切ってみたら、りんごの周りだけ生地が湿っている。底も少しべたついている。りんごのパンで一番よくある落胆です。
これは焼きが足りなかったのではなく、りんごが生地の中で水を出したせいです。果物を入れる失敗のほとんどは、この一点に集まります。逆に言えば、先に水分を飛ばしておけば防げる。この記事では、りんごの水分量から、紅玉という品種の選び方、下ごしらえの三つの道、生地への混ぜ込みと成形までを紹介します。

果物を入れる失敗の正体は、果汁が生地の外へ出ること
りんごの果汁は、切った瞬間から出はじめています。それを生地に混ぜて発酵させ、オーブンに入れると、加熱でさらに細胞がゆるんで水が押し出される。行き先は生地です。
果汁を吸った部分は、焼いても締まりません。りんごの周りだけ生っぽく、底が重くなる。しかも果汁が抜けたりんご自体は、味が薄くぼんやりします。生地もりんごも、両方が損をする。
だから下ごしらえの目的ははっきりしています。生地に入る前に、水を減らしておくこと。それだけです。
りんごは、重さの8割以上が水でできている
数字で見ると納得が早い。りんごの可食部100gあたりの水分は84.1gです。エネルギーは53kcal、炭水化物15.5g。ほとんど水と糖と繊維でできています。
中くらいのりんご1個を200gとすれば、そのうち約168gが水。生地に200g入れるというのは、コップ一杯近い水を後から足すのに近い。粉250gの生地なら、水分比は完全に別のレシピになります。
紅玉が菓子向きと言われる理由
10月に出はじめる紅玉は、パンや菓子と相性がいい品種です。180〜200gと小玉で、果皮が真っ赤に染まり、甘味より酸味が強い。香りもよく、甘酸っぱくて濃厚な味わいがあります。
大事なのは加熱したときの振る舞いで、火を通すと甘味と風味が増し、しかも煮崩れしにくい。だからアップルパイやタルトに向くと言われます。ジャムにするときもレモン汁をそれほど使わずに深みが出る、というのは酸がもともと十分にあるからです。
比べてみると、ふじは甘味があって酸味は少なめ、果肉はややかたく、重さは300〜400gと大きめ。旬は11月から12月頃で、完熟すると蜜が入りやすい。そのまま食べるならこちらが華やかですが、加熱して形と酸味を残したいなら紅玉のほうが素直です。
紅玉が手に入らない時期なら、酸味の強いものを選ぶ、と覚えておけば大きくは外しません。加熱すると酸は角が取れ、甘さだけが残ると味がぼやけます。

下ごしらえは三つ。どこまで水を飛ばすかで決める
| 下ごしらえ | 水分 | 向く使い方 |
|---|---|---|
| 生のまま角切り | 多い。焼成中に出てくる | 水気を拭き、粉をまぶして最後に混ぜる |
| バターで軽く炒める | 少し飛ぶ | 香ばしさが出る。フィリング向き |
| 砂糖とレモンで甘煮 | 狙って飛ばせる | 巻き込みや包みに安定 |
| ドライアップル | ほとんど無い | 仕込みから焼成まで時間が空くとき |
いちばん確実なのは甘煮です。あるレシピでは、りんごを縦4等分にして芯を取り、皮をむいて小さめの一口大に切り、砂糖とレモン汁を加えて10分ほどおく。それから中火にかけ、水分を飛ばしながら10分ほど煮ます。火を止めてからシナモンを少々。
シナモンを最後に入れるのは、長く煮ると香りが飛ぶからです。粗熱が取れて完全に冷めるまで待ってから生地に使います。温かいまま入れると、生地の温度が上がって発酵が走ります。
バターで炒める道と、生のまま使う道
もう少し軽く済ませたいなら、紅玉を角切りにしてバターで軽く炒める。煮るほど水は減りませんが、香ばしさが出て、生地に入れたときの存在感が違います。炒めたあと、ざるに上げて出た汁を切っておくとさらに安心です。
生のまま入れたい日もあります。しゃきっとした食感がほしいときです。その場合は、
- 1cm角に切って、表面の水気を軽く拭き取る
- 軽く小麦粉をまぶす。出てくる汁をその場で抱えてくれる
- こねの最後、生地がつながってから混ぜる。早く入れるほど潰れる
- 仕込んでから焼くまでの時間を短くする。長く置くほど水は出る
時間を置く前提のとき、たとえば冷蔵で一晩寝かせる作り方には、生のりんごは向きません。甘煮かドライアップルに替えたほうが結果が安定します。
生地への混ぜ込みと、包み方
参考になる配合として、強力粉160gに牛乳110cc、砂糖大さじ2、ドライイースト小さじ1、塩小さじ1/4、無塩バター20gという組み立てがあります。ここへ冷ました甘煮を合わせます。
混ぜ込むよりきれいに仕上がるのが、包む形です。生地を20cm×30cmほどにのばして縦半分に分け、片側に甘煮を広げ、もう片側に切り込みを入れてから折りたたんでかぶせる。上から見ると格子の間からりんごがのぞきます。
発酵は、一次が暖かい場所で2倍になるまで40分ほど、二次がひとまわり大きくなるまで30分ほど。焼成は180℃に予熱して15〜20分。室温が下がってくる時期の進み方は秋のパン作りを、温度そのものの考え方は季節別の発酵コントロール完全ガイドを参考にしてください。

水を先に減らせば、酸味は生地の中に残る
紅玉の酸味は、閉じ込めようとして閉じ込まるものではありません。果汁が外に出ていかないようにしてやれば、勝手に中に残る。やることは水を先に減らすことだけで、そのあとは生地とオーブンが仕事をします。
台所にシナモンとバターとりんごの匂いが立つ十分間は、10月のうちに一度は味わっておきたいものです。焼き上がりの底を指で押して、しっかり弾けば成功。切って、湯気と一緒に酸味が上がってきたら、それが紅玉です。
参考情報源
- 果物ナビ(紅玉):180〜200gという大きさ、酸味の強さと香り、加熱すると甘味と風味が増して煮崩れしにくいこと、菓子向きとされる理由
- 果物ナビ(ふじ):甘味があって酸味は少なめ、果肉はややかたい、300〜400gという大きさ、旬は11月から12月頃で蜜が入りやすいこと
- 果物ナビ(りんご 皮なし・生の栄養成分):可食部100gあたりの水分84.1g、53kcal、炭水化物15.5g
- DELISH KITCHEN(大きなりんごパン):砂糖とレモン汁で10分おいてから水分を飛ばしながら10分煮る甘煮、シナモンを最後に加えること、粉160gの生地配合、発酵時間、180℃15〜20分の焼成、格子状に包む成形
- きのすてパン:生のりんごを使うときに水気を拭き、1cm角に切って小麦粉をまぶす対策、投入のタイミング、時間を置く場合に甘煮やドライアップルを勧める理由、紅玉をバターで炒めるフィリング
