冬の朝、レシピどおり1時間置いたはずの生地が、ボウルの底でぺたんとしたまま動かない。
寒い季節のパン作りは、たいていここでつまずきます。粉も水もイーストも夏と同じなのに、膨らみだけが足りない。犯人はほぼひとつ、温度です。この記事では、室温が下がると発酵時間はどれくらい延びるのか、仕込み水でどこまで取り戻せるのか、そして冬だからこそ使える「遅さの活かし方」までを紹介します。
寒い部屋で、発酵時間はどれくらい延びるのか
発酵の速さを決めているのは、時計ではなく温度計です。イーストは冷たい場所でも働き続けますが、そのスピードは温度でまるで変わります。
目安としてよく言われるのが、生地の温度がおよそ8℃下がるごとに発酵時間は2倍、という考え方です。幅の取り方は書き手によって差があり、そこは諸説あると断っておきます。仮に27℃を基準にして、室温15℃の台所にそのまま置いたとすると、差は12℃。単純計算でおよそ3倍。1時間のはずの一次発酵が、3時間経ってもまだ、という事態になります。
ただ、現実の台所ではそこまで極端に延びないことも多い。発酵を決めているのは室温ではなく、生地そのものの温度だからです。仕込み水とこねる手の熱で、生地は室温よりずっと高いところからスタートできる。ここが、冬の巻き返しどころです。季節ごとの温度と湿度の考え方はパン発酵の温度・湿度|季節別で年中ちょうどよくにまとめています。
いちばん効くのは、仕込み水の温度を上げること
冬の対策で最初に手をつけるべきは、置き場所ではなく仕込み水です。目標にするのは捏ね上げ温度、つまりこね終わった直後の生地の温度で、26〜28℃、ソフト系なら27℃前後が目安になります。
そこから逆算する式が知られています。
- 仕込み水の温度=(目標の捏ね上げ温度-摩擦係数)×3-(室温+粉温)
- 摩擦係数は、こねで上がる分の温度。手ごねで0〜5℃、ミキサーなど機械ごねで5〜10℃
- 室温15℃・粉温15℃・手ごね摩擦3℃で27℃を狙うなら、(27-3)×3-(15+15)=42℃
- イーストは60℃を超えると死ぬので、余裕を見て45℃は超えないところで止める
- 迷ったら40℃前後のぬるま湯から。熱すぎるより、少しぬるいほうが立て直せる
見落としがちなのが粉温です。冬の粉袋は室温と同じか、置き場所によってはそれより冷たい。粉を測ったついでに温度計を袋に挿しておくと、計算がぐっと合うようになります。
暖かい場所は、道具がなくても作れる
生地を温かく始められたら、次はその温度を保つ番です。発酵器がなくても、台所にあるもので十分間に合います。
- オーブンの発酵機能を使うなら、一次発酵は25〜30℃、二次発酵は35〜40℃。冬は庫内が冷えているので、あらかじめ温めるか、表示の時間より長めに見る
- 湯せんなら、鍋に40〜50℃のお湯を張り、その上にボウルを乗せる。ボウルの底が湯に触れないようにするのが肝心。冷めたら入れ替える
- 発泡スチロールの箱に、生地のボウルと熱湯を入れたカップを一緒に入れる。20〜30分ごとにお湯を替え、必ず温度計を中に置く
- こたつを使う手もある。設定は弱めにして、ヒーターの真下を避けて隅に。30〜40分で様子を見る
- どの方法でも、乾燥がいちばんの敵。ラップをして、さらにポリ袋をかぶせておく
ぬるい湯気のこもった箱の中で、生地の表面がしっとりと張ってくる。冬にこれが見えたら、もう半分勝ちです。発酵器を持たない台所での作り方は発酵器なしで適温を作る7つの方法で細かく扱っています。
| 作り方 | 要点 | ねらう温度 |
|---|---|---|
| オーブンの発酵機能 | 冬は庫内が冷えている。予熱するか時間を長めに | 一次25〜30℃/二次35〜40℃ |
| 湯せん | ボウルの底を湯に触れさせない。冷めたら替える | 湯が40〜50℃ |
| 発泡スチロール箱 | 熱湯のカップを同居させ、20〜30分で入れ替え | 温度計を入れて確認 |
| こたつ | 弱めに設定し、ヒーターの真下を避けて隅に置く | 30〜40分で様子見 |
冬は「発酵が遅い季節」ではなく「時間を味方にできる季節」
ここまでは遅さを補正する話でした。でも冬の本当の面白さは、その遅さをそのまま設計に使えるところにあります。
まず、過発酵しにくい。夏はほんの30分目を離した隙にしぼんでしまう生地が、冬はちょうどいい状態のまま長く待っていてくれます。見極めの幅が広いというのは、初心者にとってかなり大きな安心です。
そして冷蔵発酵との相性がいい。3〜6℃の冷蔵庫で8〜24時間かけて進めるオーバーナイト法は、常温なら1〜2時間で終わる工程を、まるごと夜に預けてしまう考え方です。低温では酵母の動きが抑えられる一方で、有機酸やアルコールがゆっくり長い時間かけて生まれる。この差が、焼き上がりの香りの奥行きになります。
夜のうちに仕込んで冷蔵庫へ入れ、朝は成形と二次発酵だけ。寒い朝に台所へ立つ時間が短くて済むのも、冬向きの段取りです。ただし乾燥は禁物なので、密閉容器かラップでしっかり覆うこと。翌朝は冷えた生地を常温に戻してから成形すると、生地がよく伸びてくれます。
冬のパン作りでつまずきやすい場所と、その直し方
- 時間どおり置いたのに膨らまない。時間ではなく大きさで見る。元の2〜2.5倍になれば一次発酵の終わりの目安
- 表面がかさついて硬い膜になった。乾燥です。ラップの上からポリ袋をかぶせ、湿った熱源を近くに
- 仕込み水を熱くしすぎて膨らまなくなった。イーストが弱った可能性が高い。次は40℃前後から
- 底だけ熱くて上が冷たい。湯せんや発酵機能でありがち。生地を途中で向きごと入れ替えると揃う
- 冷蔵から出した生地が冷たいまま進まない。室温に戻してから成形と二次発酵に入る
- 冷蔵で置きすぎて酸っぱい匂いがする。8〜24時間の幅の、上のほうまで行きすぎている。次は早めに切り上げる
冬の生地は、こちらの都合では動いてくれません。そのかわり、待てば必ず応えてくれる。急かさずに温度だけ整えて、あとは時間に任せる。焼き上がりの香りが部屋に回るころには、外の寒さがちょっとありがたく思えてきます。
参考情報源
- THE SOURDOUGH JOURNEY:生地温度が8℃変わると発酵時間がおよそ2倍・半分になるという目安
- MocoMocoKitchen:捏ね上げ温度26〜28℃と仕込み水温の逆算式、摩擦係数とイーストの限界温度
- cotta:冬の一次・二次発酵の温度帯と、オーブン・発泡スチロールでの温度の作り方
- じゃぱん:こたつ・湯せん・発泡スチロールの温度と注意点、膨らみの目安
- 大正電機販売:オーバーナイト法の冷蔵温度帯・時間、風味が育つ理由と注意点
