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ラオスのカオチー(Khao Jee)— 「焼いたもち米」の名で呼ばれるバゲット。朝市のパテサンドと炭火の串もち米、ひとつの言葉がふたつの朝ごはんを指す

2026年10月28日 読了時間 約11分
ラオスのカオチー(Khao Jee)— 「焼いたもち米」の名で呼ばれるバゲット。朝市のパテサンドと炭火の串もち米、ひとつの言葉がふたつの朝ごはんを指す

夜明け前のルアンパバーン。ワット・マイ寺院の脇の路地に、野菜かごと七輪が並びはじめます。竹串に握りつけたもち米が炭火の上でじりじり音を立て、表面が乾いたところへ溶き卵がはけで塗られる。すぐ隣の屋台では、半分に裂いたバゲットにパテが厚く塗られ、豚肉と漬けものと香菜がはさまれていく。売り子の声は、どちらの屋台でも同じ言葉です。「カオチー」。

ラオ語の「カオ」は米、「チー」は焼く。カオチー(ເຂົ້າຈີ່)は直訳すれば「焼いた(もち)米」で、もともとは串に刺したもち米を火であぶる、ラオスの古い調理法の名前でした。ところが同じ言葉が、いまではフランス統治の名残であるバゲットそのものも指します。パンが入ってきたとき、ラオスの人はそれを「焼いた米」と呼んだのです。この記事では、ひとつの言葉が指すふたつの朝ごはんを、朝市の屋台の順に歩きながら紹介します。ベトナムのバインミーとの比較は以前の記事に譲り、ここではラオス側の話だけをします。

夜明けの屋台に積まれた、ラオスの短いバゲット(カオチー)
写真はイメージです(嬉兆制作)

ひとつめのカオチー。パンがラオスに来た日

バゲットがラオスに入ったのは、フランスの統治下(1893〜1954年)です。チュラロンコン大学に提出された2008年の修士論文「インドシナにおけるフランス文化の象徴としてのバゲット」によれば、パンを持ち込んだのはフランス人の支配層と、その家で働く使用人たち。最初は都市の上流層の食べものにとどまり、地方や貧しい層には広がりませんでした。それが1954年にフランスの支配が終わると、かえって地方の中間層へ広がっていった。材料も作り方も単純で、土地の食べ方に溶け込みやすかったからだ、と論文は書いています。いまでは町でも村でも、どの階層の人も食べる。そして大きな町では、パンのことを「カオチー・パテ」と呼ぶのがふつうになった、とも。

パンの名前がそのまま、サンドイッチの名前になった。ここがラオスらしいところです。

カオチー・パテの具。ジェオ・ボン、豚でんぶ、青パパイヤの漬けもの、きゅうり、香菜、ソーセージ
写真はイメージです(嬉兆制作)

カオチー・パテ。朝市のサンドイッチの中身

カオチー・パテ(ເຂົ້າຈີ່ປາເຕ)は、縦に裂いたバゲットに豚レバーのパテを厚く塗り、豚肉かラオスのソーセージ、薄切りの青パパイヤ、にんじん、エシャロットか玉ねぎ、きゅうり、香菜を詰め、好みで唐辛子のたれを足したものです。ルアンパバーンの食べ歩き案内は、ダラ市場の近くの屋台のものを「どっしりして目の詰まったバゲット」と形容し、中身を薄切り豚肉、細く切った卵焼き、甘い豚でんぶ、にんじんの漬けもの、きゅうり、スイートチリソース、香菜と書いています。

ここで目を引くのが、甘い豚でんぶ(ポークフロス)と、青パパイヤです。米国で育ったラオス系の料理家サエン・ドゥアンダラさんのレシピでは、青パパイヤを細く削いで、酢と塩と砂糖にひと晩漬けたものを使い、にんじんと大根の甘酢漬けの代わりにしています。さらにパテの上に、ジェオ・ボン(jeow bong)をマヨネーズと合わせたものを塗る。ジェオ・ボンはルアンパバーン生まれの唐辛子みそで、天日干しの唐辛子、ガランガル、にんにく、魚醤に、細く裂いた水牛(または豚)の皮を入れるのが特徴。甘くて辛くて、噛むと皮がこりこりします。ソーセージは、レモングラスとガランガル、こぶみかんの葉で香りをつけたルアンパバーンの「サイウア」。甘いでんぶ、酸っぱいパパイヤ、皮入りの辛みそ、ハーブのソーセージ。パンの中身がすべてラオスの台所の言葉でできています。

サエンさんは家で焼くバゲットの生地に、もち米粉を水で練って火を通した糊を混ぜます。強力粉500gに対してもち米粉80g。これで中身に餅のような引きが出て、油を少し加えることで皮がぱりっとする、と説明しています。これはあくまで一人の料理家の工夫ですが、「パンにまでもち米を入れたくなる」というところに、もち米がラオスの食事の芯であることがよく表れています。

竹串に握りつけ、卵を塗って炭火で焼く、もち米のカオチー
写真はイメージです(嬉兆制作)

ふたつめのカオチー。串に握りつけたもち米

パン屋台の隣で焼かれているのが、本来のカオチーです。蒸したもち米を平たく握るか、長い竹串に巻きつけ、炭火の上で返しながらあぶる。串が長いのは、手を火から遠ざけるため。外はかりっと香ばしく、中は熱くてもちもち。いちばん多いのは、あぶった表面に溶き卵を塗ってもう一度焼く「カオチー・チュム・カイ(卵にくぐらせた焼きもち米)」です。卵には魚醤やにんにくを混ぜることもあり、塩だけを振ったものや、発酵魚醤パデークをまぶしたものもあります。

