の粉を同じ重さで混ぜたら、単純平均で61.5℃。65℃にすら届きません。「沸かしたてを注いだのに、なんだか粉っぽい」の正体はこれです。
だから対策は二つ。熱湯を粉より多めにして熱量を稼ぐか、器のほうを温めておくかです。
- 熱湯は湯種の粉の1.5〜2倍を目安に。粉50gなら熱湯75〜100g
- ボウルに熱湯をまわしかけて温め、湯を捨ててから粉を入れる
- ポットの保温湯ではなく、沸かしたてを一度に注いで手早く練る
- 粗熱が取れたらぴったり包み、冷蔵庫で12時間ほど休ませる
ひと晩おいた湯種は、白かった塊がうっすら半透明になり、引っぱるとみょーんと伸びます。この伸びが出ていれば、糊化は成功です。湯種そのもののしくみは湯種製法の基本にまとめてあります。
1斤型ぶんの配合
粉の総量250g、そのうち50g(20%)を湯種に回します。パーセントはすべて総粉量250gに対する数字です。
- 湯種:強力粉50g(20%)、熱湯75g(30%)
- 本ごね:強力粉200g(80%)、水125g(50%)
- 砂糖18g(7.2%)、スキムミルク8g(3.2%)、塩4.5g(1.8%)
- インスタントドライイースト3g(1.2%)、無塩バター20g(8%)
総加水は熱湯と水を合わせて200g、80%になります。ふつうの食パンなら手に負えない数字ですが、その3割は湯種が抱え込んでいるので、こねているあいだの生地はしっとり重い程度でおさまります。バターは生地がつながってから入れる、いつもの順番で構いません。
こねから焼成までの工程表
こね上げ温度は28〜30℃をねらいます。一次発酵は35℃で40〜45分、生地が2倍になるまで。ベンチタイムは15分。型に入れたあとの二次発酵は35℃で90分ほど、焼成はフタをして200℃に予熱したオーブンを190℃に下げ、30分です。
| 工程 | 温度 | 時間 | 見きわめ |
|---|---|---|---|
| 湯種を仕込む | 沸かしたての熱湯 | 練り5分+冷蔵12時間 | 半透明になり、みょーんと伸びる |
| 本ごね | こね上げ28〜30℃ | 15〜20分 | 薄い膜が張る |
| 一次発酵 | 35℃ | 40〜45分 | 2倍にふくらむ |
| ベンチタイム | 室温 | 15分 | 丸めた生地がゆるむ |
| 成形・型入れ | 室温 | 10分ほど | 1斤型(フタつき)に収める |
| 二次発酵 | 35℃ | 90分 | 型のふちの3cm下まで |
| 焼成 | 200℃予熱から190℃へ | 30分 | フタをしたまま焼く |
二次発酵だけは、時計より高さで見る
この工程表でいちばん長いのが二次発酵の90分です。長すぎると感じるかもしれませんが、湯種入りの生地は伸びが鈍いぶん、ここで待たないと角が立ちません。目安は型のふちの3cm下。フタなしの型なら9分目まで、と言われます。
時間はあくまで目安で、正解は高さのほうにあります。室温が低い冬は90分でも届かないことがあるので、届くまで待つ。この一手間を惜しむと、せっかくの湯種が「膨らまない原因」に見えてしまいます。1.5斤型で焼くなら、一次発酵を30℃で60分、二次発酵を36℃で50〜60分にして型の9分目まで、焼成は200℃で40分という組み方もあります。
つまずきやすい場所と、その直し方
- 湯種がだまになって粉っぽい。温度不足です。熱湯を粉の1.5〜2倍にし、ボウルを先に温める
- 型の半分までしか上がらない。湯種の割合が多すぎます。20%まで戻す
- もちもち感が弱い。湯種の休ませが短いのかもしれません。冷蔵で12時間おく
- 生地がべたついて成形できない。湯種の粉と熱湯を総量から引かずに上乗せした可能性が高い。粉250g、水200gの内側で組み直す
- 角が丸いまま焼き上がる。二次発酵が足りていません。3cm下に届くまで待つ
湯種食パンの手間は、前夜の5分と、翌日の待ち時間90分。その二つさえ守れば、あとはいつもの食パンです。焼けた翌日、冷めたまま切ってみてください。パン切り包丁がすっと入って、断面がしっとり光っていたら、20%の湯種はちゃんと仕事をしています。
参考情報源
- cotta:1斤型の湯種食パン配合と、発酵・焼成の温度と時間
- ママパン:1.5斤型の配合と工程。湯種は全粉の20%
- パン作りの教科書:糊化に必要な温度と、熱湯と粉を混ぜたときの温度計算
- 完全感覚ベイカー:湯種の割合と膨らみの関係、推奨される割合
- Carter’s Bakeshop:湯種に回す粉の標準と上限、休ませ時間