ルアンパバーンの朝市を歩いた旅行記では、1本5,000キープ(当時のレートで0.6米ドルほど)、2本で5,000キープ、と売り子が値段を変えながら呼び込み、パデークで作った唐辛子のたれが添えられていました。市場の商人は日の出前から店を開け、ラオスの人は朝4時にはもう市場にいることも珍しくないそうです。

この焼きもち米には、信仰の顔もあります。2月ごろ、満月の仏教行事マカブーサに合わせて「ブン・カオチー(焼きもち米の祭り)」が開かれ、朝、寺で卵を塗った焼きもち米を僧侶に寄進します。夕方には、ろうそくを手にした人びとが寺のまわりを巡る。貧しい女性が自分の食べるぶんしかなかったカオチーを仏陀に差し出した、という古い説話がこの行事の由来として語られています。タイ東北部イサーンのラオ系の人びとのあいだでも同じ祭りが続いていて、1980年代に100万人以上がイサーンからバンコクへ移り住んだことで、カオチーはタイ全土に広がりました。

バゲットのカオチー(カオチー・パテ) 串もち米のカオチー
名前の意味 「焼いた米」の名をパンに転用 文字どおり「焼いたもち米」
主な材料 小麦のバゲット、豚レバーのパテ、豚でんぶ、青パパイヤ、香菜 蒸したもち米、卵、塩、魚醤
火 パン屋のオーブン。屋台で炭火にあぶり直すことも 炭火の上で串を返す
食べる時間 朝市から昼前まで。夜市でも 朝市。2月のブン・カオチーでは寺へ寄進
相棒 練乳入りのラオスコーヒー パデーク入りの唐辛子のたれ

日本の家庭での活かし方

ふたつのカオチーは、どちらも日本の台所で無理なく再現できます。順に書きます。

バゲットのほうは、パンを焼くところから始めなくてかまいません。買ってきたバゲットを魚焼きグリルかトースターで表面だけ温め直すと、屋台で炭火にあぶり直したときの香ばしさに近づきます。自分で焼くなら、ポーリッシュでバゲットの生地に、強力粉の15%ほどをもち粉(白玉粉でも可)に置き換えてみてください。白玉粉は同量の水で練ってから、弱火で透き通るまで加熱し、完全に冷ましてから生地に混ぜます。熱いまま入れるとイーストが弱るので、ここだけは待つこと。中身は、市販のレバーパテに、きゅうりの薄切り、香菜、大根とにんじんの甘酢漬け。青パパイヤの代わりには、塩もみした大根を酢と砂糖に漬けたものがいちばん近い。甘い豚でんぶは、日本なら魚の田麩か、砂糖と醤油で甘めに炒りつけた鶏そぼろで代わりになります。ジェオ・ボンは手に入りにくいので、編集部としては、粗びきの韓国唐辛子ににんにくのすりおろし、ナンプラー、砂糖を合わせて弱火で水分を飛ばしたものを、マヨネーズと1対1で混ぜて代用しています。皮のこりこりはあきらめて、甘辛さだけを借りる形です。

串もち米のほうは、残ったおこわや、炊飯器のもち米モードで炊いたもち米で作れます。茶碗半分ほどを手水をつけて平たい小判形に握り、魚焼きグリルの弱火で両面を5分ずつ、表面が乾いてうっすら色づくまで焼きます。溶き卵1個にナンプラー小さじ1/2とにんにく少々を混ぜたものをはけで塗り、さらに両面2分ずつ。串に巻きつけるなら、水に浸した竹串に握りつけてから焼きますが、家庭ではフライパンに油を薄く引いて焼いてもじゅうぶんです。卵は一度に厚く塗らず、薄く2回に分けると、はがれずにきれいな黄金色になります。

つまずきやすいのは、もち米が串からはがれる、卵がフライパンにくっつく、の2つ。どちらも、もち米の表面を先にしっかり乾かしてから卵を塗れば防げます。パンのほうは、具の水気。漬けものはざるで水を切り、きゅうりは焼く直前に入れるのが、ぱりっとしたまま食べるこつです。

嬉兆からのひと工夫

ラオスの朝市でカオチー・パテに添えられるのは、布の濾し袋で濃く淹れ、グラスの底に練乳を沈めたラオスコーヒーです。日本なら、深煎りの豆を濃いめに落として、練乳を小さじ1だけ沈めてみてください。パテの脂と甘いコーヒーがよく合います。

もち米のカオチーは、焼きおにぎりの親戚だと思えば身近です。醤油の代わりに卵と魚醤。それだけで、メコン川の朝の匂いがします。同じ東南アジアの炭火のパンでは、タイのサンカヤトーストも紹介しました。炭火で焼いたパンを甘いものに合わせる、という発想も、この地域に共通しています。

参考にした情報源

  • Wikipedia「Khao jee」: https://en.wikipedia.org/wiki/Khao_jee
  • Wikipedia「Khao jee pâté」: https://en.wikipedia.org/wiki/Khao_jee_p%C3%A2t%C3%A9
  • Somkiethisack Kingsada「Baguette as a symbol of French culture in Indochina」(チュラロンコン大学 修士論文, 2008): https://digital.car.chula.ac.th/chulaetd/18116
  • Saeng’s Kitchen「Lao Sandwich | Khao Jee Pâté」: https://www.saengskitchen.com/laorecipes/khaojeepate
  • Champa Meuanglao「A street food gourmet guide to Luang Prabang」: https://champameuanglao.com/?p=9042
カテゴリ 世界のパンニュース
国・地域 その他
テーマ 文化と伝統をたどる
タグ ラオス

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